「⽇中韓3か国企業調査」から考える「⼥性活躍」の今とこれから 後編(1/2) 【第7回 企業と社会、そして⼈〜『これからの経営』を考える〜】

後編 「⽇中韓3か国企業調査」から考える「⼥性活躍」の今とこれから
〜産業能率⼤学 ⽯塚浩美教授に聞く〜

前編では、昨年、⽇本・中国・韓国の3か国における「⼥性活躍」に関する実証調査を⾏った、⾃由が丘産能短期⼤学⽯塚浩美教授に、ご⾃⾝の研究領域やご関⼼を含め、世界の中での“⽇中韓”3か国の⼥性活躍の位置、⽇本が抱える問題、さらに韓国でとられてきた国家施策の効果などについてお話をいただきました。
後編では、この「⽇中韓3か国調査」から明らかになったことを引き続きお話いただくとともに、「⼥性活躍」の実現に向けて、今まず⽇本企業と我々が取り組めること、さらには若い世代に期待されることなどをお聞きしました。

GGGIの最下位争いを続ける⽇本と韓国

— 本橋
先(前回)も話に出たGGGIですが、これについてもう少し詳しくお聞かせいただけますか。

— 石塚
GGGIというのは、Global Gender Gap Indexの略で、「男⼥間格差指数」と訳すことができます。
世界経済フォーラムが毎年出している男⼥の格差に関するスコアです。以前は、国連がずっと「GEM(Gender Empowerment Measure)」という指標を出していてこれを⽤いていたのですが、2010年ごろに内容を⼤幅に変えてしまい、使いにくくなってしまいました。
ちょうどそれと⼊れ替わるように出てきたのがこのGGGIで、今は、グローバルでの男⼥格差の問題を語る際には、この指標を⽤いるのが⼀般的です。

その内容を非常に⼤雑把にいえば、「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野各々における、男⼥間の格差を⽰したもの、ということになります。⽇本は、「教育」「健康」分野ではトップクラスなのですが、「経済」と「政治」分野で特に低い。4分野総じてトップレベルの国の1つはスウェーデンですが、これと⽐べると⽇中韓の3か国は特に経済分野でスコアの差が⼤きい、すなわち男⼥間格差が目⽴つ、ということになります。

— 本橋
今回、先⽣がなさった調査でも、このGGGIの結果を裏付けるような結論になったのでしょうか。

— 石塚
私の調査では北欧の国々とは⽐較をしていないのでその部分については何とも⾔えませんが、⽇中韓という儒教精神の⽐較的根強い3つの国の間で⽐べてみても、その中で、国によって差があるということは明らかになったと思います。

先(前回)に⾒た労働⼒率についての調査でもそうでしたが、このGGGIの2013年の調査でも韓国は⽇本の下でした(136か国(地域)中、⽇本は105位、韓国は111位)。
OECD諸国の中で⽇本と韓国はいつも最下位争いをしているのですが、早晩、韓国は⽇本を追い抜いてより上に上がっていくだろうと私は予測しています。韓国はスピード感をもって物事にあたりますから。

グローバル化の中で⾼まる、海外からの期待と要請

— 石塚
こうした⽇本の状況に対する海外からの声として、たとえば、IMF(国際通貨基⾦)のラガルド専務理事が、2012年10⽉に東京で開催されたIMF・世界銀⾏年次総会のため来⽇した際に「⼥性の活躍を促進することが、⽇本経済の発展には不可⽋だ」といった主旨のメッセージをはっきりと打ち出したのは記憶に新しいところです。

⽇本で今後ますます進んでいく少⼦化や、国の財政状況などを⾒れば、⼥性活⽤をより進めていくべきなのは明らかだ、といった指摘はもちろん以前からありました。
こうした海外からの要請が、たとえば2003年に掲げられた「202030(2020年までに指導的地位に⽴つ⼥性を少なくとも30%にする)」といった国レベルの目標や施策に影響していったと思います。 省庁でいえば、やはり「男⼥共同参画」を担当している内閣府を中⼼に、経済産業省や厚⽣労働省も動いているようです。また経営者団体や企業も数値目標を⽴て始めました。

