「職場における関わりあいと幸福」【Hapinnovation Lab Letter Vol.10】

Hapinnovation Lab(ハピノベーション・ラヴ)のベイタ博⼠とハピノ研究員が、皆さまからいただく様々な質問に答えていきます。連載第10回目はどのような展開になるか?!
ベイタ博⼠:
いやぁ、今更じゃが、皆さん良い年を迎えられたかの?今年も良い年にしたいものじゃのう!

さて、毎年、年が明けると今年こそと希望に満ちた目標を⽴てているのじゃが、実は恥ずかしながら⻑続きしたためしがないんじゃよ!だがのう、今年のわしは違うぞ・・・。

数年前の健康診断でメタボと⾔われてのう、それから⾷事などに気をつけておったのじゃが、なかなか胴回りが減らん。どうしたものかと思案してな、昨年末にスポーツジムに⼊ったんじゃ。
いやな、このジムがなかなか⾯⽩いことをやっておるのじゃ。それはな、会員同⼠を仲間にしたダイエットサークルをいくつも作っているんじゃ。
⾯⽩いことに、⾃分の体重だけではなく、サークル仲間との合計体重や理想的な減り⽅をしている⼈の推移もグラフにしてくれるんじゃ。⾯⽩いじゃろ~。
ハピノ研究員:
皆さん、そしてベイタ博⼠、今年もよろしくお願いします。

年末以来、ベイタ博⼠がスポーツバッグを持って、コソコソとどちらかにお出かけされる姿を何度かお⾒かけしていましたが、そういうわけだったんですね。
けれど、博⼠、本当にそれだけですか、もっと楽しい何かがあるのではないのですか?
ベイタ博⼠:
何じゃ、わしゃ、コソコソなどしとらんぞ!だが、さすがハピノじゃのう、実はもっと楽しいことがあるんじゃ。

わしが⼊ったダイエットサークルは、ウィークエンドはジムではなく、都内の散策ウォーキングや皇居ランを楽しもうというサークルなのじゃ。
ダイエットありきではなく、⾝体を動かすことの楽しさや効能、そしてその目標となる指標をいくつも紹介してくれるんじゃ。
わしゃ、どうせダイエットするのに⾝体を動かすのならば、楽しみながら、そしてゴルフの腕前や柔軟性の⾼まることをやりたいと思っていたんじゃ。
ハル:
イヤイヤそれだけじゃないでしょ・・・、綺麗なご婦⼈がいらっしゃるのではないのですか、博⼠?
少しよそ⾏きの話しばかりじゃないですか、ホントウは“ ・・・!? ”でしょ!(笑)。
ベイタ博⼠:
何じゃ、ハルさん、藪から棒に(汗)!
わしゃ、今、ありがたいマネジメントの話をしようとしているのじゃぞ・・・(笑)。もう少し聞かんかいな!

つまりじゃ、そのジムでは、“目標を⽴てればそれで良し”というようなおざなりのことをしていないのじゃ。目標と共にプロセスの設計があるんじゃ。それもわしの好み(散策やゴルフ、柔軟性・・・)にあわせての。
しかも、⼀緒に取組む仲間がいて、目標と活動を共有する⼀体感を感ずるんじゃ。たかがダイエットで、目標と活動を⼀緒にする仲間がいることで、ここまで前向きになれるとは思っておらんかったわい。

そのうえで少しのプラスアルファがあるのじゃ。あくまでプラスアルファの周辺的価値じゃぞ・・・。ここだけの話しじゃが、実はわしの初恋の⼈に似た雰囲気の⼥性メンバーがいてのう・・・、なんか頑張れそうなんじゃ。

さて、今回のテーマは「職場における関わりあいと幸福」じゃったのう。これは、そうそうハルさんからの質問じゃったな。
ハル:
待っていました、ベイタ博⼠!
うちは、化学品の部材や部品を扱う製造業なのですが、ここ数年、製造現場で⼩さなミスがよく起こるようになってきているのです。幸い⼤事にいたる前に防げているものの、⼀向に減らないことと、原因が掴めていないことが⼼配なのです。

