「⼼理学における主観的幸福感」〜幸福感を向上させるための⼯夫〜【Hapinnovation Lab Letter Vol.4】

Hapinnovation Lab(ハピノベーション・ラヴ)のベイタ博⼠とハピノ研究員が、皆さまからいただく様々な質問に答えていきます。連載第4回目はどのような展開になるか?!
ベイタ博⼠:
さて、今回は、⼼理学における幸福の扱いと、ハピノベーション・ラヴ皆勤賞のシュガーさんの質問である「幸福感を向上させるための⼯夫」について説明をすることにしよう。

そうそう、シュガーさんは教育担当だったのう!やはり、受講者である社員の笑顔を⾒たいのじゃろう。また、これまで1⼈で課を切り盛りする忙しい中でも⽋かさず研究会に出てきてくれて、頭の下がる思いじゃ。
最近になって部下ができたということじゃが、余裕ができるというよりも、より⼀層充実した教育の実現に向けて、ますます忙しくなるのではないかちょっと⼼配じゃ。
シュガー:
ベイタ博⼠、ご⼼配ありがとうございます。
けれど、私にとってハピノベーション・ラブは、ちょっと特別な存在なのです。なんとかして参加したいと思うと、いつもより仕事が捗(はかど)りますし、いつものメンバーに会えると思うだけで、幸福感が⾼まります。
この感覚を⽇常の⽣活の中でもっと持てたら、私⾃⾝もっと楽しく仕事ができると思います。また、この感覚を皆さんに持っていただくことが、教育担当者としての私の仕事のひとつではないかとも考えています。
ベイタ博⼠:
そうじゃのう…。
では、シュガーさんのいう「幸福感が⾼まる感覚」という話をする前に、⼈がどのように幸福感を感ずるのかを「⼼理学」の研究から紐解き、そのうえで幸福感を⾼める⼯夫について考えてみることにしようかの。
うん、ここはハピノにお願いしよう!
ハピノ研究員:
はい、ベイタ博⼠。では、なるべく簡単にご紹介することにします。

まず、⼼理学という学問についてのお話をさせていただきましょう。
⼼理学とは、⼈の⼼を実証的に研究する学問です。⼈の⼼にはいろいろな不思議があります。
たとえば、⼈はずいぶん前のことは覚えているのに、昨⽇の晩ご飯に何を⾷べたか忘れてしまう、あるいは通勤で使っているいつもの坂道が、疲れているときには険しい⼭のように⾒えてしまう…、本当に⼈間って不思議ですね。
⼈が感ずる・理解するという⼼のメカニズムには不思議が満載されているのです。この⼼のメカニズムが⼼理学の研究対象です。
⼼のメカニズムなんていうと、ちょっと難しく感じてしまうかしら。

少し、簡単に説明してみましょう。
私たちは、「レモン」という⾔葉を聞くと、視覚の記憶から「⻩⾊」「丸い」、味覚の記憶から「酸っぱい」、臭覚の記憶から「芳⾹」、触覚の記憶から「冷たい」「ざらざら」などの連想が⽣じます。⼈間の五感から得られた記憶が刺激されることで感覚が⽣じます。それを観念と呼びますが、これらの観念が結合して「レモン」という認識が成⽴します。⼼理学は、このように⼈間の⼼の動きのメカニズムを探る学問なのです。

⼼理学は哲学から派⽣した学問として非常に古い歴史を持っていますので「何が幸せか」、「誰が幸せか」、「どうすれば幸せになれるか」というテーマについて、さまざまな実証データが蓄積されていても不思議はありません。
しかし、残念なことに⼼理学では、⻑い間「幸せを感ずるメカニズム」は、研究に値する対象と考えられていなかったのです。それは、近代的な科学としての⼼理学は、1920年代から1940年代にかけて⾏動主義という考え⽅が⽀配的であり、客観的⾏動として捉えられる現象しか研究対象としないという極端な科学思想が強かったのです。ですから主観的な概念の代表とも⾔える幸福感は、⼼理学者が扱うべき概念ではないと考えられていたようです。
しかし、時が移り、徐々に⾏動主義の考え⽅が弱まり、⼈がどのように外界の事柄を受け⼊れるのか、感ずるのかという「認知」の研究の重要性が認識されるように⾄ってから、感情や幸福感や愛といった主観的な概念が、徐々に研究対象としても認められるようになってきたのです。これは1980年代のことだと⾔われています。この時期を契機に、幸福に関する実証研究が⼼理学の中では⼀挙に拡⼤したというわけです。そういう意味では、⼼理学における幸福の研究は30年程度の歴史しかないということもできます。

