「働く意味と主観的幸福感」〜労働の創造をめざして〜【Hapinnovation Lab Letter Vol.6】

Hapinnovation Lab(ハピノベーション・ラヴ)のベイタ博⼠とハピノ研究員が、皆さまからいただく様々な質問に答えていきます。連載第6回目はどのような展開になるか?!
ベイタ博⼠:
さて、今回の「働く意味と主観的幸福感」というテーマは、兼ねてからブルさんにご要望をいただいていたテーマじゃ。
⾸を⻑くして待っていたのではないかな?
ブル:
実は、なかなか取り上げてもらえないので忘れられてしまったかと思っていました(笑)。

私の勤務先は、外資系企業で、⽇本のみならず世界に拠点をもっています。また、お客様にご期待以上の満⾜を感じていただくため、どこの国の拠点にもさまざまな国籍、⼈種の社員を配置しています。その結果、特定の⽂化を背景としたマネジメントを⾏うことは出来ません。
そこで、働く⼀⼈ひとりが⾃分の仕事に対して誇りを持ち、その結果、⾃分が⽣き⽣きと働く場として会社へのロイヤリティーが⾼まることを⼤切にしています。
ベイタ博⼠:
ブルさんは、⾼級ブランドサービスの世界展開をしている外資系企業にお勤めじゃったのう。⽂化や国籍・国⺠性といったものを超えた考え⽅を持つことが実に重要なのじゃな。

洗練されたサービスは、マニュアルではなく、おもてなしの⼼と所作・振舞いの訓練の賜物じゃから、そこには仕事へ打ち込む態度・姿勢といったものが実に重要になるのう・・・。
ブル:
はい、そこが私たちの会社と仕事の最も⼤切なところだと考えています。私は⼈事にいますから、うちで働く仲間たちが前向きに仕事に打ち込める環境づくりに腐⼼しています。
そして、⼝幅ったいのですが、社員の⼀⼈ひとりの幸福度が⾼いことが、安⼼して仕事に集中することができる最⼤のポイントであろうと考え、Hapinnovation Labに参加しています。これまでにも随分とヒントをいただき
ましたが、もっと沢⼭のことを勉強したいと考えています。
ベイタ博⼠:
いやはや、嬉しいことを⾔うてくれるなぁ。

ブルさんの考えを少し整理させてもらうと、ブルさんは『「仲間である従業員たちの幸福度の⾼さ」ということに注目している。なぜならば、「⾼い幸福度を持っていることが、集中して仕事に打ち込む素地である」-この状態を創り出していくことが、「異なる⽂化を背景とした職場におけるマネジメントの⽅法」ではないかと考えている』ということになるかな。

では、最初に⽂化や国を超えた主観的幸福感ということを少し考えてみようかのう。
どうじゃハピノや。
ハピノ研究員:
はい、声が掛かるのを待っていました。
⽂化や国による主観的幸福感の違いがあることは分かっていますが、逆に共通性も存在します。ここでは共通性に焦点を当ててみたいと思います。
ある調査機関(※1)による世界150カ国を対象とした調査によりますと、⽂化や国⺠性を超えて⼈⽣を価値あるものにする共通の要素として、下記の5つがあげられています。

(1)仕事に情熱を持って取り組んでいる
(2)良い⼈間関係を築いている
(3)経済的に安定している
(4)⼼⾝ともに健康で活き活きしている
(5)地域社会に貢献している

そして、この5つの要素のなかでも、特に(1)の仕事において幸福感を感ずることの重要さとその難しさが指摘されています。また、これは私⾒ですが、
(2)の⼈間関係も仕事をするうえで不可避のものと考えられますので、
(1)と(2)はセットで考えてもよいだろうと思います。
ベイタ博⼠:
そうか150カ国の調査でも主観的幸福感を構成する要素の1つに仕事があり、そして情熱という仕事への“姿勢・態度”と⾔えるもの、そして⼈との関係性のあり⽅があるのじゃな。

他に何か特徴はあるかな?
ハピノ研究員:
はい、仕事の幸福というのは、『「何か楽しみにしていることがある」という状態で、1⽇の仕事を迎えること』であるという表現がされていることが興味深い点です。