先だって、仲間と⼀緒にミスが増え始めた時期やミスの内容などを調べたのですが、製造品種が増えることでミスが増えていることが分かりました。ミスの内容は、もう少し丁寧にコミュニケーションをしていれば防げるようなものばかりなのです。
その結果、品種増加によって、忙しくなり、コミュニケーションが減ったために起こっているのだから、コミュニケーションを良くしよう・・・みたいな雰囲気になってきたのですが、私には、どうも違和感があります。
雰囲気に⽔を差すようなのですが、コミュニケーションをよくすればミスが減るという確信が持てません。
ベイタ博⼠:
なるほど、ハルさんは鋭いのぉ。そういう違和感は実に⼤切じゃ。
ハルさんの第六感がアラームを鳴らしているんじゃ。違和感を感ずるときには徹底して考える必要があるのじゃよ。
どうじゃ、ハルさんの会社は、会議や⼩集団活動などは活性化しているかな?
ハル:
そうなのです、最近は会議でも余り意⾒が出ず、伝達のような会議ばかりなのです。
それもあって、コミュニケーションがクローズアップされたのです。
ハピノ研究員:
興味深い話ですね。少し私にも質問させていただいてよろしいかしら・・・。
ハルさんの会社では、目標や作業について皆で⼀緒に考える場や調整する場はありますか?
目標による管理制度(MBO)を導⼊されているという話しは以前にお聞きしましたが、その目標はどんな風に設定されていますか?
あと、QCサークルや⼩集団活動のような、皆で⼀緒に問題解決をする場はあるかしら?
ハル:
忙しいこともあり、“まずは⾃分の役割をしっかりと果たそう”ということになり、現状は、⼀緒になって問題解決を⾏う場というのは持てていません。
あと目標の設定ですが、きちんと⼯場⻑が目標を⽰し、部⻑、課⻑が目標を⽰したうえで、各⼈に目標設定をしてもらい、そのうえで、上司と部下で目標設定の⾯談を⾏っています。これは、⾃慢じゃないですがキッチリと⾏われている会社だと思います。
ハピノ研究員:
そうだろうと思いましたわ。(ベイタ博⼠:「そうじゃろうな」)。

アラッ、被りましたね、博⼠。では、私の⽅で続けさせていただきます。少し失礼なことを申し上げてしまいますが、どうも助け合うような風⼟が消えかかっているようですね。まずは⾃分の役割を果たすということが、逆に作⽤し
ているようです。
忙しいときこそ、助け合うことが重要なのに、逆のことをやってしまっているようですね-これって企業では多い勘違いなのです。「ミスを出さないために、⼀⼈ひとりしっかりしよう」という考え⽅は良く分かりますし、その通りです。

しかし、本当に⼤切なのは、品種増加、あるいは増産だからこそ、皆で助けあう⾏動、カバーしあう⾏動を考え、実⾏することなのです。
これは目標設定でも同じことです。目標を合理的に個⼈に割り振るのではなく、目標を達成するために、どのように協⼒し合うのかということを考えるのが目標設定という意味なのです。
ベイタ博⼠:
企業の中では、こういう素朴で当たり前のことが忘れ去られてしまうんじゃな・・・。

ハピノや、向社会的⾏動の話しをしてみてはどうかな︖単に助け合うということだけでは、ハルさんの問題解決に繋がらないじゃろうから・・・。
ハピノ研究員:
分かりました。私もお話したいと思っていたところです。

今、博⼠の⾔った向社会的⾏動というのは、「他⼈を助けることや他⼈に対して積極的な態度を⽰す⾏動のこと」を⾔います。
⼈は環境の動物と⾔われますが、ある⼼理的な要素が満たされると、⼈は向社会的⾏動をとるということが分かっています。この向社会的⾏動の中で、所属する組織のために、⾃分の役割を越えて⾃然にとる活動を「組織シチズンシップ⾏動」と呼びます(※1)。
これは、助け合うということの基底に存在する⼤切なことなのです。

失礼を承知でお話しすると、ハルさんの会社では、この組織シチズンシップ⾏動が起こりにくくなってきているのではないかと思いますので、ハルさんの第六感どおり、単にコミュニケーションの問題ではないと考えられます。
ハル:
なんだか、薄気味が悪いなぁ。何でそんなことが分かるんだろう・・・。
実は、ベテランが多いため、相互に遠慮するところがあり、助けあうとか教えあうとかが⾏われてない職場が多いのです。それも私たちの検討途上では出ていましたけど、ベテランが多い職場の特徴くらいで⽚付けていました。そうかぁ~、組織シチズンシップ⾏動か~、目からうろこだなぁ。

そうそう、もうひとつ聞きたかったのですが、以前ベイタ博⼠が「職場での関係性が強くなると、そこで働く⼈の幸福感が⾼まる」という講義を聞いたのですが、どうすれば、関係性が強まるのでしょうか。
ハル:
ハルさんに解説した資料はこの図1(※2)だったはずじゃ。
これは、以前(Vol.7)に紹介した調査仮説じゃな。
職場での上司・同僚との関わり、仕事そのものとの関わり、仕事の裁量との関わり、⾃分が所属している会社との関わりが強くなると、そこで働くものの幸福感が⾼まるのではないかというものじゃ。
そうそう、その前に関連する事柄を紹介しよう。ハピノ頼むぞ。


