どうすれば、OJTがうまくいくのか?【第3回 ゆとり世代の育て⽅-今、あらためて OJTを考える-】

【第3回】どうすれば、OJTがうまくいくようになるのか?

はじめに

前回のコラムでは、本学の調査結果を紐解きながら「職場でなぜOJTがうまくいかないのか?」について考えてみました。 今回はいよいよ、「どうすればOJTをうまく進め、新⼊社員を育てることができるのか?」について考えていきたいと思います。

どうすれば、OJTがうまくいくのか?

まずはじめに結論めいたことを申し上げますが、“『OJTの基本』を無視してOJTをうまく進めることはできない”ということをお伝えしておきたいと思います。
なぜなら、「忙しい」「教え⽅が分からない」「(ウチには⼈を育てる)風⼟がない」「だからOJTがうまくいかない」という話がよく聞かれますが、多くの企業・組織ではこれまでにも既に、「⼈事部からの説明会」や「OJTに関連する研修」など、何らかの形で学習機会が提供されてきているはずだからです。

“効果の出ない教育をする⽅が悪い︕”と⾔われてしまえばそれまでですが、少なくともOJTの概要くらいは知っているはずなのに、きちんと実践に移しきれていない、だからその結果としてOJTがうまく回っていない、という⽅がむしろ実態に近いのではないでしょうか?

第⼀回のコラムでもご紹介したとおり、本学ではOJTを『上司や上級者など(OJTリーダー)が部下や後輩(メンバー)に対し、⽇常の業務を通して、その業務に必要な能⼒を意図的・重点的・計画的に習得させる教育⼿段』と定義しています。
しかし、⼀⼈ひとりの新⼊社員に対して必要な能⼒を「⾒定め」、「意図的」、「重点的」、「計画的」に習得させるというのは容易なことではありません。
本学でも、OJTリーダーや管理者向けに“職場での⼈材育成”に関わる各種ソリューションをご提供していますので、参考にしてみてください。

【OJTリーダー向けのコース】
新⼊社員育成リーダー養成研修

【管理者向けのコース】
OJDマネジメント研修

OJTをうまく進める4つのポイント

それでは、OJTの⼤枠(何を、いつまでに、どうやって習得させるか)が固まったところで、どのように新⼊社員と接しながら、指導していけば良いのでしょうか? 特に近年の“ゆとり世代”と呼ばれる新⼊社員に対して、ここでは次の4つのポイントを挙げたいと思います。

新⼊社員への関わり⽅

1. “仲間”として迎え⼊れ、期待を伝える
2. やってみせる、実⼒をみせる
3. 指⽰する際には背景や意図を伝え、できたことを具体的に褒める
4. 叱るときは、相⼿のためを思って本気で、叱る

1.“仲間”として迎え⼊れ、期待を伝える

前回のコラムでもOJTがうまくいかない理由をご紹介しましたが、OJTがうまくいかないケースの多くには、実は受け⼊れ側のOJTに対する意識的側⾯が影響していることが少なくありません。
もしOJT担当者が、「ただでさえ忙しいのに、何で私がOJTなんかしないといけないんだ」と思いながら新⼊社員と接していれば、そうした気持ちは⽇頃の何気ない⾔動を通じて相⼿にも伝わってしまうものです。

皆さんも、⾃分⾃⾝の新⼈時代を思い起こしてみてください。企業・組織に⼊ってまだ間もなく、右も左も分からない状態にも関わらず、もし“⾃分はこの組織から必要とされていない”“⾃分は職場の皆から歓迎されていない”と感じたとしたら、⼀体どんな気持ちになるでしょうか。とりわけ、「仲間から認めてもらうこと(承認)」「仲間と⼀緒に助け合いながら活動すること(⼀体感)」を⼤事にしている若⼿層にとって、夢を抱いて⼊ってきた組織に⾃分の居場所が無いことほど、悲しいことはありません。

新⼊社員を受け⼊れる際には、「ゆとり世代だから」という先⼊観に囚われず、ぜひ「仲間として歓迎している」「今後の活躍に期待している」というメッセージを伝えていただきたいと思います。

2.やってみせる、実⼒を⾒せる

先⽣や指導者が尊敬の念を持って迎えられたのも今や昔、世の中の変化が激しく年⻑者であることが必ずしもアドバンテージとならない今⽇においては、新⼊社員の信頼を勝ち取るのも楽ではありません。 特に近年の若⼿層には、“⾃分にとってリスペクト(尊敬)できる要素がない”と判断された瞬間に、⼼のシャッターが閉じてしまう傾向があります。 デジタル世代の特徴なのかも知れませんが、何事も0か100、⽩か⿊かのいずれかしかなく、中間のグレーゾーンが非常に少ない(≒曖昧な状況に耐えきれない)ため、早い段階で新⼊社員に仕事ぶりを⾒せ、“あの⼈についていけば⼤丈夫”と思ってもらえる存在になることが重要です。

