テレワーク時代の人事評価のあり方

テレワーク時代の人事評価のあり方

1.人事評価者を取り巻く環境変化

人事評価を担うマネジャーを取り巻く環境が目まぐるしい速度で変化している。

環境の変化に伴い、「人事評価に求められるスキルの高度化」と「人事評価業務の負荷の増大」が急速に進んでいると筆者は認識している。

これらの背景を以下の3つの観点から整理していく。

(1)プレイングマネジャーの増加

下図は本学が実施した「上場企業の課長に関する実態調査」の一部であり、課長職の担当業務全体に占めるプレイヤー業務の比率を示したものである。

図1:課長職の担当業務におけるプレイヤー業務の比率

調査の結果、担当業務の半分を超える業務がプレイヤー業務であるとの回答が全体の約40%を占めていることが判明した。
言い換えれば、10名中4名については、マネジャーであるにも関わらず、人事評価を含むマネジャー業務よりもプレイヤー業務を多く担当しているということである。

コンサルティングや人事評価者研修の中で、「実務に追われて忙しい中で、人事評価に時間を割けない」といったご相談を伺うことが多いが、マネジャーのプレイヤー化が強く影響していると考えている。

(2)テレワークの急速な拡大

新型コロナウイルスの影響を受け、テレワークが一般化してきている。

テレワークの他にも、分散出社を導入する企業も増加し、評価者と被評価者の距離が物理的に離れ、評価の判断材料となる行動事実の把握が困難な状況に陥っている。
「勤務態度が見えないため、成果重視の評価制度とすべきか?」といった内容のご相談を受けることが多くなったが、成果は本人の努力以外の外部要因の影響を強く受けることに加え、間接部門は成果のみを根拠に評価をしても納得を得ることが難しい
また、労務管理と働き方改革の観点からも、裁量労働制の適用要件を満たすことは難しく、日々の行動を把握しない場合、残業の妥当性を検証できず、その改善点も見出せない

このため、プロセスを可視化し、行動と成果の両面を評価していくことが必要といえる。

図2:評価対象の体系

(3)働き手のスペシャリスト志向の高まり

昨今、ジョブ型人事制度導入の機運が高まっている。
ジョブ型人事制度と一口に言っても様々な定義が存在するが、本記事では「職務価値に基づいて処遇を決定する人事制度」と定義する。

図3:「人基準」から「仕事基準」への人事制度の転換

ジョブ型人事制度の導入理由には、「同一労働同一賃金への対応」や「経営活動のグローバル化」、「人件費コントロールの容易化」といったものがあるが、代表的な理由として、「高度専門人材の獲得」が挙げられる
外資系企業による高度専門人材の囲い込みが加速しているが、年功主義の人事制度では職務価値に応じて処遇を決定することはできない。

労働人口が減少する中で、競争力の源泉となる人材の獲得競争で遅れを取らないためにも、ジョブ型人事制度の導入が加速している。
そして、この変化に呼応する形で働き手の意識がゼネラリスト志向からスペシャリスト志向へと変化している。
つまり、企業と個人の両方がスペシャリストを求め、目指す世の中になりつつある。

人事評価については、被評価者の専門性が高まることで、評価業務のハードルがより高いものになるといえる。

私の体験になるが、友人に人工知能の開発を専門とするエンジニアがいる。
以前、彼の業務を観察したことがあったのだが、その内容をすべて把握することは難しくできなかった。このことから、評価者には被評価者と同等かそれ以上の専門性が求められるということを痛感した。

2.人事評価の前提となる自己説明責任(セルフ・アカウンタビリティ)の追及

これまで述べてきたことを整理すると、評価者は以下の三重苦の状況に陥っているといえる。
図4:人事評価者が置かれている“三重苦”

このような状況下では、評価者による監視や管理ではなく、被評価者に対する自己説明責任(セルフ・アカウンタビリティ)の追及が人事評価の大前提となると認識している。

被評価者は、「上司は正しく評価してくれるのだろうか?」、「努力や工夫は報われるのだろうか?」といった受動的姿勢に陥りがちだが、「評価は与えられるものではなく、自分で証明するもの」という自己説明責任を追及し、被評価者の意識改革に繋げることが重要と考えている。
加えて、「1on1ミーティング」と「自己説明責任」の組み合わせが有効といえる。

図5:「1on1ミーティング」と「自己説明責任」の組み合わせ

1on1ミーティングの際、①行動事実を記録したメモの自主作成と自主報告、②成果物の提出の2点を実施条件とすることが重要となる

高い評価を得るために行動事実を誇張して報告することは容易だが、成果を偽ることは難しいためである。
部下の報告内容を鵜呑みにするのではなく、時には疑いの目を持ち、「報告内容」と「成果物の量・質」を比較する工夫が必須といえる。

更にいえば、報告機会が設けられているにも関わらず、報告されなかった事実は、評価に反映する必要は無いとも筆者は考えている。
「自主的な報告がなかった」というのは、言い換えれば、「自己説明責任を放棄した」とも言える。

厳しい考え方と捉えられるかもしれないが、テレワーク環境下ではこれくらい明確に言い切ってしまうことも必要と考えている。
上記の考え方に基づき、テレワーク導入後も納得性の高い人事評価を実現するため、“評価者主体から被評価者主体の制度運用への転換”を今後の対応策の一つとして提案したい

参考文献

学校法人産業能率大学総合研究所『第5回 上場企業の課長に関する実態調査報告書(2019年9月)

執筆者プロフィール

中拂 美樹(Haruki Nakaharai)

学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 研究員

※筆者は主に、賃金・評価・等級制度等の見直しを通じた人事制度再構築の
 コンサルティングを担当
※所属・肩書きは掲載当時のものです。

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