強い組織をつくるために⼈材育成ができることとは?【第9回 ⾃⼰成⻑⼒の獲得】

前回まで8回にわたり、厳しい環境を乗り切る強い組織をつくるための、新しい時代に即した⼈材育成ルールについて、さまざまな角度から解説してきました。

最終回の今回は、若⼿社員に⾃らが学び成⻑する「⾃⼰成⻑⼒」を獲得させるためのポイントについて解説します。

若⼿社員に“経験学習”を実践させる

若⼿社員の育成で目指したいのは、若⼿社員⼀⼈ひとりが⾃⽴し、上司や先輩社員が指⽰したり、教えたりしなくても、主体的に仕事経験を通じて学び、成⻑する「⾃⼰成⻑⼒」を獲得させることです。
「⾃⼰成⻑⼒」を獲得させるためには、2つのポイントがあります。

1つ目のポイントは、若⼿社員に“経験学習”を実践させるということです。経験学習とは、仕事経験を学習の機会と捉え、振り返りを通じて気づき、成⻑する学習⽅法です。
この経験学習は、組織⾏動学者デービッド・コルブが「経験学習モデル」によって提唱しました。
(図1参照)
図1:経験学習モデル
経験の場で、視覚、聴覚、感情などによってものごとを感知する
経験により直感的に感知した事柄を、深く振り返り、内⾯化する
本質をつかむことにより、新しい状況や条件の下でのより応⽤的な実践につなげる
内⾯化により抽出された「気づき」をもとに、物事の「本質」をつかむ

このモデルは、「⼈は経験、省察、概念化、実践という4つのプロセスを繰り返す、つまり、“学びのPDCAサイクル”を回すことによって、より深く学習し、成⻑する」という考え⽅です。同じ経験をしても、またいくら数多くの経験を積んだとしても、成⻑できるか否かは、このサイクルを回せるかどうかで決まります。

このサイクルで特に重要なのは、“省察”“概念”です。 “省察”では、仕事経験(成功経験・失敗経験)を振り返り、なぜうまくいったのか(あるいは、なぜうまくいかなかったのか)を明らかにすること、そして、“概念化”では、異なる状況でも同じように成功するために(あるいは、⼆度と同じ失敗をしないようにするために)はどのようなことがポイントになるかを、⾃分にとっての「教訓」として明確にします。

なお、経験には、⾃分⾃⾝が直接関わった経験である“直接経験”と、⾃分以外の他者が何かを達成する様⼦等を観察する“間接経験(代理経験)”の2種類があります。特に若⼿社員は経験できる仕事が限定されるため、先輩の仕事ぶりを観察することを通じて、学ぶことが重要です。

若⼿社員の“経験学習”を⽀援する

「⾃⼰成⻑⼒」を獲得させるための2つ目のポイントは、上司や先輩社員が若⼿社員の経験学習を⽀援することです。 経験学習の仕⽅を若⼿社員に教えたとしても、正しく理解しているか、振り返りが習慣化しているか、それが成⻑につながっているかを確認できるまで、地道に⽀援することが⼤切です。(図2参照)

具体的には、“経験”を通じて、若⼿社員に気づかせたい、あるいは学ばせたいことを明確にし、それに最適な経験の場を意図的につくること、“省察”では、若⼿社員の経験を⼀緒に振り返り、対話を通じて、異なる観点から問いかけることによって、若⼿社員の気づきを促すことが重要です。 “概念化”では、気づきを次の実践⾏動につなげるために、若⼿社員本⼈が腹落ちする⾔葉で「教訓」を紡ぎだすヒントとして具体例を提⽰するなどしてもよいでしょう。そして、“実践”で、導き出した教訓を新たな状況において活⽤することを促し、次のPDCAサイクルを回すきっかけを作ってあげることも効果的です。
図2:若⼿社員の「経験学習」を⽀援する
経験学習モデルを⾃ら回すことができるようになれば、若⼿社員が⾃⼰成⻑を進めることはできるようになります。さらに期待したいのは、若⼿社員が主体的に周囲に働きかけて、フィードバックを獲得するということです。
与えられた経験の振り返りに加えて、⾃ら経験の場を創り出し、⾏動を実践してみて振り返るとともに、異なる観点からのアドバイスを求めるということです。
そのような若⼿社員が社内に増え、お互いが刺激しあうことができるようになれば、組織そのものが、学び成⻑することにつながるでしょう。


(学校法⼈産業能率⼤学 総合研究所 経営管理研究所 マネジメント研究センター 杉村 茂晃)