「⽇本⼈は幸福度が本当に低いのか」〜幸福と経済の関係〜【Hapinnovation Lab Letter Vol.2】

Hapinnovation Lab(ハピノベーション・ラヴ)のベイタ博⼠とハピノ研究員が、皆さまからいただく様々な質問に答えていきます。連載第2回目はどのような展開になるか?!
ベイタ博⼠:
さて、今回のテーマは、ハピノベーションラヴ⼀番の酒豪という噂のメイさんが興味を持っている「⽇本⼈の幸福度」ということをテーマにしたいのじゃが・・・。
メイ:
そうよ、ちょっと失礼よね!幸福度の調査で、何で⽇本がこんなに幸福度の低い国⺠にされなくされなくちゃいけないのかしら?

私は、仕事でニューヨーク・ミラノ・ロンドン・ボンベイ・タイペイに住んだけど、⽇本⼈の幸福度が低いという結果には、納得いかないのよ・・・。
ベイタ博⼠:
それじゃあ、まずハピノから、メイさんが⾔った幸福度の調査についての解説をしてもらおうかの。
ハピノ研究員:
では「国際的に実施された幸福度調査」についてご紹介させていただくことで⽇本⼈の幸福度に関する傾向をご説明しましょう。

以下に幸福度調査の代表的なものをご紹介します。
(1) 経済協⼒開発機構(OECD)が実施する「より良い暮らし指標 (Better Life Index) 」。
    2012年実施
    ⽇本は、36ケ国中21位。

(2) エラスムス⼤学の幸福度調査(オランダ。World Database of Happinessを⽤いた調査)。
    2011年実施
    ⽇本は、調査国中46位。

(3) フォーブス誌が2010年に発表したギャラップ社の2005〜2009年の幸福度調査。
    ⽇本は、調査国中81位。

(4) ミシガン⼤学社会調査研究所による幸福度調査。2008年実施
    ⽇本は、調査国中43位。

(5) 英国レスター⼤学の社会⼼理分析の幸福度調査。2006年実施
    ⽇本は、調査国中90位。

(6) 世界価値観調査協会による世界価値観調査(World Value Survey)。
    2000年の幸福度の平均値は60カ国中35位。

※ 各調査の詳細はこちらからご覧いただけます。(PDFファイルが開きます)
表⽰されない場合は、ページ下部にあるボタンから「Adobe Reader」をご使⽤のパソコンへインストールしてください。

いかがでしょうか?
⽂化的背景の違いなどもあるため、順位だけで⽇本の幸福度が⾼い、あるいは低いということを判断することはできません。また、短絡的に結論を出してはならない事柄だと私は考えています。

そうは⾔いましても、メイさんの気持ちも分かります。メイさんが悔しがっているのは、これらの調査結果は、⽇本⼈は幸福度が⾼いとは⾔えない点にあるのだろうと思います。

メイ:
そうなの、それが悔しいのっ!

私達の⽗や⺟の世代は、⾝を粉にして働き、⽇本を世界有数の経済⼤国にしてくれたの・・・。そして、私達に勤勉さという美徳を伝えてくれたの!

その結果、私達の所得⽔準は確かに⾼いはずよね。また、世界を渡り歩いてきた私にとって、⽇本は、治安上の⼼配も無いし、教育⽔準も⾼いし、凄く⼀⽣懸命働くと感ずることがとても多いの。

平均寿命だって世界トップよねぇ。
それなのになぜ幸福度が低いのかしら︖実感にまったくあわないのよ!
ハピノ研究員:
メイさんは、情熱と冷静な分析が同居している⼈ですね。少し⾔葉を⾜させてください。

このような調査というのは、調査したい対象を何個かの要因に分け、それを合成し総合的な順位を出しています。
たとえば、前出のOECDのBetter Life Indexでは、幸福度を住宅・収⼊・雇⽤等々の11分野、そして分野の中に複数の指標を設け、合計22指標で幸福度を算出しています。