ハピノ研究員:
はい、ベイタ博⼠!
予備調査では、この関係性について⼗分な分析ができませんでしたが、その後実施した本調査で、この関係性は職場要因として、「(1)上司・仕事のしくみと進め⽅への信頼、(2)安⼼できる空間(相互理解と協⼒の度合い)、(3)余裕や遊び・そして⾃⼰決定のできる風⼟、(4)⾃⼰の周囲への貢献、(5)実感職場の⾰新的気風」という5因⼦を特定することができたのです。
つまり、主観的幸福感は、職場要因(職場構成員の関係性)に強く影響を受けているということになります。

その他にも、関係性が幸福感と関係していることを報告している研究は沢⼭ありますが、この『幸福な職場つくり研究会』で取り上げた事柄をご紹介いたしましょう。
まず、国連によるWorld Happiness Report Life Evaluation,2012によると、「幸福度の⾼い国は、所得の⾼い国である傾向がある。しかし、所得よりも重要なのは、社会的要素である。仕事の安定性と職場の⼈間関係は、⾼給や時間以上に満⾜度につながる。」という報告がされています。
そして、フランスのサルコジ⼤統領のリーダーシップで⾏われたジョゼフ.E.スティグリッツ等の幸福研究の報告である「暮らしの質を測る」では、幸福度に影響するものとして8つの要素があげられていますが、そこには「社会的なつながりと諸関係」というものがあげられています。

私からはこんなところでよろしいでしょうか。
ベイタ博⼠:
ありがとう、ハピノよ!
わしからは、関係性の他の効⽤を補⾜しよう。
これは幸福感ということだけではなく、仕事の出来栄えや効率に関係することなので、今回のハルさんの悩みの参考になるのではないかと思う。

図2は、「仕事上相互に関わりあうことが多い職場は、仲間を助けること(⽀援)、組織ルールややるべきことをきっちり守りこなすこと(勤勉)、そして⾃律的に仕事のうえで創意⼯夫すること(創意⼯夫)を職場のメンバーに促す」(※3)という研究報告じゃ。
我々を元気づけてくれる非常に意義深い研究だ。


つまり、関わりあう職場は、役割を超える⾃発的な⾏動を引き起こすということだ。
「関わりあい」というのは、そこに社会関係資本(social capital)というものを⽣み出すのだが、これには、連帯性(associability)と信頼(trust)の2つの要素が含まれる。
連帯性とは、個⼈の目標や活動よりも集団の目標や活動を優先する参加者に積極的な意志や能⼒と定義される。
また、信頼は、個⼈に集合⾏動をもたらす要因である(Leana & VanBuren,1999)。集合⾏動には、損得勘定に基づくものと、そうではない⼈間関係に基づくものとがあるが、関わりあいの中では、この後者が重要なことは⾔うまでもない。
何よりも我々が⼤切にしなければならないことは、相互に関わることで、連帯性と信頼を組織の中に育てることじゃ。それは、この上ない良質な⼈の⾏動(⽀援・勤勉・創意⼯夫)を引き出すことができるということなんじゃな。
どうじゃな、ハルさん、少しは参考になったかな?
ハル:
いやぁ~、⾃分で⾔葉にできなかったことを⾔ってもらえたようで、凄く納得しました。
違和感の背後に、こんなに豊かな理論背景があるとは思っていませんでした。
関係性を育てていくうえで、コミュニケーションも必要になるでしょうが、やはりコミュニケーションの問題ではありませんね。どうもありがとうございました。
ベイタ博⼠:
そうか、そう⾔ってくれると、恥をしのんで⻑々とジムの話しをしたかいがあるというものじゃ。
そうじゃ、あのジムは実に関係性を上⼿に使って会員を楽しませようとしているわけじゃ。顧客マネジメントの巧みな会社じゃの、達⼈がおるんじゃなどこにも。

さて、次回のことじゃが、ハピノどうなっておったかのう?
ハピノ研究員:
はい、次回は “話し合う”ということについて触れていきたいと考えています。
これは、Hapinnovation Labの忘年会で出たのですが、最近、会社の中で、会議がうまく機能しないというような話しや、その⼀⽅で、会議を職場運営に有効に使っている例も少ないという話で盛り上がりまして、それじゃ“話し合う”ということを議題にしようとなりました。
そういえば、あの時、ベイタ博⼠は随分とお酔いになっていましたね・・・
(※1)外島裕・⽥中堅⼀郎編「産業・組織⼼理学エッセンシャルズ」2000、ナカニシヤ出版
(※2)「⽇本の職場における幸福感の構造」2013、(学)産業能率⼤学調査(⾼⽥靖⼦、⽵村政哉)
(※3)鈴⽊⻯太「関わりあう職場のマネジメント」2013、有斐閣