「"話し合う"ということと幸福の関係」【Hapinnovation Lab Letter Vol.11】

Hapinnovation Lab(ハピノベーション・ラヴ)のベイタ博⼠とハピノ研究員が、皆さまからいただく様々な質問に答えていきます。連載第11回目はどのような展開になるか?!
ベイタ博⼠:
さて、今回のテーマは、暮れのHapinnovation Labの忘年会で出た“話し合う”ということじゃったのう!
それにしても、忘年会は楽しかったのぉ︕メイさんの⼀声で、かくも多くの⼈が揃うとは、流⽯じゃな。
さらに、宴会部⻑の洒落さんのお店のチョイスがこれまたたまらんのう!セブンさんの席替えの仕切りも流⽯だった!おかげで、わしゃあ、久々に合コンに出席したみたいな気になったワイ。
そうそう、洒落さんは、たまには研究会にも出て来ておくれな!
ハピノ研究員:
ベイタ博⼠!関⼼ばかりしてないでくださいな。今回は、”話し合う“ということと幸福についてです。
先⽉のスポーツジム話しやら合コン話しやら、最近のベイタ博⼠は、横道に逸れすぎです。

さて、今回のテーマのことで、いつも関⻄から参加していただいているウエさんから質問がきていますので、まず、ウエさんにお話しを伺いましょう。
ウエ:
ハピノさん、どうもありがとうございます。
うちの会社は、規模も⼤きく、いろいろな考えを持った⼈が働いています。そのため、まとめるのが凄く⼤変です。
その結果、組織全体が会議というと、“話し合う”というよりは、落としどころを先に決めて議論しているようなところがあります。むしろ上層部の意向を追認するだけの、いわゆる「アリバイづくり」の場を会議と呼んでいる風潮があります。

実は、上層部もこの状況に危機感を持っており、ある役員には、「君たちは、僕たち役員の考えていること以上のことを提案できないのか?⼀体全体、どんな会議をやっているのだ?」といった厳しい指摘をされてしまっています。

なんとか参加者が主体性を持った“話し合い”ができる場にしたいと願っているのですが・・・。
うまい⽅法が知りたくて、なにかヒントをもらえないかと思い研究会に参加しています。
ベイタ博⼠:
ウエさんが、遠くから参加してくれていることは知っておったが、そういう課題を持っていたんじゃな。
最近、わし⾃⾝も顧問先で“会議がうまく機能しない”ということをよく聞くんじゃ。
詳しく話を聞くと、会議はしている、それも以前に⽐べて多くの会社で会議は増えているようなんじゃな。
しかしな、その会議が、⼀⽅的な伝達ばかりじゃというんじゃよ。これだけ、ICT(※1) が発達しているのに関わらず、伝達の会議が増えているのはどういうことじゃろうなぁ?

そもそも企業は、何で会議を必要とするのじゃろう。そこをしっかりと考えなければならないのう。
もちろん伝達ということも必要じゃろうが、企業内の会議の場は、意⾒のすり合わせの場であり、助け合うための調整の場であり、それはベクトルを1つにするための重要な⾏為じゃ。そして、問題解決の場でもある。会社に起こっている問題を皆で理解し、解決するための知恵を出し合う場じゃな。

最近は、こういう課題が出ると、すぐに“会議の進め⽅”といったハウツーを欲しがる傾向があるが、“Hapi̲Lab”では、そういう捉え⽅はしたくないのお。
話し合うことの持つ意味をしっかりと噛みしめたいのじゃ。
実は、わしゃあの、会議という⾔葉や議論という⾔葉はあまり好かんのじゃ。
わしたちに必要なのは、「おしゃべり」や「対話」だと考えているんじゃ。

確かハピノは、「対話」についてよく研修をやっていたな。ここで「対話」のことについて解説をしておくれ。
ハピノ研究員:
はい、ベイタ博⼠!お任せください。ではまず、ベイタ、あっ違います“ベタ”なところからご説明しますね。

(ベイタ博⼠の独り⾔・・・うん、最近のハピノは随分とおやじギャグを⾔うようになったのう、良いことじゃ!)