今、メイさんの指摘されたものは、OECDの調査では確かに上位に⼊っているものばかりです。平均寿命、殺⼈事件発⽣率・暴⾏事件発⽣率、学⽣能⼒、世帯⾦融資産などは、世界でもトップレベルにあります。
しかし、⾃⼰申告健康度は36位、ワークライフバランスを構成する⾃由時間と⻑時間労働者割合は35位、住宅設備31位、⽣活満⾜度27位となってしまっています。

つまり、幸福度というのは、幸福度を構成すると考えられている複数の指標を合成して出している数値であり、その結果、⽇本⼈の幸福感は必ずしも⾼くないという調査結果になっているのです。
メイ:
ちょっと考えさせられちゃうわねぇ。

私は、もっと経済⼒、つまり所得というものが幸福度に強い影響⼒を持っていると思っていたのだけど・・・。
ベイタ博⼠:
確かに、⾼度成⻑期という時代は、物質的・経済的豊かさを追い求めることで、⼈々は幸福になるという前提で皆が⼀⽣懸命になったわけじゃ。
だからして、⽇本⼈の中に幸福と所得には強い相関があると考えても無理からぬところがあるんじゃな。

幸福と経済の関係についての知⾒は、幸福というものを考えていくうえで⽋くべからざるものなので、もう少し丁寧な解説を加えておこうかのう・・・。
ハピノ研究員:
では、私から。
経済成⻑が⼈々の幸せに結びついていないというのは、⽇本だけではなく、先進国全般に⾔えることなのです。先進国では、確かに物質的・経済的な豊かさは満たされましたが、決して幸福感が⾼まったわけではありません。

たとえば、私達の⽇本では、戦後⼤きく経済⼒を伸ばし、所得も⼤きく伸びています。しかし、⽣活への満⾜⽔準はそれほど上がっていないのです。

このような現象について、1974年に南カリフォルニア⼤学で経済学を教えるイースターリン教授(Richard A. Easterlin)が、幸福度と所得との関係について以下のような説明を⾏いました。


「国内だけで⾒ると、所得と幸福度の間には正の相関が認められる。
しかし、国際間の⽐較では、国の所得⽔準と幸福度の間には相関が認められない」

これが「幸福のパラドクス」とか「イースターリンのパラドクス」と呼ばれているものです。

メイ:
そう⾔われると、周囲を⾒渡しても、確かに、お⾦持ちだから幸福ですねと簡単には⾔えないわね。
その逆もあるし・・・。
ベイタ博⼠:
個⼈の実感でも“所得が多ければ多いほど幸福である”とはならんのじゃ。
このあたりに⼈が感ずる幸福感についてのカラクリが潜んでいるんじゃ。
なので、もう少し詳しく幸福のパラドクスについて話しておこう。

今、研究者の間で幸福のパラドクスの解釈の通説となっているのは、以下通りじゃ。
第1要因:⽣活⽔準が向上すると、⼈は、⽔準ではなく、どのような⽣活の仕⽅をしているのかという質的側⾯に興味を向かせ、⽣活⽔準による幸福感の割合が減少する。

第2要因:所得満⾜度は、相対基準によって感ずる。絶対基準が存在しないために、主に⾝近な⼈との所得差によって感ずる傾向が強い。

第3要因:⼈は、満⾜⽔準が徐々に向上する傾向を持っており、従来と同じ⽔準では幸福感を感ずることができなくなる。


どうじゃろうメイさん。少し理解は深まったかな?

メイ:
はい、幸福度というのは、所得あるいは経済も影響するのだけど、それは非常に限定的な範囲でしかないということですね。それは⼗分理解できます。

けれど、経済的なことだけではないとすると、他にどんなことが影響しているのか、それを知りたくなりました。
ベイタ博⼠:
さすがメイさんはポジティブじゃのう、良いことじゃ。

では、次回は、「主観的幸福感を構成する主な項目」ということを考えてみようかのう・・・。
メイさんの疑問にも答えられるし、確かセブン君も興味を持っていたテーマじゃな。