シリーズ「各国の駐在妻が見た、新型コロナと現地の今」【第2弾】台湾
執筆者プロフィール
伊勢谷 美帆
(いせたに・みほ)
2004~2011年 食品加工メーカーにて調味料・スープの商品開発に携わる。
2011~2017年 学校法人産業能率大学に入職し、人事・教育部門向けのコンサルティング普及に従事。
非鉄金属メーカーに勤務する夫の赴任に同行するため、同大学を退職する。
2018年7月渡台。現在、台湾台中市在住。
夫と4歳、2歳、0歳の子どもの5人家族。趣味はスーパーの調味料コーナーでの物色。台湾調味料を買うものの、家ではもっぱら和食が好まれるので活躍の機会が少ないのが悩みです。
1.台湾の状況と日常生活
執筆現在(2020年4月18日)、台湾の感染者数は398人となっています。
3月初旬以降、入境者による感染例が増え、3月16日には世界76か国・地域を対象に入境者全員に対して14日間の居家検疫(自宅や指定された施設で隔離)を義務付けました。それだけではなく、政府は入境者・感染確定者・濃厚接触者の隔離徹底、市民の外出時のルール規制を一層強化し、罰則を含めた厳しい対策をさらに打ち出しています。
現在、私たちが生活をしていて不便に思うことは大して多くはありません。
外出を控えているので、屋外での楽しみは減っていますが、最低限の生活は自由にできています。
日常生活での変化をあげるならば、以下のようなことでしょう。
公共の場
- 病院でのマスク着用義務(1月以降)
- 建物や店舗内に入る際に体温測定と消毒の実施。(2月以降)
- 公共交通機関(電車・バス・タクシー等)でマスク着用義務。罰則規定あり。駅改札では体温測定も実施。(4月以降)
- 日系スーパーが無期限の臨時休業(4月6日以降)
幼稚園・学校
- 幼稚園でのマスク着用義務、園児以外の立ち入り禁止。バスの乗車時に体温測定と消毒の徹底(春節休暇明けから)
- 小学校~高校は、春節休暇明けに2週間の休校延長。再開以降、校門での体温測定と消毒の徹底。感染者1名で学級閉鎖、2名で休校。
職場
- 夫(営業職)は、2月3日以降、拠点間移動原則禁止により海外出張がなくなりました。国内営業は、2月以降お客様企業の工場への立ち入りが禁止となるケースが増え、現在、面談はほぼしていないとのこと。在宅勤務ではなく通常勤務をしています(他の日系企業では在宅勤務もあると聞きました)。
- 日系企業で緊急一時帰国の対応があった話は聞きません。本帰国の辞令が出た方は、予定の任期を終えた方がほとんどです。
1月23日~29日の春節休暇後、台湾は感染拡大を最も警戒していました。
台湾の多くの人々は、日本人旅行者に対して非常に不安を抱いていたため、在住者の私たちもタクシーの乗車拒否や、飲食店で隣の人が席を移すなどがありました。これまで日本人という理由で嫌がられたことは特になかったので、そのときは悲しく思いましたし、一時期、外出が不安にもなりました。しかし、入境制限が行われている現在では、それもなくなりました。
一方で、台湾の人々の温かさにも触れました。
2月中旬、0歳児の娘とバスに乗ったときのことです。娘が手すりを触るのを見て、同乗の女性が除菌ティッシュを1袋くださいました。この頃、消毒液は入手困難な時期でした。とてもありがたく温かい気持ちになったとともに、私自身の危機感のなさを反省する出来事でもありました。
2.台湾政府の動き
台湾政府に関して、日本でも多く報道されていることを見聞きします。
私が特記するならば、「政府によるマスクの管理」「情報発信のしかた」「徹底した感染源の把握」の3点です。
❶ 政府によるマスクの管理
1月21日に台湾で初の感染者(中国武漢からの帰国者)が出ると、一気にマスク・消毒液の不足が起きました。
政府は、1月24日にマスク輸出禁止令、1月31日に購入制限や価格をつり上げた業者への罰則化を実施しました。すべてのマスクを政府管理下とし、2月6日から薬局で実名制販売を始めました。健康保険証の提示で1週間に3枚など数量限定で購入できます。
外国人が購入できるか不安でしたが、心配は無用に終わりました。
薬局の検索方法は、最初、衛生福利部(日本でいう厚生労働省)のサイトで薬局名と住所のみの情報でしたが、数日後にはマスクの在庫が表示されるようになりました。その後、民間の情報サイトが続々登場し、現在は地図上で在庫がリアルタイムに確認できます。