まず、⼀⾔で“話し合い”といっても、「会話」「対話」「議論」など、いくつかの⾔葉があります。これらをどういう意味で使っているかを整理してみましょう。

「会話(conversation)」は、⼈間関係を良好に保つためには⽋かせない⽇常の中で⾃然にやりとりをするものです。2⼈あるいは⼩⼈数でする「おしゃべり」に近く、有益な情報が得られ、話がはずめば楽しいものです。

そして、「対話」というと、単なるおしゃべりよりもきちんと向かいあって話すイメージですね!英語では、ダイアログ(dialogue)という⾔葉がよく使われています。
ダイアログという⾔葉の語源は、ギリシア語の dialogos だそうですが、「dia(横切って)、 logue (話す)」という意味だそうです。「1対1のダイアログ」もあれば、「何⼈ものダイアログ」もあります。
最近では、このダイアログをベースにして、企業内外で多様な利害関係者が話し合う技法としてホールシステムアプローチ (※2)という⼿法が開発されています。ワールドカフェ(※3)やフューチャーサーチ(※4)、OST(※5)などが使われています。

「議論(discussion)」は、⾃分の説を述べ論じ合うこと、意⾒を戦わせること。英語のディスカッションの語源には、「物事を壊す」という意味があるそうで、分析し、解体する、創造的かつ建設的な議論からいろいろなものが⽣まれると⾔われています。

私は、ベイタ博⼠同様、改めて「対話(ダイアログ)」を重視するべきではないかと考えています。というのは、昨今は、経営活動のスピードがあがっている中で、悠⻑に話し合うことが難しくなっており、その結果として、ウエさんがおっやるような状態が発⽣してしまっているように感ずるからです。
オコタ:
ハピノ先⽣、ちょっと⼝を挟んで良いですか?年明けのEテレで「⽩熱教室!幸福学」(※6)が放映されていましたが、そのなかで、ロバート・ビスワス=ディーナー博⼠が、「⼈と良いつながりを築ける⼈は幸福度が⾼い」と⾔っていました。
今回のテーマに近づけて⾔うならば、「よい“話し合い”ができて、よいつながりを築けるならば幸福度が⾼まる」ということですか?
ハピノ研究員:
あら、オコタさん、鋭いわねぇ~。そうなのよね、話し合うことは、⼈とのつながりを築くことの第⼀歩ですから。幸福という点で実に⼤切よね。

私が「対話」に注目しているのは、“お互いの「前提の理解」を⼤切にする”ということと、「対話」を通じて、“⼼理的な社会的経験”を積むことができるということです。
前者は、⼀緒に働く仲間の意⾒の背後にある考え⽅を理解することです。後者は、オコタさんのいうこと、つまり幸福ということと実に密接な関係を持ちます。
社会的経験というのは、共働体験、つまり協⼒し合って何かを成すような体験のことを指しますが、⼈は、この社会的経験に対し、⾼い幸福感を感ずるのです。
そして、「対話」の真骨頂は、話し合う中で、この社会的経験に到達することができるという点にあるのです。
ウエ:
ハピノ先⽣!ありがとうございます。

(オコタ︓そうなんだ、社会的経験なんだ!)

「会話」「対話」「議論」の3つの違いがよく分かってきました。すごく「対話」に興味がわきます。うちに⽋けているのは、この「対話」のような気がします。
「対話」は、どのような進め⽅をすれば良いのですか?
ハピノ研究員:
はいウエさん、分かりました︕対話の意味をもう少し深くご理解いただくためのお話しをさせていただきますね。

たとえば、数⼈で「最近、仕事ってなんだろうと考えてしまうんだよね」という「会話」を始めたとします。そして、それをきっかけに、「仕事ってなんだろう?そもそも仕事の意味ってなに?」といった「対話」に進みます。この⼿のテーマでは、皆、何かしらの持論を持っているわけですから、持論を披露するわけです。
そして、皆で“ああでもない、こうでもない”と話し合っているうちに、「なるほど」「それは良い視点だ」という皆が納得するような新たな考えかたが⾶び出してきます。それが「対話」なのです。
すぐに結論が⾶び出してくるわけではありません。何回か「対話」を繰り返していくなかで、⼀⼈ひとりが、相互の意⾒の違いの中から何かを発⾒していく、あるいは新しい共通の意味を⾒出していくというプロセスが⽣まれます。
これこそが、まさに「対話」なのです。

この、それぞれが⾃分にとっての意味を発⾒するということが⼤切です。
⼀⽅的に説明されたのと、⾃ら考えて発⾒したのでは、腹落ちが違います。⼈は⾃ら参加しないものには納得がなかなかできません。納得すれば決意して⾏動しようとします。
つまり、腹に落とすためには参加が重要なのです。⾃分で考える、みんなで⼀緒に考えるプロセスが納得を⽣みます。⼀緒に創るというプロセスが⼤事なのです。
これは、まさに社会的経験で、幸福感の向上にも繋がるのです。
ベイタ博⼠:
どうじゃ、ウエさん、理解は深まったかな?ハピノや、ありがとう!

