⼈を育てる職場風⼟を創り出す 【第4回 ⼈が育つ職場とは?】
「⼈の成⻑」と「職場」
第2回では、経験の振り返りによる学習を取り上げ、経験学習を⽀援することの重要性について考えた。育成の対象を若⼿社員とした場合、若⼿社員が経験学習を⾏う場の中⼼となるのが「職場」である以上、職場の雰囲気やその場にいる上司や先輩、同僚や後輩との関係は、若⼿社員の成⻑に⼤きな影響を与える。
若⼿社員の成⻑を阻害する「職場」の状態とは
もし職場が次のような状態だったら、若⼿社員が成⻑する場といえるだろうか。
- 挨拶や会話のやりとりがない
- ⾃分の意⾒が⾃由に⾔えない
- 周囲のメンバーが困っていても助けようとしない
- メンバー同⼠互いに興味を⽰さない
- 情報発信しても無反応、または反応が遅い
- 上司が⼈材育成を重視しておらず、関与も少ない
このように、「職場のコミュニケーション」や「メンバー相互の関係性」、「マネジャーの⾔動」が思わしくない職場には、次のような状態が⾒られる。
- エネルギーや活気がない、息詰まるような雰囲気
- バラバラな⽅向を向いていて⼀体感がない
こうした職場の雰囲気の中で若⼿社員を育成しようとしても、その成果を期待することはできない。いくら若⼿社員のやる気を⾼めても、しだいに職場の雰囲気に飲み込まれ、やる気がそがれてしまう。
「職場風⼟」に着目する
職場には、その職場独特の雰囲気や暗黙の基準があり、職場のメンバーは知らず知らずのうちに、それに⾒合った⾏動をとっている。こうした職場に根ざした気風、⾒えざる掟のことを「職場風⼟」と呼ぶ。
つまり、職場には、「こうするべき」、「こうするのが当たり前」という暗黙的に共有されている価値観、規範がある。
例えば、職場に「短期的な数値目標や個⼈目標の達成を優先する」、「既定のやり⽅を守ることが重視される」といった価値観に基づく⾏動が評価される風⼟があるとしよう。メンバーは、そうした価値観に基づく⾏動を率先して⾏うようになる。その分、時間がかかり⾯倒な若⼿社員や後輩の育成や指導などは後回しにされる。
こうした職場風⼟に影響を及ぼすことができるのは、マネジャーである。
職場風⼟に問題が⾒られるのであれば、その改善や変⾰の役割を担う主体はマネジャーである。ただし、マネジャーが業績目標の達成にのみとらわれているとしたら、⼈材育成への関与は、⼆の次、三の次となる。その場合、マネジャーの意識そのものをリセットして⾏動変容を促す必要がある。
では、マネジャーを基点として⼈を育てる職場風⼟を創り出していくために、どのような点に着目したらよいかを考えてみる。
職場の目的・ゴールと価値観・規範を共有する
そうしたさまざまなメンバーが⾃分勝⼿に向きたい⽅向に向き、各⾃がそれぞれのありたい姿を⾒つめていたのでは、職場としての求⼼⼒を発揮することはできない。
メンバーの目指すべき⽅向をそろえてエネルギーを束ね、⾏動や判断のよりどころとなる基準を共有して活動に取り組むことで、職場としての⼒を発揮することができる。
目指すべき⽅向を⽰すものが、「職場の目的・ゴール」である。
そして、⾏動や判断のよりどころとなる基準となるのが「価値観」や「規範」である。
【職場の目的・ゴールを共有する】
マネジャーが⾏う職場の目的・ゴールの共有にあたっては、次のことが求められる。
- 職場が直⾯している状況や課題の認識を合わせる
- 職場として達成したい具体的な状態を明らかにする
- 職場が担う役割を明らかにし、メンバーに共通の目的意識を持たせ、⾏動を⽅向づける
マネジャーは、職場としての成果を⽣み出していくために、⼈を育てることにエネルギーを投⼊することを表明するとともに、達成したい具体的な状態のイメージの中に、職場のメンバーが成⻑している姿を織り込んでいくことが必要になる。職場の目的・ゴールの達成に向けて、メンバーの育成や成⻑をふまえた職場の構想を描くのである。
職場の目的がメンバー⾃ら達成したい目的と重なり合い、それがメンバー⾃⾝にとっての現実となったとき、メンバーは主体的、能動的にかかわることが可能になる。そして、メンバーは職場における⾃らの存在意義を⾒出し、⾃⾝の成⻑とあわせて職場との⼀体感を感じるようになる。
職場の目的がメンバー⾃ら達成したい目的と重なり合い、それがメンバー⾃⾝にとっての現実となったとき、メンバーは主体的、能動的にかかわることが可能になる。そして、メンバーは職場における⾃らの存在意義を⾒出し、⾃⾝の成⻑とあわせて職場との⼀体感を感じるようになる。