— 本橋
そうした国レベルの動きが本格化していった「節目」は、いつごろだったのでしょうか。

— 石塚
ごく最近のことをいえば、アベノミクスの「三本目の⽮」の「⼥性活躍」政策ということになりますが、もう少し⻑い目で⾒ると、国連が「国際婦⼈年」とし、男⼥平等推進や⼥性の社会参加が国際社会レベルで議論された1975年からの約10年間は、世界各国がこの問題に取り組み始めた重要な期間だったと思います。
⽇本でもその終わりの1986年に「男⼥雇⽤機会均等法」が施⾏されることになったわけですから。
ただしその期間は「初めて、ちょっと動いた」ぐらいに⾒るべきで、その後現在に⾄っても、結果として⽇本企業の⼥性活⽤が世界的に⾒て非常に低い⽔準であることは先ほどからお話しているとおりです。

「⼥性活躍」を現実のものにするための取り組み

— 本橋
ここまで、先⽣の今回の「⽇中韓企業調査」に基づいて、マクロな現状についてお話を伺いましたが、ここで少しミクロな視点からもお聞かせください。
⽇本において⼥性活躍が必要、急務であることは明らかですが、ではその現場である、たとえば「企業」において、⼥性の活躍を推進するにはどのような施策や取り組みが効果的だと先⽣はお考えでしょうか。

— 石塚
あくまでも個⼈的な意⾒ですが‥‥。まず、「時間」の問題は⼤きいと思います。⻑時間労働や、ワーク・ライフ・バランスといった「時間配分」の問題ですね。
ワーク・ライフ・バランスというのは、「時間」を仕事にもかけるし、それ以外の部分にもかける、というまさにバランスの話ですが、これが実現しないと、仕事と育児などの両⽴はなかなか難しい。育児は⼥性のみの負担ではないとはいえ、⼥性が働き続けられるかどうかを左右する⼤きな要因の1つに、まずこれがあると思います。
また、⼥性にやりがいのある仕事を与えることの必要性もよく指摘されています。働く⼥性が担う仕事の「量」は、統計的にもすでにある程度まで上がってきているといえます。
そうすると今度はその「質」が問題になってきます。概して、⽇本の男性は⼥性に「優しい」と思います。これも良い点ではあるのですが、どちらかといえば「保護的」です。今後は同じ「優しさ」でも、もっと⼥性に仕事を任せて、育てる「優しさ」の⽅がいいと思います。

ただしこれには、⼥性側の意識や能⼒の養成といった受け皿を整えることも必要になるでしょう。
そのうえで、先ほどの「202030」に象徴される、⼥性の管理職⽐率を上げるであるとか、やる気のある⼥性にはチャレンジしがいのある仕事を与えるとか、こうしたことが進んでいくことによって、企業にとっても新しい視点をもった戦⼒を得ることにつながってくると思います。
⼥性にももっとチャレンジできるような仕事を与える、そこから、仕事の⾯⽩さや働くことの楽しさを経験したり感じ取ったりできるようにする。こうしたアプローチが必要だと思いますし、今の⽇本はそうした段階に⼊りつつあるとも思っています。端的な⾔葉で⾔えば、「仕事の⾯⽩さ」「チャレンジングな仕事」「社会に貢献できる仕事」を与えていくことです。

— 本橋
私が専門にしているCSR(企業の社会的責任)の⽴場から⾒ると、「⾃分の仕事が社会の役に⽴っているという意識を持たせる」ことは、非常に興味深く重要なポイントだと思います。
それをより実感できるような仕事を与える、任せることはもちろん重要ですが、それと同時に、経営のトップが⾃社の事業を、直属の上司が⾃部門やそのメンバーの仕事を、そのように「意味づけ」して語ること、そのうえでの本⼈への期待を⽰すことは、男⼥を問わずモチベーションにつながることが⾒えてきていますし、⼥性が「社会に参加し続けることの意義」を⾒出すうえでも有効だと思います。
同時に、従業員にそうしたより⾼次の「働きがい」を提供することや、特に⼥性が⾃分の仕事を「社会にも意味のあるもの」と感じながら仕事を続けられる環境をつくっていくこともまた、企業の、従業員に対する「責任」のあり⽅の1つだと思うのです。