ここで「対話」を進めるにあたって注意しないといけないことをわしから伝えよう。
まず、理解して欲しいのは、最初にも触れたが、対話はハウツー的なスキルではないということじゃ。態度・姿勢じゃな。 だからして、1.偏⾒をもたない、2.⾃分の意⾒を押し付けない、3.相⼿の話によく⽿を傾ける、ということが⼤切じゃ。習慣にしなけりゃいかんぞ!
話し合いのときだけ良い⼈ぶっても駄目じゃからな!

そのうえで、対話だけが⼤切なわけではなく、やはり、議論も必要じゃな。しかしな、今回特に理解して欲しいことは、対話という前提を踏まえずに議論をすると、結局は押しつけになり、ウエさんの会社のような会議になってしまうんじゃ。

そこでな、対話を⼤切にすると共に、議論の際には、1.話しあう「内容」(コンテンツ)、2.話し合いの合理的な「進め⽅」(タスクプロセス)、3.話し合いの情的「進め⽅」(メンテナンスプロセス)、3つを⼤切にしてみてはいかがかな。

これは、組織づくりや職場づくりに有効な、組織開発(OD)で重視されていることなのじゃ。特に⼤切なのは、3.の話し合いの情的「進め⽅」の部分じゃ。
これは、話し合っているプロセスで、⼀⼈ひとりがどのような感情を抱いているのか、あるいはどんな前提で意⾒を⾔っているのか・・・というようなことになるのじゃが、そこを相互に尊重しあうことで、対話的な議論、つまり率直で深い話し合いになるんじゃ。


さてさて、次回はいよいよ最終回じゃ。テーマはどうするのじゃったかな・・・ハピノや。
ハピノ研究員:
そう、もう最後ですね・・・、寂しいですわ。もっと続けたいものですね・・・。そういっても約束ですから仕⽅ありません。

さて、最終回は、オコタさんの提案で、皆さんが振り返り講義をしてくださるそうです。
第1回から11回までの総集編ということになるのかしら・・・。
ベイタ博⼠:
⾯⽩そうじゃのう。
そうそう、⾃分は新参者ですから・・・っと、発⾔を控えておったジュリーにも
振り返りはお願いしようかの・・・。

参考書籍

「対話する⼒」中野⺠夫/堀公俊(著)
「ワールド・カフェ〜カフェ的会話が未来を創る〜」アニータ ブラウン他 (著), ⾹取 ⼀昭 / 川⼝ ⼤輔
(※1)ICT︓Information and Communication Technologyの略。情報通信におけるコミュニケーションの重要性をより⼀層明確化することを主眼として「IT」を「ICT」の表現に置き換えている。
(※2)ホールシステムアプローチ︓ できるだけ多くの関係者が集まって⾃分たちの課題や目指したい未来について話し合う会議⼿法の総称。ワールドカフェやOSTなどもこのホールシステムアプローチの⼿法の1つである。
(※3)ワールドカフェ︓Juanita Brown(アニータ・ブラウン)⽒とDavid Isaacs(デイビッド・アイザックス)⽒によって、1995年に開発・提唱された、カフェにある空間で知識や考え⽅を共有し、相互理解を深めるコミュニケーション技法。
(※4)フューチャーサーチ︓ Marvin Weisbord(マーヴィン・ワイスボード)⽒とSandra Janoff(サンドラ・ジャノフ)⽒によって開発された会議の⼿法。利害関係者を集め、過去・現在・未来についてのダイアログを⾏い、参加者全員が納得できる共通の価値の発⾒と、その実現のためのビジョン、実⾏計画、実⾏チームづくりまでを⾏います。
(※5)OST︓オープンシステムテクノロジーチ︓Harrison Owen(ハリソン・オーエン)⽒によって1985年に開発された会議の⼿法。参加者が解決したい課題や議論したい課題を⾃ら提案し、参加者が納得できる合意に到達することを⼤切にする。個⼈や組織の持つ⾃⼰組織化能⼒を活⽤することを重視している。
(※6)⽩熱教室 幸福学︓ NHK Eテレ(旧 教育番組)で、2014年1⽉3⽇より、毎週⾦曜⽇に5回にわたって放映された。