ただし、あまりに優秀な上司・先輩の存在は、かえって新⼊社員に強烈な無⼒感を植えつけてしまうケースもあるため、注意が必要です。無理にへりくだる必要はありませんが、時には新⼈時代の失敗談を披露するなどして、“仕事はできるが⾝近な上司・先輩”となれるよう⼯夫する必要がある でしょう。

3.指⽰する際には背景や意図を伝え、できたことを具体的に褒める

近年の若⼿層の特徴として、与えられた仕事の意味を⾃分なりに納得しないとなかなか動かないという点が挙げられます。
指⽰された仕事が、「⾃分の成⻑に役⽴つ」「社会貢献に結びつく」と判断されればとても熱⼼に仕事に取り組んでくれますが、⾃分のモノサシで理解できない指⽰や作業に対しては、「それは私の役割ではない」「私にはそんなことをしている時間はない」などと平気で断ったりもします。
「⽯の上にも三年」という⾔葉がありますが、今の若⼿にとって三年の下積みは、途⽅もなく⻑い時間に思えるようです。
指導する側からすれば⼿間はかかりますが、指⽰した仕事が、「職場メンバーにとってどのような意味を持つか」「お客様や市場、社会に対してどのような意味を持つか」「あなた⾃⾝の成⻑にとってどのような意味があるか」といったことについて、ぜひ丁寧に説明してあげて欲しいと思います。

それと合わせて、依頼した仕事の成果に対しては、具体的に良かった点(必要があれば改善点)を伝え、感謝の気持ちを伝えてあげてください。
⼩さな成功体験を積み重ねていくことが、⾃⾝の役割に対する認識や⾃⼰効⼒感の醸成につながり、さらに前向きに仕事に取り組む意欲を⾼めてくれるでしょう。

4.叱るときは、相⼿のためを思って本気で、叱る

「ゆとり世代」と呼ばれる近年の若⼿層と話をしていると、学⽣時代までほとんど叱られた経験がないという話がよく出てきます。
親も、先輩も、先⽣も“友達感覚”で付き合ってきた彼ら・彼⼥らにとって、“野球ボールが近所の家の窓ガラスを割ってしまい、カミナリ親⽗にこっぴどく叱られた”というようなエピソードは、もはやマンガの中でしかお目にかからない、リアリティのない話なのかも知れません。

このように、叱られることへの免疫が少ない若⼿層に対しては、叱り⽅⼀つとっても注意が必要です。
感情的になって怒鳴り散らすのは論外ですが、「何がまずかったのか︖」「何故まずかったのか?」を筋道⽴てて説明し、諭す⽅が相⼿にも受け⼊れられやすいでしょう。“相⼿を認めつつ叱る(例︓今回のことは○○さんらしくないなぁ)”という⾼度テクニックもありますが、慣れない⼈がこれをすると、⼼からそうは思っていないことが⾒え⾒えになってしまいます。

いずれにしても、“私(I)が気に⾷わないから叱っている”のではなく、“あなた(YOU)の成⻑と、将来の活躍のために叱っている”“我々(WE)が成果を出すために、しっかりしてほしいから叱っている”というように、『相⼿のためを思って本気で向き合っている、だからあえて厳しいことを⾔っている』という伝え⽅を⼼がけることが⼤切です。

【参考:部下・後輩指導スキルを習得するためのコース】
ビジネスコーチング研修

おわりに

ここまで、OJTをうまく進めるためのポイントについて解説してきましたが、最後に⼀点、OJTに取り組む際の⼼構えについて補⾜しておきたいと思います。

私⾃⾝、⼦育てをしながら社会⼈教育という⽣業に携わっている⾝として痛切に感じることですが、やはり新⼊社員のそれまで⼆⼗数年間に渡る⽣育歴が、本⼈の思考・⾔動に及ぼす影響は少なくありません。
OJTリーダーの役割、責任は非常に⼤きなものがありますが、100点満点や完璧さを求めすぎると、上⼿くいかないことばかりが目につき双⽅が⾃信ややる気を失ってしまいかねません。OJTリーダーはあくまで脇役であり、主役は指導を受ける本⼈なのですから、やるべきことをやったならば、最後は“⼈事を尽くして天命を待つ”という⼼持ちでどっしり構えているくらいが丁度良いのかも知れません。

相⽥みつを⽒の書に「⾃⼰顕⽰」という詩がありますが、そこに書かれている“『この花はおれが咲かせたんだ』 ⼟の中の肥料は そんな⾃⼰顕⽰をしない”という⼀節が、OJTリーダーのあるべき姿をも物語っているように、私には思えてなりません。

今回は、OJTをうまく進めるためのポイントについて皆さんと⼀緒に考えてみました。次回は、企業のOJTに関わる取組み事例をご紹介しながら、コラムをまとめたいと思います。