また、⼼理学は、⼼のメカニズムを解明することで、⼼の病の治療という重⼤な社会的な使命を持っています。しかし、治療によって⼼の病が治ったとしても、それは幸福になったということではありません。
そこで、普通の⼈々がより幸せになるためにはどうしたらよいかということについても、⼼理学で取りあげる必要があるという主張が持ち上がりました。これが⼼理学における幸福の研究を加速させることになったといってよいだろうと思います。

セリグマン(※1)といううつ病の研究をされている学者が、⼼の病を研究されていたからこそ、より積極的に幸福ということへのアプローチが必要であると考えたのだろうと思います。そのための新しい⽅向性として、ポジティブ⼼理学を提唱したのです。
セリグマンの主張を非常に簡単に申し上げるならば、⾃分のネガティブな側⾯よりも、ポジティブな側⾯(⾃分にそもそも備わっている「強み」)に注目し、「何がそれを伸ばし」、「何がそれを疎外するのか」、「ポジティブな状態が起こる原因は何か」ということにアプローチすることが幸福感を⾼めるためにより重要であると⾔っています。

少し⻑くなってしまいましたね…。
さて、ここからは、シュガーさんのご質問である「幸福感を向上させるための⼯夫」ということについて考えてまいりたいと思います。
ベイタ博⼠からお願いできますか。
ベイタ博⼠:
⼼理学では、⽂化や運、結婚とさまざまな角度から幸福が研究されているが、ここでは職場にもっとも馴染みやすい「⼈との関係」に焦点を置いたものを紹介しよう。

⾃分⾃⾝の幸福感に、さまざまなことが影響を与えていることは、誰しも当たり前のこととして感じているわけじゃが、⼼理学では、そこを理論にするためのさまざまな研究をしているわけじゃ。ディナー(※2)とセリグマンは、幸福感と⼈との関係という視点からの研究をしている。

彼らの研究結果によると、「他者と親密な関係性を築いている⼈は、幸福度が⾼い」ということじゃ。具体的には「⼀⼈で過ごす時間が⽐較的少ない」、「誰かといる時間が多い」、「関係性の評価が⾃⼰・他者共に⾼い」という関
係性があるようじゃ。
また、ビュイトナー(※3)等の沖縄の百歳⼈(センテナリアン)の調査も興味深い。1996年に世界保健機関が「世界⼀の⻑寿地域」として指定した沖縄県⼤宜味村(おおぎみそん)の⻑寿の秘密を解き明かす研究の中で、「⼈とつながる、家族を最優先にする」といった他者との関係性があげられておるのう。
ハピノ研究員:
ベイタ博⼠、そういえばフレドリクソン(※4)の研究も参考になりますね。
9.11のテロ事件の前に、ポジティブ感情のレベルが⾼く測定された⼈は、事件後に精神的な⽴ち直りが早かったことを報告しています。
同じ悲しみや不安のネガティブ感情を体験していても、⾃分の周りの⼤切な⼈とのつながりに、愛情・感謝・喜びといったポジティブ感情を感じていた⼈は、うつ病やPTSDに到るネガティブ思考と感情の下降スパイラルに陥ることを防げたということから、ポジティブ感情の有効性が分かりました。
ベイタ博⼠:
そうなんじゃな。
ポジティブ感情を⾼めることは、幸福感向上に⼤いに効果がある。代表的なポジティブ感情とは、愛情・喜び・感謝・希望・興味・⿎舞・愉快・畏敬・誇り・安らぎと⾔われている。
また、⼤変興味深いのが感謝の効果じゃ。感謝という感情は、助け合いの⾏為、道徳的⾏為、利他的⾏為が促進され、他⼈との⽐較や嫉妬・羡望の感情を減少させ、他者とのつながりの感覚を増すことができることで、より関係性が深まるということなのじゃ。
シュガー:
では、私がすぐに出来ることとして、さまざまな事柄に感謝をする習慣をつけることなのですね。今でも感謝の念がないわけではありませんが、なかなか⾯と向かって⾔うのは照れくさかったり、多くのことを当たり前と感じ、感謝が⾜りない⾃分も感じます。

