【第4回】対話型コミュニケーションのデザインその1 対話のプロセスのデザイン〜対話 の「問い」をどのようにデザインするか?

はじめに

第3回のコラムでは、「対話」を促すための⽅法の1つとして、「ホールシステム・アプローチ」と呼ばれる対話型コミュニケーションの⼿法について紹介しました。

「対話」を促進するためには、こうした対話型コミュニケーションの各⼿法の内容や背景、設計思想について理解を深めるとともに、参加者に投げかける「問い」をどうデザインするか、参加者がリラックスして対話に参加できる「おもてなしの場」をどのようにデザインするかなど、対話の場をデザインする際の観点についての理解も必要です。

今回のコラムでは、こうした対話の場をデザインする際の観点のうち、特に、参加者に投げかける「問い」をデザインするためのポイントについて考えていきたいと思います。

対話の「問い」をデザインする際の観点

「対話型コミュニケーション」では、参加者が⾃分の思っていることをオープンに話すとともに、相⼿の考えを真剣に聴き、多様な考えを統合しながら新しいアイデアや発想を⽣成していくことが求められます。

したがって、対話の場に参加した⼈が⾃分の考えや思いをオープンに話し、他者と情報を共有する中で、新たなアイデアがわきあがってくるような、適切な「問い」を設計する必要があります。

以下では、そうした「問い」をデザインするための観点について、いくつかのポイントを述べたいと思います。

観点1:問いはオープン質問形式で作る

「対話型コミュニケーション」では、参加者が⾃分の思っていることを率直に話すことが求められます。

そのためには参加者に投げかける「問い」はオープン質問形式(※1)で作る必要があります。

もし、対話の「問い」を「~について」「~の件」「~に向けて」「~のこと」などと表現してしまうと、参加者としては、いったい何について話し合うのかがよくわからず、対話の内容が深まっていかない可能性があります。

※1 オープン質問とは、「なぜ?(Why?)」「何が?(What?)」「どのように?(How?)」といった聞き⽅をしながら、相⼿に⾃由な答え⽅をさせる質問です。こうした聞き⽅をすることで、相⼿の思いや考えをより深く聞き出すことが可能となります。
 
したがって、たとえば、「現場のサービス品質を⾼めるための⽅策」について皆で対話をするならば、対話のテーマを「サービス品質向上について」などと抽象的に表現するのではなく、
「どうしたら現場のサービス品質が今よりもっと向上するだろうか?」
「現場のサービス品質が⾼まっている状態とはどのようなイメージだろうか?」
など、オープン質問形式で、参加者の思いや考えをより深く聞き出せるような「問い」にしなければなりません。

このように、「問い」を具体的で、参加者の思いや考えを引き出すようなものにすることで、対話のテーマに対して参加者の意識を集中させることができるようになります。

また、参加者の主体的な考えや意⾒を引き出すためには、「現場のサービス品質を⾼めるために私たちができることは何だろうか︖」など、⼀般論ではなく、⾃分ごととして取り組めるような「問い」(オープン質問)にすることも必要です。

観点2:はじめは考えやすい「問い」から徐々に深く考える「問い」へ

前回のコラムでも紹介した「ワールド・カフェ」という対話の⼿法では、通常、3回程度構成メンバーを変えて対話が⾏われます。

この際、対話のための「問い」を3回とも変えずに⾏うこともありますが、もし3回の対話の「問い」を変えていくならば、最初は参加者にとって考えやすい「問い」からスタートし、徐々に対話のテーマについて深く考えていくような「問い」へと移⾏させていく必要があります。

たとえば、新たなプロジェクトのキックオフ会合で、プロジェクトメンバーの結束⼒を⾼めるため、「チームビルディング」をテーマとした対話を⾏うとします。
その際、まだ⼗分参加者同⼠の関係性ができていない最初の段階から、「パフォーマンスの⾼いプロジェクトチームにはどのような特徴があるでしょうか?」といった本質的な問いかけをしてしまったとしたら、どうでしょうか?

いきなり最初から「重たい問い」が投げかけられることで、参加者の思考が⽌まってしまう可能性が考えられます。
こうならないために、最初の「問い」では、たとえば「仕事やスポーツなど、皆さんがこれまで経験したチームで、「このチームは強かった」(あるいは弱かった)と思えるチームの経験は何でしょうか?」など、参加者にとって⾝近な「問い」からスタートすることが肝要です。

こうして、第1の「問い」で⾝近な各⾃の経験談を共有した後、第2の「問い」以降で、「強いチームにはどのような特徴があるのか?」や「プロジェクトを成功させるために、どのようなことが必要か?」、「われわれはどのようなプロジェクトチームを目指すか?」といった、より本質的な問いかけを⾏っていきます。

「問い」を作る際には、参加者にとって⾝近な「問い」から、徐々に対話のテーマの核⼼に迫る「問い」に移⾏させていく、というポイントをぜひ押さえていただきたいと思います。
 

観点3:ポジティブで未来志向の「問い」を作る

前回のコラムでも述べたように、「ワールド・カフェ」や「AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)」などの「ホールシステム・アプローチ」の⼿法では、問題解決に際し、組織や個⼈の問題点に着目するのではなく、⾃分たちが持っている「強みや価値(ポジティブコア)」に着目するなど、ポジティブな思考や発想を⼤切にしているという特徴があります。

対話を通じて、参加者にポジティブな思考や発想を促すためには、「問い」をポジティブで未来志向なものにする必要があります。ネガティブで過去志向な問いかけは参加者の思考に制約をかけ、発想を貧困なものにしてしまいます。

たとえば、「なぜ、わが営業3課は売上が上がらないのだろうか?」と問われるよりも、「1年後の営業3課が、今よりもっと売上を上げ、強いチームに⽣まれ変わるために、われわれが今からできることは何だろう?」と問われたほうが、参加者の発想は前向きになり、未来に向けて何をなすべきかを主体的に考えることができるようになるはずです。

同様に、「なぜ、うちの社員はモチベーションが低いのだろうか?モチベーションが低い職場に共通する特徴は何だろうか?」と問われるよりも、「みんなが毎⽇会社に来るのが待ち遠しくなるような、うきうきわくわくする職場ってどういう職場だろう?そういう職場を作るにはどうしたらいいだろう?」と問われたほうが、⾯⽩いアイデアが出てくるのではないでしょうか。

このように同じテーマでも、問いかけ⽅次第で、参加者の発想を前向きにも、後ろ向きにもすることができます。
前述の通り、「対話型コミュニケーション」では、参加者がオープンなコミュニケーションを通じて、多様な考えを統合しながら新しいアイデアや発想を⽣成していくことが求められます。したがって、対話の場をデザインするときには、対話を通じて、新しいアイデアや発想が⽣み出されるような、ポジティブで未来志向な問いかけをする必要があるのです。
 

おわりに

今回のコラムでは、対話の場をデザインする際の観点のうち、参加者に投げかける「問い」をどのようにデザインするか、について実践的なポイントを考えてきました。

次回のコラムでは、対話の場をデザインする際の観点のもう1つのポイントである、「おもてなしの場」づくりのポイントについて紹介していきたいと思います。

参考⽂献
堀公俊・加藤彰(2008)『ワークショップ・デザイン 知をつむぐ対話の場づくり』⽇本経済新聞社.
⾹取⼀昭・⼤川恒(2011)『ホールシステム・アプローチ 1000⼈以上でもとことん話し合える⽅法』⽇本経済新聞社.