生産性向上につながるタイムマネジメント

生産性向上につながるタイムマネジメント

1.生産性向上が求められる背景

グローバル化や技術革新、少子高齢化、ダイバーシティ推進等々の影響で、企業を取り巻く経営環境が激変しています。
そして、その目まぐるしい環境変化に呼応する形で仕事の“範囲の拡大”かつ“専門性の高度化”が進み、結果として1人の社員に降りかかる業務負荷は極めて大きなものになっていると、日々のコンサルティングや研修を通じて実感しています。
このような状況下では、限られた時間を有効活用することで生産性を高め、仕事を成果に結びつけるタイムマネジメントの技術を習得し、「キャパシティ(業務負担の許容限度)」を拡大する対応が必須となります。

図1.タイムマネジメントによるキャパシティの拡大

特にテレワーク環境下では、誰にも見られていない環境、そして関係者に対して指示や判断を仰ぎづらい環境で仕事に取り組み、その結果としてオフィス勤務時と遜色ない成果を生み出す必要があります。
そのため、仕事の設計力と推進力、そして柔軟な対応力を磨き、強い自制心と高い計画性を持って仕事に取り組む姿勢がこれまで以上に強く求められています。

2.時間管理のワナ『パーキンソンの法則』

労働時間の長さと成果物の質・量は必ずしも比例するものではないことは周知の通りです。
時間外勤務=残業の代表的な理由として、「①終えた仕事の手戻り(二度手間)」「②仕事のやり過ぎ(過剰品質)」「③無計画な仕事の進め方による遅延」の3つが挙げられます。
本記事ではこれらの中でも、本人が気づきにくく、他者からも指摘されにくいが故に、問題視されることが少ない「②仕事のやり過ぎ(過剰品質)」に焦点を当て、話を進めていきましょう。

仕事のやり過ぎに関連する代表的法則として、イギリスの歴史・政治学者シリル・ノースコート・パーキンソン氏が提唱した『パーキンソンの法則』が挙げられます。
組織運営や個人行動について分析し、その結果を法則としてとりまとめたものであり、『一般則』、『第1法則』、『第2法則』、『凡俗法則』の4つの法則から構成されますが、以下の第1法則が時間管理と関連します。

パーキンソンの第1法則

仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する

言い換えれば、「人間は必要性の有無に関わらず、時間が入手可能なだけ規模を肥大させ、与えられた時間を全て使ってしまう法則」です。

図2.パーキンソンの法則に基づく仕事量の膨張

パーキンソンの法則の例として、「期限が金曜日の仕事を任された場合、必要な仕事量に関わらず、最終期限の金曜日まで取り組んでしまう」といったものや、「目的達成の有無に関わらず、予定の終了時刻まで実施される会議」などが挙げられます。
一般的に、投入時間の増加に伴い成果の増加幅が逓減していくため、1つの仕事に時間をかければかけるほど生産性が低下していきます。
例えば成果物の出来栄えの合格点が70点の場合、90点の仕事を1つ仕上げるより、70点の仕事を2つ仕上げた方が生産的といえます。

図3.『パーキンソンの法則』を意識した仕事の進め方のイメージ

完璧を目指すことは決して悪いことではありません。しかし、必要以上につい手を掛けてしまったという経験は多くの方が思い当たるのではないでしょうか。
悪い意味での完璧主義に陥り、無意識のうちに生じる仕事量の膨張を防ぐためにも、仕事に取り組む前段階で目標を設定し、目標の達成基準(成果物の質・量的要件)を念頭に置きながら仕事に取り組む工夫が求められます。

3.生産性向上に向けたハードとソフトの両面からのアプローチ

厚生労働省から発表された働き方改革を契機として、単なる「労働時間の削減」から「時間あたりの生産性向上」へとビジネス社会での意識は変化しています。
以下は、アメリカに本社を置くコンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」が提唱した『組織の7S』です。

図4. マッキンゼー社による『組織の7S』

『組織の7S』とは、組織の構成要素を7つの観点から捉えたものであり、「ハードの3S」と「ソフトの4S」に分類できます。
「ハードの3S」に属する人事制度や社内規程を通じて生産性向上を目指す場合、時間管理や自己管理等の労働生産性と関連する行動を重視した評価制度を構築する、マネジャーの評価対象に部下の残業時間を含める、残業時間に上限を設けるといった対応が考えられます。
しかし、このようなハードを通じたアプローチに限定する場合、企業から一方的にハードルを突き付けられたと社員が感じ、不満が発生するリスクが生じます。
このような不満の発生を防止するためにも、「ソフトの4S」に属するスキルや人材育成方法、行動特性に着目し、生産性向上を目指す必要があります。
具体的には、研修やeラーニングを活用し、タイムマネジメントの技術、つまりハードルの乗り越え方を伝達することが有効といえるでしょう。

形だけではない真の生産性向上を実現するためにも、ハードルとその乗り越え方をセットで考える「ハードとソフトの両面からのアプローチ」を今後の対応策の1つとして提案したいと考えます。

執筆者プロフィール

中拂 美樹(Haruki Nakaharai)

学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 研究員

※筆者は主に、賃金・評価・等級制度等の見直しを通じた人事制度再構築の
 コンサルティングを担当
※所属・肩書きは掲載当時のものです。

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