また、「⾃分の周りの⽅々の幸福度が⾼いと、⾃分⾃⾝の幸福度も⾼まる」という傾向が顕著に⾒て取れるという報告がされています。
ブル:
そうなんです・・・、あっ、横からすいません。けれど、そんな会社にしたいのです・・・。
会社に楽しみを期待して皆が来てくれたら最⾼ですよね。そして、集団が幸福の雰囲気を持っている・・・、最⾼ですよね職場として。けれど、実際に仕事をする職場にはいろいろなことがありすぎて、なかなか簡単にはいかないですね。

あと誤解が⽣じるといけないので少し付け加えさせていただきますと、職場が楽しいというのは、“楽しさを与えてもらえる”というような受⾝の姿勢ではなく、⾃分と仲間でつくりだしていくものと考えています。
ベイタ博⼠:
確かに“こうすれば主観的幸福感が⾼まりますよ”と簡単に⾔うことは出来ないのう。
しかし、ブルさんの⾔うように、⾃分たちで仕事そのものを幸福なものにする努⼒は⽋かしてはいかん、それはハピノベーター(※2)として常に考えておかなければならないことじゃ。

ある哲学者(※3)が興味深いことを⾔っておる。
それは、「⼈間が誇りをもちながら⽣きていくためには、どのように労働を創造する必要があるかを考える思想」をもつことが重要だという指摘じゃ。そしてこのような考え⽅を「労働の創造」と呼んでおる。
わしは、仕事における主観的幸福感を⾼めるために、この「労働の創造」ということに取り組むことが重要であると考えておるんじゃ。単に幸福が欲しいというのではなく、労働の創造を通じて幸福感を⾼めていくということがハピノベーターの取り組むことなんじゃ。

この働く意味について、もう少し詳しい話をハピノしてくれんかな。
ハピノ研究員:
はい、分かりました。
何⼈かの研究者(※4)らは、「⾷事代を稼ぐが為にする仕事をJob、出世したり⾼い地位や名誉を獲得する仕事をCareer、そして仕事の目的や意義を通じて、⾃分⾃⾝の存在意義を確認できる仕事をCalling(コーリング︓天命・天職)」と呼んでいます。主観的幸福感を⾼めるためには、このCallingというものに近づく努⼒が必要であると指摘しています。⾃分の仕事をCallingと意味づけている⼈は、主観的幸福感が⾼いという調査結果も出ています。

Callingに近づくとは「その仕事を何のためにするのか」、そして「それをすることでどんな意味があるのか」ということを考え、改めて⾃分の仕事そのものの意味を発⾒していこうということなのです。そして、その際、仕事というものは⼀⼈でするものではないので職場も重要です。職場は、⼈と⼈とが関わりながら創りあげていく場であり、共に働く場を創りあげていくための働きかけが必要です。双⽅向の交流の中で、それぞれの価値観を尊重して働くことで、そこで働くものの共通な新たな仕事の意義や価値を⾒出すことができます。

ブルさんの会社で考えてみると、「決められたサービスを提供する」というのはあたり前の仕事ですが、「お客様が喜んでくれるためにどのような仕事をするか」を考え、「⾃らの仕事を創りだしていくこと」や「⾃分の仕事に価値を⾒出したうえで、職場の部下や同僚に働きかけ、お客様からの感謝の⾔葉を職場のみんなで分かち合える職場にしていく」ということでしょうか。
ブル:
とても参考になりました。
私たち⼀⼈ひとり、そして職場を「労働の創造の場」にすることが重要ということなのですね。そしてそれが、⽂化や国籍などを超えて、⼀⼈ひとりに仕事の意味を持たせ、Callingといわれるような仕事にしていくマネジメント⽅法であるということなのですね。
ベイタ博⼠:
そうじゃ。ブルさんは聡明じゃのう。
さて、今⽇はここらで終わりにして、次回は、「⽇本の職場における幸福感の構造(その1)」というテーマにしたいと思うがどうかのう!
※1 ギャラップ社(The Gallup Organization) 1935年に設⽴されたAmerican Institute of Public Opinionを前⾝とする調査・コンサルティング機関。世界150カ国にわたるグローバル調査を実施)参考︓『幸福の習慣』Tom Rath等著
※2 『幸福な職場つくり』の実現を目指す⼈。Vol.1参照。
※3 内⼭節 哲学者、⽴教⼤学教授 労働の創造は、『労働過程論ノート、1975』を参考とした。
※4 Wzesniewaki.A.&Dutton.JE、Martin Seligman等の論⽂(「仕事観の研究」)と著作(「世界でひとつだけの幸せ」)を参考とした。