戦略的人材マネジメント実態調査報告書2022
いま日本では、国や産業界が旗振り役となって「人的資本」という考え方の重要性を浸透させ、「人的資本経営」を推進しようとする動きが活発になっています。産業能率大学では、創立者の上野陽一の「人の『もちまえ』を十分に発揮させる」ためのマネジメント論を受け継ぎ、「人材育成を通じた長期的投資で人と組織の成長に寄与する」お手伝いをしていますが、組織・企業へのご支援を通じて、人への投資の重要性を認識しながらも、人事・教育現場ではなかなかそれが具現化されない状況も多く目にしてきました。
今回はそのような原因や背景、人事教育部門で妨げになっているものの解明を契機に、HR総研(ProFuture株式会社)と共同で「戦略的マネジメント実態調査」を実施しました。
- 調査対象:日本企業・組織における人事/人材教育部門の担当者・責任者
- 調査期間:2022年5月16日~6月10日
- 調査方法:インターネット調査
- 有効回答:323
注目データ
(1)売上髙、経常利益が「増加した」企業は5割強。教育費は横ばいが約半数
2020年度と比較した2021年度の「売上高」、「経常利益」、「教育費」について、増減状況をたずねました。
まず、「売上高」と「経常利益」については、「増加した」が5割強、「横ばい」が約2割、「減少した」が2割強と、ほぼ同じ傾向でした。
2021年度に実施した「日本の企業・組織におけるリスキリング実態調査」でも同様の質問を行いましたが、今回の調査では「売上高」「経常利益」ともに改善している状況がうかがえます(「売上高」「経常利益」が増加した:3割強→5割強へ。「売上高」「経常利益」が減少した:4~5割→2割強へ)。
一方、「教育費」に目を向けると、昨年度の調査からは多少の改善が見られるものの、2020年度と比較した2021年度の「教育費」は「横ばい」が約半数となっています。
(2)「リスキリング」という言葉の認知度は7割弱。特に5001人以上の大企業では9割
「リスキリング」という言葉を知っているかどうかをたずねたところ、「はい」が67.5%、「いいえ」が32.5%でした。
2021年度の調査結果では、「はい」が36.0%、「いいえ」が64.0%でした。「はい」と「いいえ」の比率が逆転しており、「リスキリング」の認知度は、この1年の間に急速に広まったと言えます。
一方、従業員規模別に認知度を見ると、5001人以上の大企業では、「はい」の回答割合が9割強(92.1%)とかなり高いですが、1001~5000人では、「はい」の回答割合が7割(70.6%)、1000人以下では6割半(64.4%)となっています。従業員規模によりリスキリングの認知度には違いがあるようです。
(3)6割の企業が人材戦略と経営戦略の連動に取り組んでいる
人材戦略の策定に関して、経営戦略との連動状況をたずねたところ、「人材戦略は、経営戦略と相互に関連づけて同時に策定される」が23.5%、「人材戦略は、経営戦略に従って逐次的に策定される」が35.9%でした。2つを合わせると、6割(59.4%)の企業において、経営戦略と人材戦略は連動していると回答しています。なお、「人材戦略は、経営戦略とは別に各々で策定される」は14.6%、「特に人材戦略と呼べるものがない」は26.0%でした。
人的資本経営において最も重要とされる経営戦略と人材戦略との連動は、約6割の企業で取り組まれていることが分かりました。この連携の具体的な内容について、これから各設問とのクロス集計結果により詳細に確認します。
(4)人材戦略と経営戦略が連動する群は「戦略的投資」、連動しない群は「コスト」
人に関する費用をどのように考えるか、「コスト」、「どちらかというとコスト」、「どちらかというと戦略的投資」、「戦略的投資」の4つの選択肢でたずねました。
全体では、双方の考え方の回答が「どちらかというと」も含めるとおよそ半々でした。
この回答を人材戦略と経営戦略の連動状況別に確認したところ、「同時策定群」と「逐次策定群」は、人に関する費用を「戦略的投資」と考える割合が6割超と高いことが分かりました。特に「同時策定群」は、他の群よりも「戦略的投資」と言い切る回答が3割強あり、顕著な差が見られました。
一方、「別々に策定群」と「人材戦略なし群」は、「コスト」と考える割合が高いという結果でした。特に「人材戦略なし群」は「コスト」と言い切る回答が3割半ばあり、「どちらかというと」も含めると7割以上が人に関する費用をコストと捉えていることが分かりました。
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他にも課題対応に必要な人材の確保についてや、人事戦略と経営戦略の連動性についてもうかがっています。教育施策を検討する上で参考になるデータを掲載しておりますので、詳しくは報告書をご確認ください