「マネジメント」とは?定義と育成における課題&ヒント

「マネジメント」とは?定義と育成における課題&ヒント

マネジメントは組織の生命線であり、その効果的な運用は企業や組織の成功に直結します。しかし、マネジメントの本質とは一体何なのでしょうか?この記事では、マネジメントの基本的な定義や現代における重要性を明らかにし、マネジャーの育成に関する課題やヒントについて解説します。

筆者プロフィール

杉崎 高広 (Sugizaki Takahiro)

学校法人産業能率大学 経営管理研究所 人事・マネジメント研究センター長 主席研究員 総合研究所教授

杉崎 高広
(Sugizaki Takahiro)

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マネジメントの定義

マネジメントとは、「組織の目標を達成するために、経営資源を有効活用する機能」と定義します。

ここでは、マネジメントをより深く理解するために、以下の三つの重要な側面を取り上げます。これらの要素は、マネジメントを行う上で非常に重要であり、各々が組織の円滑な運営において大きな役割を果たします。

(1)組織の目標を達成する

組織には「共通する目標」があります。逆に言えば、共通する目標のない集団を通常は組織とは呼びません。この組織は「何のために存在しているのか」「どこを目指そうとしているのか」「何を達成しようとしているのか」が明確になっていなければ組織とは言えないのです。

この「組織の目標」は幅広く捉えてください。最上位の目標は、経営理念や全社目標となりますし、マネジャーであれば自分がマネジメントする職場の目標ということになります。いずれにせよ、組織が掲げる共通目標を達成すること、言い換えれば職場の成果を最大限に生み出すことこそがマネジメントと言えます。

(2)経営資源の有効活用

経営資源は、以前から「ヒト、モノ、カネ」と言われてきましたが、それ以外にも「知的財産、ブランド、時間、情報・データ」などが挙げられます。今後は、「AI(人工知能)」も重要な資源と位置付けるべきでしょう。このような様々な経営資源を有効活用して、職場の成果を創出し、目標を達成していくことがマネジメントになります。

マネジメントという言葉の語源を調べると、「やりくり」という意味にたどりつきます。「人のやりくり」「金のやりくり」「時間のやりくり」など、経営資源を有効活用することがマネジメントなのです。皆さんは、どの資源のやりくりに苦労しているでしょうか。

(3)人を通じて事を成し遂げる

マネジメントとは「経営資源の有効活用」ですが、最も重要な資源は「人(人的資源)」になります。Koontz & O'Donnell (1955)は、「マネジメントとは、自分以外の者を通じてものごとをなさしめるという機能」と定義しています。マネジメントとは、「人を通じて事を成し遂げる」仕事なのです。よって、マネジャーの仕事の出来映えは、自分ひとりではなく他の人々の「がんばり具合」に依存するようになります。

しかし、現実には「忙しくて部下を育てる時間がない」「自分がやった方が早い」「この仕事は部下に任せられない」といった声を現役のマネジャーからも耳にします。その結果として「いつまで経っても部下が育たない」、といった本末転倒な状況に陥ることもあります。マネジャーはマインドをリセットして、自分が多忙だからこそ、部下を早く戦力化し、その部下を通じて成果が出るようにしなければいけないのです。

現代におけるマネジメントの課題

マネジメントの定義を確認しましたが、これを実践していく現場においては様々な課題があります。組織を取り巻く環境が激変する現代において、特筆すべきマネジメントの課題を挙げます。

(1)「人的資源管理」から「人的資本経営」へ

「人材」という経営資源をどのように見るのかは、マネジメントにとって重要な視点です。人材を「コスト(費用)」として見れば「カット」するイメージ、「リソース(資源)」として見れば「使う」というイメージが沸きます。

現代は、人材を「キャピタル(資本)」として見る「人的資本経営」の実践が旗印になっています。マネジメントは「経営資源の有効活用」と紹介しましたが、唯一「人材」に関しては、見方を変えていく時代の節目にあるかもしれません。人材を資源として「使う」マネジメントではなく、人材を資本として捉え、積極的に投資し、その価値や能力を最大限に引き出すことで、中長期の価値の向上につなげていくことがマネジメントの課題になっています。具体的には、人材への教育投資を増やすこと、部下が成長できる貴重な仕事をアサインすること、部下の自律的なキャリア開発を支援することなどが現代のマネジメントに求められています。

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(2)「働き方改革」から「働きがい改革」へ

昨今の日本企業は、長時間労働の是正などを掲げた「働き方改革」を本気になって取り組んできました。就業環境は以前に比べれば大幅に改善しています。しかし、様々な調査結果を見る限り、仕事そのものに対するモチベーションの向上にはつながっていません。働き方改革で、就業環境に関する不満は解消されましたが、仕事への前向きなモチベーションは高まっていないのです。

