強い組織をつくるために⼈材育成ができることとは?【第2回 新⼈・若⼿社員が定 着・成⻑し、伸びる組織になるためのポイント】

連載第1回では、若⼿の意識や傾向の特徴を確認しました。第2回目の今回は、そのような若⼿をはじめとした⼈材育成を通じて、厳しい環境の中でも成⻑できる強い組織をつくるためのポイントとして、この後の7回の連載を通じてどのようなことをお伝えしていくのか、その概要をご紹介します。

強い組織づくりに影響する要素

強い組織をつくることには、新⼈・若⼿社員⾃⾝の意識、その新⼈・若⼿と⼀緒に仕事を⾏っている先輩社員や上司との関係性とコミュニケーションの状態、さらに上司のリーダーシップや職場づくりの3点が影響します(図表1)。

まず1点目の新⼈・若⼿社員⾃⾝の意識についてですが、皆さんは「リアリティ・ショック」という⾔葉をお聞きになったことはありますか︖リアリティ・ショックとは、⼊社前に抱いていた「期待」と組織での「現実」とのギャップから受ける衝撃のことです。その違いを受け⼊れられず現実に幻滅し、場合によってはそれが引き⾦となって、早期離職につながってしまうこともあります。

そのような事態を回避するためには、新人・若⼿の不安な気持ちを解消させることが必要です。また、新⼈・若⼿は先輩社員に⽐べてわからないことやできないことが多く、割り当てられる仕事も雑⽤だと思うようなものが多いと感じることも少なくないでしょう。そこで、どのような仕事であっても組織として必要性があること、だからその仕事を担当する⾃分がこの組織に存在する意味があると認識させることが⼤切です。そして、そのように現状を前向きに捉えさせるとともに、新⼈・若⼿社員が⾃分の将来についてもある程度⾒通しがつけられる状態にすることも重要です。

図表1 強い組織づくりに影響する要素

新⼈・若⼿と先輩社員との信頼関係づくりが⼤切

次に2点目として、そのようにして⾼まった新⼈・若⼿の仕事に対する意識を、成果を⽣み出す⾏動へとつなげていくために、もっとも⾝近な存在である同じ現場の先輩社員との信頼関係づくりが⽋かせません。本気で⾃分のことを考え、育てようとしていると感じることができると、新⼈・若⼿はその期待に応えようとします。ただ、その結果、⾏ったことがうまくいく場合も、そうでない場合もあるでしょう。そこで重要になるのが、その時の先輩社員や上司の新⼈・若⼿への対応の仕 ⽅です。
皆さんは、その対応の前提として、新⼈・若⼿の様⼦を気にかけ、きちんと⾒て、置かれている状況をきちんと把握できていますか?⼀⽅的な思い込みをしていませんか?

そうならないためには、まず、新⼈・若⼿の話を聴くこと、そして何よりも聴きっぱなしにせず、聴いたことに対してきちんと応えることが⼤切です。具体的に⾔えば、うまくいったことに対しては褒めて認める、そうでなければ叱って⾔うべきことは⾔うということを、事実に基づいてきちんと⾏うことです。特に、うまくいかなかった失敗に対しては、その原因を新⼈・若⼿⾃⾝に考えさせ、次につながる課題をみつける⼿助けをするということがポイントです。

ただ、ここで問われるのが、新⼈・若⼿とのコミュニケーションの質、⾔い換えれば深さです。コミュニケーション内容が、必要最低限の情報の交換だけで終わっているのであれば、せっかくの機会を活かしきれているとは⾔えないでしょう。特に新⼈・若⼿によく⾒られるのが、やりとりしている話の内容や相⼿の態度に⼀喜⼀憂してしまい、相⼿が本当に⾔いたいこと、つまりその話の背景にある相⼿の本⾳が把握できていないということです。
たとえば、少しきつい⼝調で叱られたり、⾃分とは違う意⾒を⾔われたりすると、⼆度と同じように叱られたくない、この⼈とは意⾒が合わないから、これ以上、やりとりしても無駄だと決め付けてしまうようなことは、皆さんの周りで起こっていないでしょうか︖そのきつい⼝調の背景に、相⼿に対するどのような思いや意図があって、そのような⾔動となって表出しているのかということを把握させることが⼤切です。

他者とは、物の⾒⽅や考え⽅は違って当然です。逆に、その違いから、新たな気づきを得ることができて勉強になる、楽しいと思うことができると、⾃ずと相⼿の真意を知ろうとする深いコミュニケーションがとれるようになります。それが、対話によるコミュニケーションです。
また、先輩社員・上司も⾃らの仕事を抱える中で、新⼈・若⼿の成⻑に直結する業務指導において、⼗分な時間がとれないのが現状だと思います。そのような中で、指⽰・命令に終始していないでしょうか?仕事をする中では、当然ながら、あらかじめ計画しておくことのできない、いわゆる状況対応を求められることも多くあります。そのため、決められたとおりにしなければならないこと以外は、新⼈であっても、⾃らその場で状況を⾒て、考えて、⾏動を起こしていくことが求められます。そのために有効なのが、コーチングによる指導です。

上司がリーダーシップを発揮し、⼈が育つ組織づくりを推進

そして3点目として必要なのが、上司がリーダーシップを発揮して、現場のメンバーに良い影響を与えることです。⼈は指⽰や命令でも動きますが、その場合、⾃らやりたいと思って⾏動を起こすわけではありません。そのため、その⾏動は⻑続きしません。
それに対し、上司がビジョンや夢について魅⼒的に語り、それをメンバー全員が共有し、⼀丸となって仕事に取り組むことができれば、各メンバーが判断して⾏動したとしても、軸がぶれることはありません。
合わせて、確実に新⼈・若⼿を成⻑させるためには、上司が育成責任者となり、計画書を作成して現場全員で共有し、全員参画で意図的・計画的に育成していくことが必要です。それに基づいて仕事経験を積ませながら、定期的に成⻑状況を計画書で共有し、必要な⼿⽴てを打っていきます。こうした取り組みを地道に続けていく中で、新⼈・若⼿だったメンバーが成⻑して後輩の新⼈・若⼿を育てる⽴場になり、さらに⾃分を育ててくれた先輩が上司を⽀える右腕となって育成していくことが、⼈が育つ組織づくりにつながります。

以上3点に加えて、上司は⻑期的な視点で組織を存続させ、さらに伸ばしていくために、次世代リーダーを、意図的に時間をかけて育成していくことも非常に重要です。
そして、何よりも最終的には育成した新⼈・若⼿が⼀⼈の社会⼈として⾃⽴し、その後は経験を積む中で試⾏錯誤したり、⾃ら先輩社員に働きかけて新たな気づきを得たりしながら、学び、成⻑していくことが⼤切です。そのために必要な⾃⼰成⻑について、最後に押さえます。

ここまで、強い組織づくりのためのポイントについて、説明してきました(図表2)。

図表2 強い組織づくりのためのポイント
第3回以降は、今回ご紹介したポイントから、特に新⼊社員・若⼿社員と先輩社員の部分にフォーカスを当てて具体的にお伝えしていきます。

(学校法⼈産業能率⼤学 総合研究所 経営管理研究所 研修企画⽀援センター 関 和之)