強い組織をつくるために⼈材育成ができることとは?【第7回 「対話」によるコミュニ ケーション】

今回のテーマは「職場内でのコミュニケーションを⼤切にしよう!」です。ただし、単純に「会話」の機会を増やそう、ということではありません。
そこで注目していただきたいのが「対話」です。
では、「対話」とは何でしょうか? 「会話」と「対話」、何が違うのでしょうか? そして、どのような注意点があるのか?
今回は、その「対話」によるコミュニケーションについてお話していきましょう。
学校法⼈産業能率⼤学 総合研究所
経営管理研究所
⼈事・コミュニケー ション研究センター
岩元 宏輔(いわもと こうすけ)
※所属・肩書は掲載当時のものです

仕事で求められる関係性は「ただ仲良くなればいい」ということではない

「職場内でのコミュニケーションを⼤切にしよう」結論から聞くと「それはそうだ」「そんなことはわかっている」と思われる⽅も少なくないかもしれません。では、「コミュニケーションを⼤切に」と⾔われたら、どのような策を打ちますか?

企業研修の中でこのように問いかけると、「できるだけ話しかけよう」「仕事以外の話をする」「1対1の定期⾯談を実施する」「部署内で『LINE』のグループを作ろう」「何より飲みニケーション!みんなで定期的に飲みに⾏こう」・・・などといったアイディアがよく出てきます。要は、「会話」を増やそうという観点です。

確かに「会話」が増えることも効果的です。ちょっとしたおしゃべりや情報交換を通じて、スタッフ同⼠の距離が縮まったり、うまくいけばモチベーションの向上にもつながるでしょう。
しかし、仕事で求められる関係性は「ただ仲良くなればいい」ということではありません。組織の掲げる目標の達成や目的・ビジョンの実現のために、協⼒して働くこと(=協働)が求められているのです。

今回のテーマである「対話」とは「協働に向けたコミュニケーションのかたち」です。ではその「対話」とは何か?「会話」と「対話」、何が違うのか?そして、どのような注意点があるのか?についてお話していきましょう。

「対話」とは 相互理解を目的にしたコミュニケーション

様々な考え⽅や価値観を持つ者同⼠が、チームワークを発揮して協働するために⼤切なこと。それは「相互理解」です。 お互いがどんなことを考えていて、何を⼤切にしているのか?仕事上でどんな強みを持っていて、何が苦⼿なのか?はたまた今どんな課題を克服しようとしているのか?などなど・・・。 「対話」を重ねることで相⼿のことが少しずつ理解できるようになっていき、また同時に⾃分⾃⾝がどんなことを考えているかも明らかになっていきます。つまり「対話」とは、お互いを「わかり合う」ことを目的にしたコミュニケーションとも⾔えるのです。

では、わかり合うために重要なことは何か?それは「意味の共有」です。
例えば何気ない会話の中で「明るい⼈っていいよね」という話題になったとします。
ここでいう「明るい⼈」とはどういう意味なのか?どんな⼈をイメージしているのかは、その⼈によって違います。
「誰にでも気さくに話しかけられる、おしゃべり好きな⼈」を頭に浮かべている⼈もいれば、「失敗しても落ち込まず、いつも元気で笑顔が絶えない⼈」を想像している⼈もいます。

同じ⾔葉であっても、「どういう意味で使っているのか?」を共有することで、お互いのことをより深く理解できることにつながるのです。

「対話」とは「シリアス・ファン(= 真⾯目に物事を楽しむ)」なコミュニケーション

では、「対話」と「会話」は何が違うのでしょうか︖会話を「⽇常のたわいもないおしゃべりや雑談」と捉えた場合、対話との違いとして「テーマの有無」が挙げられます。

対話には話し合うテーマがあります。例えば先述の「明るい⼈とはどんな⼈か?」といったことについて、お互いがその⾔葉の意味や考えを伝え合い、相互理解を深めていく。さらにはお互いが共感できる新しい「明るい⼈像」が浮かび上がってくることもあるでしょう。「○○さんって明るいよね」「そうだよね」といったような、⾃然の流れで思いつくままに語りあう会話とは、話の深まり⽅が異なってくることが想像できるのではないでしょうか。

⼀⽅で、「テーマを持って話す」と⾔われると「(マジメで堅苦しい」議論」をイメージされる⽅もいらっしゃるかもしれません。
確かに「議論」同様、「対話」はテーマを持った真剣な話し合いではあります。しかし喧々諤々、お互いの主張を通そうとし合うような「議論的な」雰囲気の場ではありません。

おしゃべりや雑談のような「⾃由なムード」で、議論のようにテーマを持って「真剣な話し合い」を⾏う。
「対話」とは「シリアス・ファン(=真⾯目に物事を楽しむ)」なスタンスで⾏うコミュニケーションの場であると⾔えるのです。
「会話」と「対話」の違い

相互理解を深める第⼀歩は「違いを認める」こと

最後に「対話」を⾏う上での注意点に触れていきたいと思います。
相互理解を深めるための第⼀歩は「違いを認める」ことです。対話において、お互いの考えや⼤切にしていることを表明し合うことは必要不可⽋です。
そうすると、必ず意⾒の相違が⽣まれてきます。

⼀つ事例で考えてみましょう。私の友⼈にバイクレースが趣味という同世代の男性がいます。彼曰く「猛スピードで急カーブする時のスリルがたまらない」と⾔うのです。バイクに乗ること⾃体に怖さを感じる臆病者の私にとっては、到底共感できない価値観です。
しかしそこで「私には理解できない。彼とは気が合わない」と考えるのではなく、「彼はスリルを味わうことがたまらないんだな」と、彼の価値観を尊重することが⼤切です。

共感はできなくても、尊重はできます。「⼈はそれぞれ違う価値観を持っているんだ」ということを受け⼊れながら話を進めていくことが、「対話」において重要になるのです。

※参考⽂献:中原淳・⻑岡健著『ダイアローグ 対話する組織』(ダイヤモンド社、2009年)

(学校法⼈産業能率⼤学 総合研究所 経営管理研究所 マネジメント研究センター 杉村 茂晃)