「⽇中韓3か国企業調査」から考える「⼥性活躍」の今とこれから 前編(1/2)【第6回 企業と社会、そして⼈〜『これからの経営』を考える〜】

前編 「⽇中韓3か国企業調査」から考える「⼥性活躍」の今とこれから
〜産業能率⼤学 ⽯塚浩美教授に聞く〜

「⼥性の社会参加と活躍」は以前から着目され、議論や実践がなされてきたテーマですが、現在の⽇本でもまだ課題は多く、なかなか進展していない問題でもあります。しかし近年では、⼥性の管理職⽐率が具体的な数値目標として掲げられたり、ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスといった新たな切り⼝が登場したりするなど、「⼈」にまつわる解決すべき問題としてあらためてクローズ アップされているように思われます。こうした中で昨年、「⽇本・中国・韓国」の3か国における⼥性の労働に関する実証調査を実施し、最近その結果をまとめられた、産業能率⼤学 ⽯塚浩美教授にお話を伺いました。

「カチッとしている」経済学に魅かれて

— 本橋
先⽣は現在、「労働経済学」の⽴場から、ダイバーシティや⼥性活躍について研究をされているとのことですが、実務経験もあると伺っています。
まず、労働経済学の研究に向かわれたきっかけや経緯をお聞かせいただけますか。


— 石塚
私は⼤学を卒業後、⽇本航空のフライトアテンダントとして30か国ほどを回りました。その後、⽇本航空の関連会社を経て、学校法⼈産業能率⼤学にて、組織⼈の⼈材育成や⼥性の活⽤などについて企業の⽅にお話をさせていただくといったことを始めました。
⽇本航空退職の2年後、インプット不⾜を感じて⼤学院に⾏こうと決意し、あらためて修⼠課程、博⼠課程で学び、他⼤学の研究員や兼任教員をしました。⼤学時代は経営学部だったのですが、このときは「カチッとした学問がやりたい」と考え経済学を選びました。
⼈材育成の仕事と経済学の研究との⼆本⽴ての⽣活、さらに出産・育児も経験しました。時期を同じくして、産業能率⼤学通信教育課程で「経済学」「⼥性の労働市場」「卒業論⽂」などの科目を担当させていただいたご縁があって、現在に⾄っています。

経済学というのは、シンプルで、道具がしっかりしているのが魅⼒です。
経営学はどちらかといえば企業や職場そのものを扱う傾向にあると思いますが、経済学はより物事を広く捉えようとすると思います。
私は学⽣によく、「経営学は企業単位で捉え、経済学は⽇本⼀国で捉える。そのために、経済学の捉え⽅はどこか漠然として⾒えるけれども、⼤きな動きを⾒ることができる」と話しています。

⼤学時代にはわからなかったのですが、就職して、フライトアテンダントとして⽇本と世界の国々を⾒てきた中で、全体を俯瞰することの⼤切さと、⾯⽩さがわかってきたのは⼤きかったと思います。当時は、どこの国に⾏っても⼀泊以上はしていたので、いろいろなことが国によって本当に違うということを、⾝をもって体験しましたから。そうした興味に応えてくれる学問は、私の場合は経済学でした。現在でも、調査・研究・親戚訪問などで、年に1度は海外に⾏きます。

そうした経済学の中でも私の研究している「労働経済学」という領域は、組織⼈教育をはじめ、少⼦⾼齢社会、⼈⼝減少社会、キャリア形成、就業中断、家事労働、賃⾦・労働、格差社会、フリーター・ニートといった広くさまざまなテーマを扱っています。
名称に「労働」とありますが、労働そのものというよりも、「⼈間の⾏動を科学する」学問という⽅が適切だと思います。したがって対象は本当に幅広いし、そして⾯⽩いです。

— 本橋
労働経済学の領域で研究をお進めになる中で、「⼥性の活躍」にテーマを絞り込むに⾄る、お考えや問題意識をお聞かせいただけますでしょうか。

— 石塚
私⾃⾝は、「⼥性だから」ということで差別的な扱いをされたり、不利益を被ったりしたことは、実はあまりないんです。
もちろん問題意識はいろいろとあるのですが、「⾃分が嫌な思いをしたから」ということではありません。
私は、⼥ばかりの四⼈姉妹で、中学は⼥⼦校で、就職してからも男性の⽅がマイノリティ(少数派)でした。「社会は、男寄りなんだな」ということを実感として理解するようになったのは、結婚後、正社員の職を辞してからです。さらに⼤学院で研究するようになって「こんなことになっているのね」と数値データで確認した次第でした。