これらのシステムを指揮したのが、ITデジタル大臣のオードリータン氏です。彼女は官民の橋渡しをし、データを公開することで民間と積極的に力を合わせたそうです。
❷ 情報発信のしかた
台湾では初期から徹底的な情報開示を行っています。主な方法は3点。
- 新型コロナウイルス対策を担う中央感染症指揮センターが毎日記者会見を開き、ライブ配信。記者の質問がなくなるまで続くため、長いときは2時間にも及びます。
- テレビのCM枠を使った啓発動画。政府関係者や医師、幼稚園の先生などが登場し、そのとき必要なテーマで放映されます。手洗いやマスク着用の方法、ソーシャルディスタンスの取り方、マスク生産過程の説明によるデマの払拭など。
- 衛生福利部の公式Facebook/LINEによる発信。毎日の感染者数報告や、新しい規則の通知を行います。柴犬のキャラクターがいたり、公式LINEスタンプを作ったりと、少しほのぼのさせながらも、かなり厳しい罰則におののくこともあります(台湾は老若男女を問わず大多数がFacebookやLINEを利用しています)。
情報が迅速で透明性が高いこと、そして緩急をつけたメッセージの発信によって、多くの市民が政府を信頼し、政府からの情報を肯定的に受け止めているように感じます。そして、このように発信された情報は、私たち外国人にとっても収集しやすいです。
❸ 徹底した感染源の把握
2019年末からすぐに入境者への検疫を開始し、感染者になりうる人を徹底的に把握していました。
感染者の情報開示の範囲は賛否両論あるようですが、2月頭に台湾に寄港した客船で感染が判明すると、すぐさま乗客が下船して訪れた場所が詳細に公開されたときには、ここまでするのかと驚きました。
現在、居家検疫の人は、アプリでGPSによる行動把握や管理が徹底されています。
3.生活者として思うこと
今、台湾が世界中から称賛されている理由は、政府の対応が、迅速かつ明快であることがあげられます。しかし、私が生活していて思うことは、台湾の方、一人ひとりの危機意識の高さや、元々の国民性、生活様式も影響しているのではないかと思います。
2019年末、中国で肺炎発生が報告された直後から、台湾の多くの人々は、出ている情報がすべてではなく不明な点も多いことを自覚し、自分ができる防御をきちんと意識していたと思います。これは2003年に流行したSARSのときの苦い経験があるからだと台湾の人々は言います。
春節休暇後、幼稚園は通園可能でした。しかし、多くの児童がお休みをしていました。
現在も野外で遊ぶことは、禁止ではありませんが、台湾の友人たちは家の中で遊ばせていると言います。政府の指示を待つだけではなく、自ら判断して行動する危機意識の高さには、ハッとさせられました。
市民同士のコミュニケーションという点では、台湾の多くの人々は、平時からすれ違っただけの人に対しても「今日は空気が悪いからマスクをさせなさい」などのアドバイスを直接言いますし、困っていたらみんなで助けてくれます(市場で買い物に困っていたら、いつのまにか人に囲まれていたこともあります)。
おせっかいとも言えるようなコミュニケーションが、この状況下では、自宅隔離者を周りが見守ったり、感染源になりたくないという意識の面で活かされたりしているとも聞きました。
このような国民性をうまく刺激する形で、政府の規則・罰則が発令されているようにも感じます。
生活様式で活かされていると言えば、デリバリー文化でしょう。大小問わず、ほとんどの飲食店では平時からデリバリーをしているので、その点に関して言えば、大きな変化はありません。むしろ、店舗の種類がさらに充実して便利になっています。配達員の感染防止策として、非接触受け渡し(クレジットカード払いで玄関先に置く)を選択すると送料が無料になるというキャンペーンも実施しています。
非常事態を海外で過ごすことは非常に心細いです。より状況が悪化したとき、外国人である私たちは支援を受けられるのかという不安もあります。
だからこそ、家族が健康に暮らすために、今、できることを考え、準備し、行動することや、周りの人と協力し合うことの重要性を肌で感じています。
近い将来、自由に旅行することを楽しみにしつつ、今は在宅でDIYとオンライン学習を満喫しています。
(2020年4月18日 台湾)