【職場の価値観・規範を共有する】
職場のメンバーが複雑であいまいな状況の中で的確に判断し、⾃律的に⾏動するためには、こうした価値観や規範を共有することが必要である。
価値観や規範は、「どのような⾏動が正しくて、どのような⾏動が正しくないのか」、「どこまでが許容され、どこからが許容されないのか」、「何が適切で、何が適切でないか」といったように、メンバーが判断・⾏動するときのよりどころとして働くものである。
こうした基準は、個々のメンバーに内在化されていることが多い。そのため、この価値観や規範を職場の中で共有するためには、いったん明⽰化すること、⾔葉で表現してみることが⼤切である。
ただし、⾔葉で表現したとたんに、抽象的になり、本来伝えたい内容が含まれていないように感じる場合もあるだろう。
その際には、単に⾔葉で表現するだけでなく、「対話」を通じて、その⾔葉の背後にはどのような意味があるのか、それがなぜ職場にとって⼤切なのかという思いを伝えることが重要である。また、どのような状況や場⾯でそれらを適⽤できるのかについての理解を深めることも必要である。
職場の中にこうした価値観を根付かせられるかどうかは、⽇常的なマネジャーの⾔動に委ねられる。マネジャーは、職場の価値観、規範の体現者としてメンバーに実践する姿を⾒せる必要がある。
職場における⼈材育成を重視するというマネジャーの価値観に基づく⾔動は、業務を円滑に進め、より⼤きな成果を⽣み出すために、メンバー相互の協⼒関係や⽀援関係がどういったものであればよいのか、未来に向けてどのように⾏動すればよいのかを具現化する。
職場風⼟に影響を与えるマネジャーの働きかけ
【メンバーの交わりを促進する】
そのきっかけは単純でも良い。趣味や興味や関⼼の交わり、こだわっている部分の交わり、今の仕事をしている動機の交わりなど、交わる部分をできるだけ多く持つのである。もちろん、マネジャーがそうした交わりを促進するために、⾃⼰開⽰することが前提となる。
【メンバーの感情を開放する】
マネジャーは、コミュニケーションを通じてメンバーの状況を把握することで、何にメンバーが息詰まって(⾏き詰まって)いるのかを感じ、職場が息詰まる場でなくなるようにその要因を排除し、メンバーの感情を開放していく必要がある。
【ポジティブなフィードバックを⾏う】
⼀⽅、プラスの⾯や良い⾯に光を当てるのが、ポジティブなフィードバックである。そのフィードバックを受け⽌めるメンバーにもポジティブな感情を⽣じさせる。メンバーがしてくれたことに感謝の意を表明したり、メンバーの仕事ぶりを認めたりすることもその⼀例である。こうした実践の積み重ねが、メンバーとの関係性の改善にじわじわと効くのである。
職場で仕事をすることが楽しいと感じさせ、効⼒感を⽣み出すようなマネジャーからの働きかけは、メンバーとの関係性を向上させ、職場風⼟を変えるきっかけとなる。
職場という「場」の⾒⽅と焦点の当て⽅
職場の固定的な役割や機能、業務の内容、メンバーの能⼒にとらわれて職場を⾒ているだけでは、変化し続ける現実の中で対応することは難しい。
職場は時間と空間の広がりをもつ「場」であり、常に流動的で変化し続けている。 そこに集まる「⼈」は相互に作⽤しながら、そのエネルギーを交換しながら関係しあっている。職場における⼈と⼈との相互作⽤によって、エネルギーが発揮される場合もあれば、相殺される場合もある。⼈の組み合わせや仕事の与え⽅、情報のやりとりの仕⽅といった⽇常のマネジメント⾏動も、こうしたエネルギーの発揮に影響を及ぼす要因となる。
職場における⼈材育成の施策を検討する際には、「職場風⼟」を形成する「⼈と職場」、「⼈と⼈」、「⼈と仕事」など、それぞれの「あいだ」や「関係・つながり」に目を向けていきたい。
「あいだ」や「関係・つながり」をより活性化させたり、より機能させたりするにはどうしたらよいのかを検討することが重要である。今回は、「⼈を育てる職場風⼟を創り出す」ために「職場の目的・ゴールと価値観・規範を共有すること」に着目し、マネジャーを基点とした働きかけのポイントについて紹介した。
次回は、具体的な事例紹介を通じて「⼈が育つ職場づくりの実践的な取り組み」に焦点を当てる。