人的資本経営とは? 人事部が実践するためのポイントを解説

人的資本経営とは?人事部が実践するためのポイントを解説

人的資本経営とは、人材を企業の最大の資産として活用し、その能力やモチベーションを高めることで、組織の競争力や成長力を向上させる経営手法です。人的資本経営を実践するには、単に人への投資を増やすだけでは不十分です。戦略に沿った人材マネジメントを行うことが重要となります。
この記事では、人的資本経営の実行部隊となる人事部が効果的な人材マネジメントを推進するための具体的なポイントや留意すべき点をご紹介します。

人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材を企業の最大の資産として活用し、その能力やモチベーションを高めることで、組織の競争力や成長力を向上させる経営手法です。
従来までの経営では、従業員は経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の一つであり、費用(コスト)として捉えている経営者も少なくありませんでした。
一方の人的資本経営における‟人材“は、研修や経験の場を通じて成長することができるため投資の対象として捉えます。従業員が持つ知識やスキル、経験やネットワークなどは無形の資産であり、これを組織の戦略や目標に沿って最大限に活用することで、組織のパフォーマンスを高めることができます。
経済産業省が旗振り役となり、上場企業に対しては人的資本の情報開示義務が課されましたが、人手不足という慢性的な課題を抱える中小企業も人的資本経営に真摯に向き合うべき時が到来したと言えます。

人的資本経営を推進することのメリット

このように注目されている人的資本経営ですが、企業側にもさまざまなメリットをもたらします。いくつかご紹介しましょう。

① 従業員の満足度やエンゲージメントが高まり、生産性や創造性が向上します。

人的資本経営では、従業員の働き甲斐や働きやすさを向上させるための支援を行います。それらの支援施策によって、従業員は自分の仕事に対してやりがいや誇りを感じたり、自発的に取り組んだりすることで、満足度やエンゲージメントが高まり、生産性や創造性が向上することにつながります。

② 従業員がキャリアパスを描くことで、人材の流出や離職率が低下します。

人的資本経営では事業の成長と従業員のキャリアパスを合致させることを目標とします。そのため従業員が自分の能力や可能性を伸ばすために必要な教育やトレーニング、メンタリングやコーチングなどの支援を受けることで、自分のキャリアパスを描くことができ、結果的に離職率の低下につながります。

③従業員の多様性や個性を活かし、イノベーションや新規事業の創出につながります。

人的資本経営ではダイバーシティを尊重します。そのため従業員が自分の性別や年齢、国籍や文化、バックグラウンドや価値観などの違いを尊重され、受け入れられることで、自分らしく働くことができます。また、他者と異なる視点や知識を持ち寄ることで、既存の枠組みにとらわれない革新的なアイデアや提案を生み出すことができます。

④ ステークホルダーとの関係が強化され、組織のブランド力が高まります。

人的資本経営では組織のパーパス(存在意義)に従業員もコミットすることが望まれます。自分の仕事に対して社会的な意義や責任を感じ、社会に対して良い影響を与えることを目指すことで、ステークホルダーとの信頼関係を築き、組織の評判やブランド力を高めることができます。

人的資本経営の推進に立ちはだかるさまざまな問題点

一方で、人的資本経営をいざ推進しようとしても一朝一夕にはいきません。産業能率大学総合研究所が2022年に実施した「戦略的人材マネジメント実態調査」から、人事部門、人材開発部門に所属する方々の実際の生の声を見てみましょう。問題の所在ごとに、3つに分類しました。自社の抱える問題状況と比較してみてください。

経営層・経営企画部門

  • 人材戦略・人材育成が軽視されている
  • 経営層が経験ベースで意思決定するため時代にそぐわない
  • 経営層が現場を認識しないまま意思決定する
  • 経営戦略が抽象的すぎて人材戦略を立てづらい
  • 外部環境がビジネスに大きく影響するため戦略が描きづらい

CHO・人事・人材開発部門

  • 経営戦略のスピード感に人材戦略の見直しが追いついていない
  • 経営戦略と人材戦略をつなぐ仕組みや場がない
  • スタッフ不足、体制不足
  • 人材戦略の立案を現場が行っており、戦略的に進められない
  • 経営戦略に基づきジョブ型導入予定、法制度とのずれが多く難儀している

