強い組織をつくるために⼈材育成ができることとは?【第5回 キャリアを形成する「⾒ 通しづけ」】

前回は、新⼈・若⼿社員の「存在意義」について取り上げ、仕事に対する意味づけがやりがいを感じさせ、モチベーションを⾼めることについて確認しました。

今回のテーマは将来に対する「見通しづけ」です。
新人・若⼿社員に限らず、自分自身のキャリアを改めて⾒つめ直し、将来目指す姿を描くことの必要性について、産業能率⼤学 総合研究所 経営管理研究所 研修企画⽀援センターの関 和之が解説します。
学校法⼈産業能率⼤学 総合研究所
経営管理研究所 研修企画⽀援センター
関 和之(せき かずゆき)

キャリアを⾒つめ直し、将来の姿を描くことが必要

⾃分の将来についての展望を持つ(今後の仕事キャリアを考える)ことについて考えていきます。
「存在意義」が、今現在の仕事の意味づけとしたとき、「⾒通しづけ」は、将来に向けた仕事の意味づけとも⾔えます。

最初に、ビジネスパーソンの成⻑実感に関する調査結果を⾒ます。ビジネスパーソンの20代前半の23%、20代後半の45%が、「⾃分が成⻑していると感じられない」という結果が出ています。20代前半に⽐べると、20代後半では成⻑実感がないビジネスパーソンが倍増し、およそ半数に達していることが分かります(図1)。

図1:成⻑実感
新⼈・若⼿のうちは、仕事やトレーニングを通じて、業務のプロセスを覚えたり、知識が増えたりと成⻑を感じることができます。スキルアップそのものが⼀つの目標(目指す姿)になります。ただし、それもある程度まで⾏けば⼀定の⽔準に到達します。問題は、その後どうするのか、です。
先ほどの調査結果でも、20代後半になると、成⻑を感じることができていない⼈が増えます。

そこで、⾃⾝の今後の仕事キャリアについて目指す姿を描かせる必要が出てきます。⾃⾝が目指す姿に対して、「今の仕事がどういう意味を持つのか」「どういう⾏動をとれば、成⻑につながるのか」を考える視点を持たせること(⾒通し付け)が⼤切です。3つの効果が期待されます。

目指す姿を描く「3つの効果」

1.主体的な能⼒開発の効果 将来の活躍の姿に近づくためには、今の⾃分に何が⾜りないのかということを考える基軸になります。 2.動機付けの効果 ⽇々漫然と仕事に関わるより、将来の目標をもって仕事に取り組むほうがやる気も出てきます。 3.目指す姿の再設定の効果 状況の変化によって、当初描いていた目指す姿の実現が難しくなる場合もあります。 考え⽅を知っていれば、また⾃ら新たに描き直すことができます。

Will ・Can ・Must の3つの観点で目指すシナリオを作る

次に、活躍の姿を描くポイントを⾒ます。【1】Will、【2】Can、【3】Must という3つの観点で、⾃分⾃⾝を振り返ることです(図2参照)。
図2:Will ・Can ・Must を踏まえ、将来の目指す姿を考える
【1】Will は、「仕事において、⾃分が⼀番⼤事にしたいことは何か?」という観点です。
仕事の価値観と⾔ってもいいでしょう。ある⼈は「チャレンジすること」かもしれませんし、ある⼈は「お客様の笑顔」かもしれません。
他にもいろいろあるでしょう。仕事の仕⽅(スタイル)は⼈によって異なりますが、その違いを⽣む⼀つの原因は仕事の価値観にあります。また、価値観は必ず⼀つというわけではありません。複数ある場合もありますし、時が経って変わる場合もあります。
⼤切なのは、⾃分にとっての優先順位を知っておくことです。

【2】Can は、「⾃分の能⼒の強み・弱みは何か?」という観点です。
能⼒には、仕事に関する専門技能もあれば、コミュニケーション⼒や構想する⼒など、どのような仕事でも有効な能⼒もあります。能⼒と⾔うと、専門技能だけが注目されがちですが、汎⽤的に使える能⼒もとても⼤切です。⼈を束ねる⽴場になれば、リーダーシップも求められます。

【3】Must は、「考えておかなければならないことは何か?」という観点です。
具体的には、⾃分を取り巻く環境について把握することです。
市場の動向、お客様のニーズ、⾃分・家族の⽣活の状況などがあります。環境は常に変化します。
その意味でWillやCanと異なり、⾃分の意志ではコントロールできない領域です。
将来を考える上で、⾃分に何が影響してくるのか、常に⾒ておく必要があります。

上記の3つの観点を踏まえ、今後の活躍の姿を描きます。そして○年後にどういう状態になっていれば目指す姿に近づけるかのシナリオを描きます。ただし⽅程式のように答えがすぐに出るものでもありませんし、シナリオ通りにいくとも限りません。

⼤切なのは、節目で仕事経験を振り返り、⾃らに問いかけることです。目指す姿に向かって頑張る中で、当初とは思いが変わったり、さまざまな能⼒が⾝についたりします。そうなれば目指したい別の姿が浮かび上がるかもしれません。キャリアをつくるとは、⾃分の頭で考え、⾃分で選択する、ということなのです。

そして⽀援する側(上司や先輩社員)が、たまに若⼿社員に問いかけ、考えさせてあげてください。「○○さんは、どう考える︖」と。
ただし答えを提⽰する必要はありません。話を聞いてあげるだけでもいいのです。もちろん⾃分の経験やアドバイスを伝えてあげれば、参考になると思います。

また、「ああいう⼈になりたいなぁ」と思える上司や先輩社員の存在は何より重要です。キャリアの展望を持ってイキイキと働く姿そのものが、後輩・若⼿社員にとっての最良の⾒本(モデル)になります。


(学校法⼈産業能率⼤学 総合研究所 経営管理研究所 研修企画⽀援センター 関 和之)