【第1回】組織の中のコミュニケーションをめぐる課題

組織の理念浸透をいかに進めていくべきか?
-冊⼦を作り、唱和をし、トップの講演会を開いたが・・・

冒頭、いくつか、組織の中のコミュニケーションをめぐる課題を挙げました。
中でも、「組織の理念浸透をいかに進めていくべきか」は、最近特にご相談を頂くことの多い課題です。
近年、企業のグローバル化が加速しており、組織が⼤切にする理念や価値観、⾏動規範をグローバルレベルで共有・浸透させていく必要性が⾼まっていることが背景の1つとして挙げられます。

では、この課題を解決する上で、どのような施策が考えられるでしょうか?
多くの企業が取り組む代表的な施策として、以下のようなものが挙げられます。
  • 組織の理念や価値観、⾏動規範を解説した冊⼦を作成し、それを社員に配布する
  • 組織のトップが全社員に対し、組織の理念や価値観、⾏動規範の内容や意味について講演する
  • 組織の理念や価値観、⾏動規範を明⽂化し、毎朝、職場で唱和する
しかし、本当にこうした施策だけで、組織の理念浸透は促進されるのでしょうか︖

「情報を効率的に移動させる」というコミュニケーション前提

「冊⼦を配布する」
「トップが講演する」
「皆で⾏動規範を唱和する」

いずれも、組織の⼤切にする理念や価値観、⾏動規範の内容や意味を社員に伝えることを目的としたコミュニケーション施策です。
実はこれらの施策には、ある共通の前提があります。それは、コミュニケーションを、「情報の送り⼿」から「情報の受け⼿」に対する「情報の効率的な移動」(中原・⻑岡,2009)として捉えているという点です。

たとえば、「組織の理念や価値観、⾏動規範を解説した冊⼦を作成し、それを社員に配布する」という⽅法について考えてみましょう。
この⽅法を抽象的に表現するならば、「情報の送り⼿(冊⼦の作成者)」が、「情報の受け⼿である社員」に対し、「冊⼦」というメディアを通して、⾃社の理念や価値観に関する情報を効率的に移動させる⾏為であると⾔うことができます。
同様に、「トップの講演会」という⽅法も、「情報の送り⼿である組織のトップ」が、「情報の受け⼿である社員」に対し、「講演会」という場を通して、⾃社の理念や価値観に関する情報を効率的に移動させる⾏為であると捉えることができます。

しかし、こうした「情報を効率的に移動させる」ことを前提とした施策だけで、本当に、「組織の⼤切にする理念や価値観」の浸透が実現できるのでしょうか?

何をもって「浸透した」と⾔えるのか?

そもそも、何をもって、「組織の⼤切にする理念や価値観が浸透している」と⾔えるのか、については、なかなか⼀概には規定しにくいものです。
組織の理念や価値観、⾏動規範を解説した冊⼦を全社員が読んだ状態を「浸透した」状態と捉えるのと、⼀⼈ひとりの社員が組織の理念や価値観の意味について、⾃分なりの解釈や⾔葉で語ることができる状態を「浸透した」状態と捉えるのとでは、随分「浸透」の程度や状態は異なります。
「浸透した」程度や状態をどのようなものとして規定するか、についてはいろいろと議論の余地があり、また、社員に対するコミュニケーションのやり⽅にも違いがありそうです。

次回は、引き続き、「組織の理念浸透をいかに進めていくべきか」という課題を題材に、コミュニケーションを「情報の効率的な移動」として捉える考え⽅とは異なる、別のコミュニケーション観について考えていきたいと思います。

参考⽂献 中原淳・⻑岡健(2009)『ダイアローグ 対話する組織』ダイヤモンド社