事業部門

  • 適切な人員配置や適材適所が難しい
  • 組織運営/マネジメント/戦略遂行に必要な人材の育成ができていない
  • 人材戦略と社員教育や研修がかみ合っていない
  • 客観的に評価すること、教育効果の定量化、可視化ができていない
  • 現業部門に合わせて人事教育活動を調整している

人的資本経営を具体的に進めるためのポイント

人的資本経営を具体的に進めるためには、以下のポイントに注意する必要があります。

経営戦略と人材戦略を連動させることが何より重要。

人的資本経営を推進する上で、経営戦略と人材戦略を連動させることは最も重要な要素です。なぜなら、経営戦略は、組織の目標や方向性を明確にするものであり、人材戦略は、それを実行できるように従業員の採用や育成、評価や報酬などを設計するもので、目的と手段が合致してこそ、その活動が有効になるからです。
「戦略的人材マネジメント実態調査」では、経営戦略と人材戦略が連動できている企業は約6割で、それらの企業は、人事や人材開発部門の取り組みも進んでいるという結果が得られています。
戦略との連動を踏まえた上で、下記のポイントについても抑えましょう。

人的資本経営のビジョンや目標を明確にする。

人的資本経営を実現するためには、経営層や管理職がその重要性や方向性を理解し、従業員にも共有することが必要です。ビジョンや目標は、具体的で測定可能であり、定期的に評価やフィードバックを行うことで、進捗状況や効果を確認することができます。

組織内のコミュニケーションやダイアログを促進させる。

人的資本経営を推進するためには、経営層や管理職、従業員の間で、コミュニケーションやダイアログを促進させる必要があります。そのための場づくりや仕掛け作りが人事部に求められますので、日ごろから経営層との綿密なコミュニケーションを心掛けるとともに、事業部や現場にも実際に足を運ぶなど、自ら働きかける姿勢が重要となります。

人的資本経営に関するデータや指標を収集・分析・活用する。

人的資本経営の成果を測るためには、従業員の能力やモチベーション、パフォーマンスなどに関するデータや指標を収集・分析・活用することが必要です。データや指標は、人事制度や教育・研修制度などの改善や改革の基礎となります。また、データや指標を公開し、従業員やステークホルダーと共有することで、透明性や信頼性を高めることができます。

人的資本経営を実践する企業事例

産業能率大学がご支援させていただいた企業様の中で、人的資本経営を人材育成面から実践している好事例をご紹介します。

株式会社荏原製作所
荏原製作所様では、「競争し、挑戦する企業風土」づくりに向けて、経営戦略を実現するための人材戦略を策定し、それに沿った効果的なさまざまな研修を実施されています。人材育成において大切にしていることや、施策立案や研修実施における留意点についても参考にしていただける内容です。
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株式会社サザビーリーグ
人的資本経営の実現には、自律的キャリア形成がベースにあります。サザビーリーグ様が重視しているのは、組織のために人が成長するのではなく、従業員の成長がブランドの成長に繋がっていくという「ピープルビジネス」という考え方です。
この思想をどのように人材育成に展開しているのか、具体的な施策を紹介しています。
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まとめ

人的資本経営とは、人材を企業の最大の資産として活用し、その能力やモチベーションを高めることで、組織の競争力や成長力を向上させる経営手法です。人的資本経営を実践するには、単に人への投資を増やすだけでは不十分です。戦略に沿った人材マネジメントを行うことが重要となります。
一方で、人事部や人材開発部門が抱える問題点として、「経営戦略のスピードに人材戦略の見直しが追い付いていない」「経営戦略と人材戦略をつなぐ仕組みがない」「スタッフや体制が不足している」などの声も多く聞かれます。
産業能率大学総合研究所では、人的資本経営を実現するために、人事教育部門が経営層や事業部門に働きかけるためのご支援や、教育体系の再構築、人的資本情報開示のコンサルテーションを実施しています。お気軽にご相談ください。

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