これからの人事部の役割-人材戦略と経営戦略の連動から考える-

マネジャーの学習行動を促す人事施策とは

これからの人事部に課せられた重要なミッションの1つは、「人的資本経営の実現」です。産業能率大学総合研究所では、多くの企業や組織の事業課題解決を支援してきましたが、人への投資の重要性を認識しながらも、人事・教育現場ではなかなかそれが具現化されない状況も多くみられます。

人的資本経営とは? 人事部が実践するためのポイントを解説

産業能率大学総合研究所では、人的資本経営を実現するためには、人材戦略と経営戦略が密接に連動しているかが重要なポイントであると考えています。
この連動に成功している企業では、組織全体のパフォーマンス向上と戦略的な目標の達成に成功しているケースが多くあります。

この記事では、本学が2022年に実施した、「戦略的人材マネジメント実態調査報告書2022」の結果をもとに、人材戦略と経営戦略の連動がうまくいっている企業の特徴と、そこからみえてくる、これからの人事が果たすべき役割について解説します。

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戦略的人材マネジメント実態調査報告書

課題対応に必要な人材の確保についてや、人事戦略と経営戦略の連動性について調査しています。教育施策を検討する上で参考になるデータを掲載しておりますので、ぜひご活用ください。

人材戦略と経営戦略の連動状況

まず、人材戦略の策定に関して、経営戦略との連動状況を確認していきましょう。「戦略的人材マネジメント実態調査報告書2022」の結果では、「人材戦略は、経営戦略と相互に関連づけて同時に策定される」が23.5%、「人材戦略は、経営戦略に従って逐次的に策定される」が35.9%でした。2つを合わせると、6割(59.4%)の企業において、経営戦略と人材戦略は連動していると回答しています。なお、「人材戦略は、経営戦略とは別に各々で策定される」は14.6%、「特に人材戦略と呼べるものがない」は26.0%でした。

「人材戦略」と「経営戦略」の連動状況
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これ以降、当設問の回答で群分けを行い、下記の略称を用いてご説明します。

人材戦略は、経営戦略と相互に関連づけて同時に策定される・・・同時策定群
人材戦略は、経営戦略に従って逐次的に策定される・・・逐次策定群
人材戦略は、経営戦略とは別に各々で策定される・・・別々に策定群
特に人材戦略と呼べるものがない・・・人材戦略なし群

連携がうまくいっている企業の特徴

戦略的人材マネジメント実態調査報告書2022」からみえてきた、人材戦略と経営戦略の連動に成功している企業に共通する主な特徴は次の3つです。

  1. CHO(最高人材責任者)の設置
  2. 経営陣と人事部門の積極的なコミュニケーション
  3. 現場と人事部門の積極的なコミュニケーション

CHO(最高人材責任者)の設置

経営戦略と人材戦略の同時策定群では、人材戦略を推進するCHOあるいは担当役員の設置が6割と最も多いという結果でした。人事部長が人事部門の統括責任者であることに対して、CHOは役員として経営陣に加わり、経営戦略の策定に携わります。つまり、経営方針を理解し、経営戦略上で人的課題を検討することが容易となります。

CHOの有無
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経営陣と人事部門の積極的なコミュニケーション

人事教育部門が経営陣と積極的なコミュニケーションをとっている点も特徴の1つです。同時策定群では、人事教育部門による経営陣との上方連携が顕著に高い傾向がみられました。経営陣と人事教育部門が対話を行うことで、CHOの設置と同様に、人事教育部門による経営戦略の理解や、人材確保の課題について経営の場で検討が促進されます。経営陣と人事教育部門の対話が双方向に行われ良質であれば、経営戦略の人材戦略への「翻訳」がより良く行われる確率が高まります。
上から降りてきた経営戦略を単に言葉通りに遂行するだけの人材戦略ではなく、必要な確認とすり合わせを経て、経営戦略が意図するところを正確に本質的に理解し、経営戦略の推進を可能にする人材戦略を立案することが、人事教育部門に求められていると考えられます。

人事教育部門全般における取り組み状況
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現場と人事部門の積極的なコミュニケーション

また、同時策定群では人事教育部門が現場とも積極的に意見交換を行っていることも明らかになりました。人事教育担当者が経営の立場だけに一方的に立つのではなく、現場ともコミュニケーションをよく取り、経営と現場を繋ぐ役割を果たすことが成功のポイントといえるでしょう。

人事教育部門全般における取り組み状況
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これからの人事が果たすべき役割

企業、組織が人的資本経営を目指すとき、人事教育部門は、目の前のことを粛々と進めているだけでは部分最適に陥ります。
経営層や現場と対話を行い、経営戦略の本質を捉え直すと、企業・組織の全体最適は何かが分かり、目指すべき人事や育成の機能を果たせるのではないでしょうか。
人が価値の源泉である人的資本経営時代のこれからの人事教育担当者には、単なる実務担当者ではなく経営戦略と人材戦略の連動を推進する、次の4つの役割を担っていただくことをご提案します。

  • 「ロビイスト」・・・経営陣に対して人的資本への投資を交渉する
  • 「人的コンサルタント」・・・経営戦略・人材戦略の立案と実行に寄与する
  • 「遂行者」・・・経営戦略、人材戦略を具現化し、実行する
  • 「媒介者」・・・組織と個人のベクトルを繋ぎ人材投資の効果を最大化する

戦略的人材マネジメント実態調査報告書2022」では、現状での経営戦略と人材戦略を連携させる上での課題も自由記述で尋ねました。そして課題には、大小さまざまなものが挙げられました。経営戦略自体がない、あるいは不明瞭、抽象的という課題から、経営戦略を人材戦略に繋ぐ仕組みや場がないといった課題、トップ層の思いや考えを現場レベルに翻訳するスキルが不足しているという人事教育部門の課題、さらに方向性の異なる(自社の)課題への対応を両立させる難しさという人材戦略立案上の課題など、多岐にわたっています。

これらの課題に対して人事教育部門の立場から何ができるのか、自社にとっての優先順位は何なのかなど、対話の呼び水として下記の図をご活用ください。

「人材戦略」と「経営戦略」の連動状況
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