今後求められる改革は、「働きがい改革」に取り組むことです。部下から「この仕事の魅力は何ですか?」と問われたときに、マネジャーとして明快に説明することができるでしょうか。夢や希望を感じさせる職場ビジョンを描き、魅力的な仕事をクリエイトし、職場の中に「働きがい」を創出することが今後のマネジメントの課題です。就業環境や賃金のことを忘れてしまうくらいの魅力的な仕事を創り出し、部下が仕事に没入できるようなマネジメントの理想を目指してほしいです。

(3)「個の力」から「チームの力」へ

現代の組織は「分業化」の流れが加速し、職場の問題では「属人化」にまつわる弊害が増えています。テレワークなど多様な働き方が増え、「個業化(一人で仕事が完結する)」も強化されました。さらには、人材の「専門化」を強化し、「個の力」を高めています。もちろん、これらの流れにはプラスの側面があるわけですが、マイナスの側面を指摘すれば組織がバラバラになってしまう要因が増大していることです。

こういう時代だからこそ、「組織の結節点」としてのマネジメントの役割が重視されます。組織がバラバラにならないよう、人と人、組織と組織をつないでいくマネジメントの力が必要なのです。逆説的ですが、「分業化」「個業化」を強めれば強めるほど、個の力を統合し、チームの力に変換していくマネジメントの力が求められるのです。具体的には、協働・支援体制の構築、複数メンバーでタスクに取り組む工夫、コミュニケーションの活性化、ナレッジを共有する場作りなど、「チームの力」の強化がマネジメントの課題です。

(4)「フォアキャスト」から「バックキャスト」へ

マネジメントは「組織の目標を達成すること」ですが、目標の前提となる課題やビジョンを形成することも求められています。その際、フォアキャストとバックキャストという2つのアプローチがあります。フォアキャストは、現在や過去の実績から未来を予測するアプローチです。これまでの日本企業は、フォアキャストのアプローチが中心で、現状から漸進的に良くしていく「改善」が強みだったと言えます。しかし、現状の延長線上で考えていく現実的なアプローチのため革新的な取り組みは期待できません。

一方、バックキャストは、未来の「ありたい姿」「ビジョン」を描いてから、逆算で現在に戻り、何をすればよいかを考えるアプローチです。新しい価値やイノベーションの創出を期待するのであれば、バックキャストの考え方を取り入れていくべきです。組織のビジョン(ありたい姿)を描き、そこから逆算で日々のマネジメントを実践していくアプローチが求められています。日本企業で働くマネジャーは、単年度目標の時間軸で、それを達成することに全精力を注いでいるようにみえ、3年先、5年先の未来のビジネスを本気で考えているマネジャーは少ないように思います。今後の課題は「バックキャスト」のアプローチ、端的に言えば、「未来を創るマネジメント」の実践です。「未来のビジネスを創る」「未来の組織を創る」「未来活躍できる人材を創る」ことがマネジメントの課題です。

マネジャーの実態

マネジャーとは、上記1、2で記述したマネジメントの定義や課題を実践する「責任者」と考えています。ここでは、マネジャーの現場における実態に触れたいと思います。

(1)マネジャーの苦労

上記1、2では、相当の理想論を述べてしまったという自覚はあります。私どものような講師業は、ついつい理想論、あるべき論、紙の上でのマネジメントを語ってしまう傾向があります。しかし、現場のマネジメントは、理想論では語れない「現実の苦労」があります。「当事者でなければ、その苦労は分からない」というのは、どのような立場であっても通じる本質だと思います。マネジャーも当事者でなければ、その苦労は分からないということです。

昨今のマネジャーの苦労として、「プレイングマネジャーとして多忙感」「多様な部下とのコミュニケーションの悩み」「コンプライアンスの徹底」「上下左右からの板挟み状態」「成果創出へのプレッシャー」など挙げればきりがないほどストレスフルな状態にあると思います。極端に言えば、「マネジャーだから・・・」という理由で、あらゆる負荷をマネジャーに課してしまっている実態はないでしょうか。

(2)マネジャー忌避傾向

このようなマネジャーを取り巻く状況の中で、マネジャーへの忌避傾向が高まっています。ダイバーシティ推進のために、女性管理職の割合を高めるべく数値目標を掲げる企業が増えていますが、女性本人が管理職への忌避感を持ってしまうケースも増えています。自分たちの上司を見て、「マネジャーになりたくない」という気持ちを持ってしまうのでしょう。また、現役のマネジャーからも「苦労、辛さ、悩み」などネガティブな気持ちを切実に訴えかける声が増えています。

もちろんすべての人材がマネジャーを目指す必要はないですし、なれるわけでもありません。ただし、マネジメントの重要性がクローズアップされている現代において、組織としては何らかの対応が求められているのではないでしょうか。

