マネジャーの学習行動を促す人事施策とは

マネジャーの学習行動を促す人事施策とは

課長級のミドルマネジャーは、今やプレイングマネジャーが当たり前となっています。マネジャーは、マネジメント業務を担う顔と、プレイヤー業務を担う顔の二つを持っているといえます。

この記事では、2023年に本学が実施した「ミドルマネジャーの人事実態調査2023」の調査結果をもとに、そのような忙しい環境にあるマネジャーの学習行動を促す人事施策について考察します。

筆者プロフィール

関 和之 (Seki Kazuyuki)

産業能率大学 経営学部 准教授

関 和之
(Seki Kazuyuki)

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マネジャーの教育訓練を見直す

マネジャーは、本来のマネジメント業務をよりうまく遂行するためのレベルアップが期待されていると同時に、ビジネスパーソンとしての知識・スキルの向上も求められています。これは、部下に対して業務指導を行うという点でも必要ですし、長い仕事人生における自身のキャリアを構築していく意味でも大切です。このような観点から、マネジャーの学習行動に着目したいと思います。

調査では、「学習行動」という指標を設定し、それに対して人事部門による施策がどう影響するのかを重回帰分析によって確認しました(表1)。「学習行動」を促進する要因として、「教育訓練」(教育訓練の実施や教育の支援制度)の影響が最も高くなりました。多くの組織が実施している施策でもあり、その効果性が検証できたといえるでしょう。ただし、若手社員の教育には手をかけている組織でも、マネジャーに対しては、任用時の研修を実施するだけといったケースが多いのではないでしょうか。改めて教育プログラムを見直したり、ラインアップを拡充したりするといった検討が必要かもしれません。

表1
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近年、特に、データサイエンスやChatGPTに代表される生成AIなどの技術が注目されていますが、調査結果からは、これらの知識・技術を保有しているというマネジャーが少ないことが分かりました(表2)。このことからも、ビジネスデータ分析の手法や生成AIの活用方法などの教育や研修の機会を設け、それらを現場で活用する機会をつくっていくことも有効だと思います。さらに、それらを通じて、「データで物事をみる」というマインドを醸成していくことも大切です。現場にいると、どうしても勘と経験に頼りすぎて、俯瞰したものの見方が難しくなってしまうからです。

表2
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学習履歴や資格・学位を配置転換や昇進・昇格に反映させる

「学習行動」に影響する要因として次に大きかったのが、「タレントマネジメント」でした(表3)。これは、教育訓練の結果や、高度な資格、修士・博士といった学位を異動や配置、昇進・昇格などの処遇に反映するといった項目で構成されています。分析結果からは、マネジャーの学習行動を促進させるためには、本人の意欲だけに頼るのではなく、処遇などの仕組みによる担保や後押しが重要であることが分かります。

表3
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調査結果をみると、教育訓練の結果や、高度な資格や学位があっても、昇進・昇格、異動や配置には関係しない、とする組織が多くみられました(表4、表5)。

表4
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表5
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組織は、高度な資格や学位をあまり重視していないことがみて取れます。一方、マネジャーの方も、2021年度と比較して、高度な資格や学位の取得は進んでいないという結果になっています(表6)。しかし、複雑で高度化するビジネス環境に適応していくため、資格や学位の取得などを通じたリスキリングや学び直しを行うことは、今後ますます求められるようになると考えられます。

表6
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一頃、組織からの支援を受けて経営学修士(MBA)を取得したものの、それを組織の中で活かす場が与えられず、転職してしまうという現象が多く聞かれました。本人に学ぶ意欲があり、それを支援する制度があっても、学んだことが実務に活かされたり、異動や配置、昇進・昇格などの処遇に反映されたりしなければ、個人にとっても組織にとっても損失となります。仕組みづくりも含め、組織としてマネジャーのレベルアップや活躍を後押しして行くことが求められます。

人事部門による対話やコーチングが有効である

「人事コミュニケーション」の要因もマネジャーの学習行動にプラスの影響がみられました。これは、人事部門とマネジャーとのコミュニケーション、対話やコーチング等の支援を指しています。ただし、人事部門によるコーチングを実施しているとする組織は3割程度にとどまっているのが現状です(表7)。マネジャーに気づきを促すだけではなく、マネジャーが抱えている問題を共有するためにも有効な支援策であると考えられます。

表7
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以上、マネジャーの学習行動を促す支援策についてみてきましたが、それ以外にも目標達成や問題解決の支援など、人事部門がサポートする領域は多岐にわたります。人事部門も通常業務で忙しいと思われますが、今回の調査結果を参考に、現状の仕組みや運用が、意図通り機能しているのか、という観点で見直すことも有効でしょう。いずれにしても、まずはマネジャーとコミュニケーションをよく取り現場の状況やニーズを把握することが大事になります。そして、孤軍奮闘するマネジャーに寄り添いサポートする役割を担う人事部門の存在感は、今後さらに増していくと思われます。

※本文内の帯グラフについて、数値の丸めにより合計が100%にならない場合があります。

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