強い組織をつくるために⼈材育成ができることとは?【第8回 コーチングによる指導】

前回は「対話」をテーマとし、「お互いの理解を深め、よりよい関係を構築し、その結果、チームワークを発揮した協働の実現につながっていく」というお話でした。今回もコミュニケーションのお話ですが、「関係構築」というより「指導・育成」に寄ったアプローチとして「コーチング」をご紹介します。
学校法⼈産業能率⼤学 総合研究所
経営管理研究所
⼈事・コミュニケー ション研究センター
岩元 宏輔(いわもと こうすけ)
※所属・肩書は掲載当時のものです

コーチの語源は「⾺⾞」

「コーチ」と聞いて、パッと思い浮かぶのはどんな⼈でしょう?企業研修でこのような質問をすると、多くの⼈が「スポーツの指導者」をイメージします。「コーチ」が⾏う指導・育成的な関わり⽅を「コーチング」と呼び、昨今、企業や組織における⼈材育成のアプローチとして導⼊されているのです。
「コーチ」という⾔葉の語源は、ハンガリーの町「Kocs(コチ)」で初めて作られた四輪⾺⾞「kocsi(コーチ)」であるとされています。(⾼級ブランド「COACH」のロゴマークが⾺⾞ですね。)
英語の「コーチ(coach)」という⾔葉に指導者的な意味が⽣まれたのは19世紀ごろのイギリス。
家庭教師を表す俗語として、「コーチ」という⾔葉が使われるようになりました。同じように指導的な意味を持つ「トレーナー(trainer)」という⾔葉があります。「train」は「汽⾞・列⾞」という意味も持つように、レールに沿って、目的地に引っ張っていくニュアンスがあります。⼀⽅「コーチ」は乗り⼿の向かう目的地に、望ましい道筋を通って、送り届けていく存在です。(図1参照)
図1:トレーニングとコーチングの違い

「⾃ら考え、⾃ら動く」⼈材を育てるメンバーオリエンテッド・アプローチ

コーチングとは、「コミュニケーションを通じて、目指す姿に向けた⾃発的な⾏動を促すこと」です。⼈材育成の観点でいえば、「⾃ら考え、⾃ら動く」⼈材を育てるアプローチとも⾔えるでしょう。「教える」「伝える」というより、「引き出す」というスタンスであることが特徴です。本学のビジネスコーチング研修では「メンバーオリエンテッド・アプローチ」と表現していますが、指導する側の視点で考えるのではなく、相⼿の⽴場に⽴って効果的な⽅法を考えます。⼈それぞれ、仕事の覚え⽅や、望ましいコミュニケーションの取り⽅・受け⽌め⽅は違います。褒め⾔葉⼀つとってもそうです。例えば以下について考えてみましょう。
あなたは4⼈の友⼈に⼿作りハンバーグを振舞いました。
友⼈たちはそれぞれの⾔葉で褒めてくれました。
あなたにとっては、誰の⾔葉が⼀番嬉しいですか?

Aさん︓「美味しい︕すごい!天才!!」
Bさん︓「仕込みとか⼤変だったでしょう︖私たちのために作ってくれてありがとう。」
Cさん︓「これはもう、洋⾷店の味だね」
Dさん︓「もう少し塩味が加わると、完璧だね」
さて、あなたはどの⾔葉を選んだでしょうか?企業研修でこの質問をすると、⼈数の差はあれ、A~Dまで回答が分かれます。さらに、同じ⾔葉でも「嬉しい」 と感じる⼈、「嬉しくない」と感じる⼈が分かれます。⾃分が⾔われて嬉しい⾔葉が、必ずしも相⼿が嬉しいとは限らない。⾔葉にすれば当たり前のことです が、指導・育成場⾯で相⼿の⽴場に⽴って関わったり、声をかけたりすることは案外難しいものです。しかし、「⾃発的な⾏動」を促すためには、メンバーオリエンテッドのスタンスで関わることが重要なのです。(図2参照)

図2:メンバーオリエンテッド・アプローチ

意⾒を、やる気を、⾏動を引き出すポイント

ではコーチングは何を引き出すコミュニケーションなのでしょうか︖仕事においては「意⾒」や、「やる気」、そして「⾏動」を引き出すことが重要です。 意⾒を引き出すためには「聞く姿勢」と「質問の仕⽅」がポイントです。「聞く姿勢」はシンプルに「ただ聞く」ということ。特に指導場⾯では、「アドバイスしなければ」「意⾒や評価しなければ」といった気持ちになりがちです。⾃分が⾔って欲しいことを⾔わせようとするのはもってのほ か。こちら側の意図や考えは挟まずに、ただただ相⼿の話を聞く。相⼿が考えていること、伝えよ うとしていることを理解しようとする。「そういう考えを持っているのか」ということを知る。こ れが第⼀歩です。 「質問の仕⽅」でおさえておくべき基本スキルは「オープン・クエスチョン」と「クローズド・ク エスチョン」です。オープン・クエスチョンは主に5W1Hで始まる、様々な答え⽅ができるアン サーフリーの質問の仕⽅です。クローズド・クエスチョンは、答え⽅が「イエスかノーか︖」「A かBか︖」などといった形で限定される⼆者択⼀的な質問の仕⽅です。 例えば「今⽇の体調はどう︖」はオープン・クエスチョンで、「今⽇、風邪引いてる︖」は「風邪 を引いてる/引いていない」で答えられるのでクローズド・クエスチョンです。この2つの使い分 けが重要になりますが、相⼿の⾃発性を⾼めるためには、「オープン・クエスチョン」を効果的に 使うことが必要です。まずは⽇ごろ⾃分がどういう⾔葉で質問をしているのか︖知らず知らずのう ちに「クローズド・クエスチョン」ばかり投げかけているケースもよく⾒受けられます。相⼿の意 ⾒を引き出す質問の仕⽅として「オープン・クエスチョン」を意識することから始めましょう。

(学校法⼈産業能率⼤学 総合研究所 経営管理研究所 マネジメント研究センター 杉村 茂晃)