マネジャーのトレーニング

マネジャーを取り巻く状況が厳しくなる中で、組織としてどのような対応が求められているでしょうか。特に、人事教育部門の方々へのメッセージをお伝えしたいと思います。

(1)マネジャーへの投資と支援の強化

まずは、組織としてマネジャーへの教育投資を強化していくことです。人的資本経営では、どのような人材に投資するか、という重点化やメリハリをつけることが必要です。若手の離職が深刻になる中で、若い人たちへの投資が増えている傾向があるようです。しかし、若手のエンゲージメントを高めたいのであれば、育成責任を持つマネジャーの役割も重要であるはずです。マネジャーへの教育投資を強化してはどうでしょうか。筆者個人の定量調査においても、部下指導力などの「人材管理力の強化」がマネジャー忌避傾向を低下させることが分かっています。

また、マネジャーがストレスフルな立場にあることを人事教育部門として理解し、マネジャーの苦労や悩みに寄り添ってほしいと思います。具体的には、マネジャーと定期的に意見交換する場をつくる、人事も現場に足を運んでコミュニケーションを取る、マネジャーがいつでも学べる自己啓発メニューを充実させる、といった取り組みです。マネジャーと人事教育部門の関係性を強くする仕組みや支援する体制を構築してください。

(2)プレイヤーからマネジャーへの移行は「リスキリング」

プレイヤーからマネジャーへの移行は、1つの「リスキリング」と捉えています。「名プレイヤー、必ずしも名監督にあらず」という格言がありますが、双方の役割には連続する部分がありつつ、異なる要件、異なる能力が必要であることを示しています。プレイヤーは自分の目標を達成すること、つまり「自分が勝つこと」が主たる役割になります。しかし、マネジャーは、職場の目標を達成することが役割になるので、メンバー一人ひとりが目標達成できるよう「支援」していくことが求められます。つまり、自分が勝つことではなく、「メンバーを勝たせること」が役割なのです。この課題だけでも意識転換が必要ですし、経験を通じて学んできたことを捨て去る「アンラーニング」が必要になります。プレイヤーからの延長線上にマネジャーを位置づけるのではなく、この切り替えのタイミングで、「マインドセットとリスキリング」を図ることが大切です。

もちろん、この切り替えのタイミングだけでなく、前後の教育を連動させることも大切です。点だけの単発研修で終わらせず、線で育てる、つながりをもたせる、長い目で支援していく、そういう教育研修体系を期待したいです。

(3)押し出すマネジメントから引き出すマネジメントへ

既任のマネジャー、ベテランマネジャーと接していると、自分がプレイヤーとして仕事をしてきた環境と大きく変わり、新しいマネジメントの実践に迷走し、試行錯誤している印象を受けます。トップダウンの組織文化の中で、上司からの指示命令で仕事経験を積み重ねてきたベテランに、双方向コミュニケーションや対話型のマネジメントをやりなさい、と要請するだけでは難しいでしょう。

この課題は、トレーニングしていくことに尽きると思います。マネジャーが上から目線で持論を「押し出すマネジメント」から、部下の意見や強みを「引き出すマネジメント」にシフトすべきことを認識してもらう必要があります。昨今のマネジメント研修のプログラムでは「質問、傾聴、共感、受容、コミュニケーション」といった内容が入っています。その重要性を理解し、具体的なスキルを習得し、「質問上手なマネジャー」「傾聴上手なマネジャー」を育成することが大切です。

おわりに ~マネジメントの魅力~

マネジャーへの忌避傾向が高まっているものの、少なからずマネジメントという仕事の魅力もあるはずです。最後に、マネジメントの魅力、やりがい、喜びを伝えて本コラムの結びとします。

まずは、「大きな絵を描く魅力」があります。マネジャーになれば大きな権限が付与され、使える資源も増えます。チームとしての大きな絵(ビジョン)を描き、大きなことにチャレンジできる魅力があります。昨今は、目標がこじんまりとしていて夢も希望も感じられないと揶揄されることがあります。組織のマネジャーは、「ほらを吹く」くらいの大きなビジョンを描いていいのではないでしょうか。

次に、「部下を育てる喜び」があります。親が子供の成長にこの上ない喜びを感じると言われますが、部下育成も本質は同じだと思います。育成している部下が、一歩ずつ成長している姿を見ることは大きな喜びです。その成長に微力ながらも支援できているという実感は、マネジャーである自分自身のモチベーションにもつながるはずです。

最後に、「チームで勝つ喜び」があります。「個人で勝つ喜び」と「チームで勝つ喜び」の「ある種の違い」を体感したことはないでしょうか。チームで勝つ、仲間とともに勝つ喜びは、個人の勝利とは異なる「ひとしおの喜び」があるはずです。個業化など個人主義的な風潮が高まっているからこそ、チームで勝つ喜びを若い人たちにも体験させてほしいです。そのために、皆と協働しながら何かを成し遂げること、コミュニケーションを通じてより良い結論に高めていくこと、チームで課題にチャレンジすることなど、メンバーの総力を結集して、チームで事を成し遂げていくマネジメントの力を存分に発揮してください。

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