感謝という感情を⾼めるためにはどうすればよいのでしょうか?

ベイタ博⼠:
シュガーさんは素直じゃのう。
そうじゃ、やはり意識して感謝することをせんと、感謝できなくなってしまうんじゃ。多くのことを当たり前としてしまうのが⼈の持つ順応という傾向なのじゃな。気をつけんといかんのう、お互いに…。

そうそう、順応ということで思い出したが、「満喫する」ことも幸福感を向上させると⾔われている。やはり⽇常の中で、周囲のことに無関⼼になってしまっていることが非常に多いじゃろ。たとえば通勤時の風景などその典型じゃ
な。しかし、そういう⾒慣れた風景を満喫してみるのじゃ。そこには新しい発⾒があったりし、新たな喜びを感ずることにつながるのじゃな。

いかんいかん、すぐに話がそれるのう。感謝という感情を⾼めるための⽅法じゃったなぁ。
たとえば、⼿紙を書いてみるのはどうじゃ?過去に何か⼤変な時期に⾃分を⽀援してくれた⼈などに感謝の気持ちを伝える⼿紙を書いて渡してみるのはどうじゃ?
その際には、その⼈が「どんな親切を⾏い、好意ある態度を⽰してくれたか」、その結果「どんな好影響を⾃分と⾃分の仕事や⼈⽣に与えてくれたか」、「その⼈がいなければ、現在の⾃分がどう変わっていたか」などを思い起こして感謝の気持ちを込めてみてはどうじゃろ。

また、⽇記をつけるのも効果的じゃな。毎⽇、1つでよいから感謝や満喫を書き綴るんじゃ。これは非常に効果的じゃよ。感謝や周囲への感受性を⾼めてくれる。
実はもうひとつ秘策があるんじゃ…。それは、飲み会で何気なく「何かへの感謝」「満喫体験」を話題にするのじゃ、これは非常に仲間の意識を⾼めるし、相互に肯定的な集団作りにも役⽴つ。どうじゃ、やってみんかね、シュガーさん。
シュガー:
早速やってみます。ぜひ、⼿紙にしてみたいと思います。
あと…、飲み会…、お酒の席も重要ですね。セブンさんやメイさんがお酒の席を絶対に⽋席しない理由が分かってきたような気がします(笑)。
また、感謝も満喫も⽇々続けるということが⼤切だということでしたね!幸福感の向上の仕⽅がなんとなくわかってきた気がします。
ベイタ博⼠:
それは 良かった!少しはシュガーさんの助けとなったかな…。

さて、次回は「経営学における幸福」をテーマにしたいと考えておる。
ハピノよ!知っておるかな、経営学に「幸福」という⾔葉はないそうだよ!
※1 マーティン・セリグマン博⼠ ペンシルベンア⼤学⼼理学教授。アメリカ⼼理学会 元会⻑
※2 エド・ディーナー博⼠イリノイ⼤学⼼理学教授。ドクター・ハピネスとして知られ、アメリカで幸福度について35年間以上研究。
※3 ダン・ビュイトナー著 ブルーゾーン『世界の100歳⼈(センテナリアン)に学ぶ 健康と⻑寿のルール』
※4 バーバラ・フレドリクシン著『ポジティブな⼈だけがうまくいく3:1の法則』