最初は、ごくシンプルな「興味」からでした。「なぜ、男性と⼥性とでは、さまざまな場⾯での扱いが違うのだろう」と。それで調べていくとさまざまなことがわかってきて、さらに興味深くなっていった、ということです。

現在の研究テーマを最も正確に⾔えば、「男⼥の就業の実証分析」ということになります。
数字、データを使って、特に⽇本で⾒られるような「男性と⼥性の違い」を明らかにすること、その結果を「なぜ、こうなるのか」と考えてメカニズムを明らかにすることが中⼼です。
さらに最近では、研究の対象を若年層にも広げています。ダイバーシティの観点から「⼥性の就業」の問題を研究していくと、それが若年層の問題にも応⽤できることがわかってきたのです。
近年では若年層の非正規労働者が増えていて、新たなマイノリティとして問題になりつつありますから、これまでの研究成果を元にしてこうした問題を考えていくことは非常に重要で意義があると思っています。

「⽇本・中国・韓国」3か国で、⼥性活躍に関する調査を実施

— 本橋
そうした先⽣のご研究の中で、最近、⽇本・中国・韓国の3か国で、⼥性活躍に関する調査をなさったとお聞きしました。

— 石塚
⽇本、中国、韓国というこの3つの国は、いずれも北東アジアに位置する隣国です。儒教ベースの考え⽅を根底に持ち、かつ、現在の世界経済を牽引している存在といえます。
私は、グローバル化という潮流の中で今、⽇本の中だけではなく隣国の状況を知って「お互いに、学べるところは学ぶ」ことが必要だと考えています。
歴史的な経緯はいろいろとありますが、個⼈にとっても企業にとっても国にとっても意義のあることです。今回の調査・研究の主な目的も、企業における男⼥の参画の実態を知り、3か国の⽐較をすることで、⼥性の活⽤、ジェンダー・ダイバーシティ経営について知⾒を得て、⽇本の経済活性化に貢献したいということでした。
そして、⼥性にも若年層にも多様な「⼈」の雇⽤が⽣み出されて、多くの⽅々がより活躍されていくといった、そうした好循環ができていく⼀助になればと思っています。

少し具体的な話をすると、男⼥の雇⽤格差をグローバルな観点から捉える指標に、「GGGI(Global Gender Gap Index︓男⼥間格差指数)」というのがあります(図1)。
2013年のこの指標を⾒てみると、136か国(地域)中、⽇本は第105位、中国は第69位、韓国は第111位と、いずれも「男⼥間格差は⼩さい」とは⾔えない状況です。136か国(地域)の調査で100位以下というのは相当低いし、⽇本はこの順位を上げることを目指していく必要があると考えています。
⽇本は、これから⼈⼝が減少していくことがはっきりしていて、もはや内需のみに頼るやり⽅は期待できない。そうした状況において、今まで⼗分に活躍できていなかった⼈材を活⽤していくことが、グローバル経済の中でも必要になっています。
出所:The World Economic Forum(2013)“The Global Gender Gap Report 2013.”
注1. 図は各項目におけるスコアであり、⼥性割合を男性割合で除した数値である。男⼥が同じ割合であれば、“1”になる。
各分野の⼩計となるスコアは、細目のスコアをウェイト付けして計算している。
注2. 国名に付した順位は、GGGI(Global Gender Gap Index)の136カ国中の総合順位である。

こうした問題意識と現状がある中で、本学理事会の承認を得て、経済産業省所管の独⽴⾏政法⼈である経済産業研究所(RIETI)のプロジェクトに研究会委員として参加し、⽇本・中国・韓国の3か国の調査をさせていただく機会をいただき、実施に⾄りました。

— 本橋
調査の概要などを、簡単にお教えいただけますか。

— 石塚
今回の調査は2013年の春に実施しました。まず私が質問項目を作成し、中国と韓国それぞれで現地の調査会社がインタビューを実施して情報を収集するというやり⽅で、最終的に中国で300社、韓国では305社のデータを集めました。
⽇本企業については、先のRIETIが2009年に実施した、ワーク・ライフ・バランス施策に関する国際⽐較調査がありましたので、その結果を⽤いました。