「職場の蘇生」~先手を打つ管理者こそが、活力ある職場を創り出す~【第4回】

第4回 「相談文化の醸成で組織を強くする」

第3回では、管理者とメンバーの役割の違い、管理者が“先”を管理するために、メンバーの育成を図るために行うべきことを確認しました。
第4回では、前回の最後で確認した「任せ方」のポイントのうち、「任せた後のフォロー体制の構築」について、もう少し具体的に検討していきます。 
ここで、“相談”というキーワードを出します。

1.「相談活動」で職場を強くする ~昔から使われてきた、誰もが知っている“はず”のホウ・レン・ソウの“ソウ(相談)”の活用

「“相談”で組織を強くすることができる」というと驚く方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 “相談”は、ホウ・レン・ソウ(報・連・相)の一つとして、社会人の基礎事項として重視されてきた、誰もが耳にしているものです。

 最近、この「相談活動」が機能している職場は以外と少なくなってきているようです。例えば、職場でのコミュニケーションが減ってきたといわれる場面です。その実情を見てみると、「報告」活動や「連絡」活動は決められたとおりに行われている一方で、互いに「相談」しあいながら進めるような活動が減ってきていることが見られます。
 また、しっかりと行われていると思われる「報告」活動でさえも、その実、目的を失い形式的になってしまい、所謂“形骸化した報告活動”が見られコミュニケーション・情報伝達活動としての機能を低減させているケースがあります。
 職場でのコミュニケーションにおいて、形骸化した報告活動がウェイトを占め、相談活動が少なくなってしまっている状況では、活動を進めていく上で将来へ向けた活力を生み出しづらくなり、先々、環境変化への対応等について厳しくなっていきます。

 ここで、「報告」と「相談」の違いや特徴について確認しておきます。

相談と報告

 まず「報告(ホウ)」は何かアクションが行われた“後”に行われますが、「相談(ソウ)」は、何かアクションを行う“前”に行われます。
  まず、このアクションを起こす前か後か、という“時間上の違い”があります。

 そして、企業現場で見られる諸状況を踏まえ、特に、“形式的な(形骸化した)報告活動”と“相談活動”の違いをいくつか取り上げたのが以下です。

「形式的な(形骸化した)報告」と「相談」

「“形式的な報告活動”は、事後に行われるため早い段階で情報をキャッチしづらい」、一方で、「“相談活動”は事前に行われるため予兆段階で状況を察知しやすい」
 「“形式的な報告活動”が頻繁に行われるとメンバーの任され感が否定され、メンバーの主体性を失わせてしまう」、一方で、「“相談活動”は、任され感を否定せず、主体をメンバーに置いたままにできる」
 「“形式的な報告活動”は、事前に決められた(指示された)スペックに関する情報をきちんとメンバーは上げ続けるものの、主体性をあまり感じないままだと新たな工夫や動きへの着手を行っていない」、一方で、「“相談活動”では、情報を上げながら対処の柔軟性を高めていく」
 「“相談活動”では、メンバーが主体的に考え判断することを前提として後押すると、メンバーの育成も促進されやすい」
  といった違いがあることが分かります。
 また、企業現場では「報告活動」は文書化される傾向にある、ということも言えます。文書コミュニケーションのみで日常のコミュニケーションが取られていると、対人関係も希薄なものに陥りやすいものです。
 職場コミュニケーションが、“形式的な(形骸化した)報告活動”に偏っている場合は、事後管理活動文化がはびこっていると表現を変えることができます。その場合、職場内において、事前管理活動としての“相談”活動が減ることで組織力を落としていることはあまり気付かれていません。

 職場として形式的な報告活動をメインとしながら活動そのものが固まってしまい(硬直化)してしまっている場合には、活力を出すような転換が必要となってきます。
 組織としての力を発揮していくためには、相談活動を活かすことが一つの重要な武器となってきます。
 刻一刻と状況が変わる環境変化が激しい現在の企業現場では、メンバーの主体性が発揮され、情報が即座に上げられるとともに、柔軟に対処していくことを促す相談活動がより効果を発揮すると言えるでしょう。

相談活動は、“事前”であること。また、“主体”は部下である。

 報告事項には、「こういうことについて報告して欲しい」という事前に取り決められた(上位者から指示された)何か(たとえば報告の観点やスペック)がある場合が多いものです。
 一方、「相談」は、「相(あい)・談(だん)する」と記載され、相談する側とされる側どちらかが上位者というよりも、よりフラットな関係に近く、共に解決策を導き出していくというニュアンスが含まれているように思います。そこには、「こういうことについて定期的に情報を上げるように」という事前に指示めいたことはなく、メンバー側が主体的に動いたときに発生するものとして捉えられそうです。

2.「相談して来い」と言うだけでは相談活動は発生しない ~“信頼関係”の構築

 だからといって、相談活動を発生させていくために、管理者はメンバーに対して「相談してこい」とただ言うだけではいけません。掛け声だけでは、相談活動は発生しません。
 先ほど述べましたように、相談活動は、メンバーの主体的・自発的な活動により発生する場合が多いものです。(報告活動のように事前に決めたスペックの情報を上げる活動とは異なります。)

 建築関連企業のある管理職の方がおっしゃっていました。
 「部下には相談してこいよといっているのですが、メンバー達が一向に相談してこないんです・・・」と。
 
 この企業の管理職のケースのように相談して来い、というだけでは相談は発生しづらいことがあります。
 相談を発生させていくためには土台が必要となるということです

 “信頼関係”があるかどうか
 相談活動を発生させる土台とは、「信頼関係」を構築することです。
 メンバーとの間で信頼関係がないと、相談活動は発生しづらいという状況があります。

 ここでは、信頼関係を次のように捉えています。
 相手に対し、安心でき、期待できていると、信頼関係が構築されていると捉えることが出来ます。そして、管理者とメンバーが互いに、“安心でき”、“期待でき”ていれば、信頼し合っていると捉える事ができます。「あの人なら(これまでの業務を通じて)安心できる」という実感や、「あの人なら(今後の業務(これまでとは異なる業務も含む)について)期待できる」という実感を、管理者とメンバーの間で持っているかどうか、皆様も実際の関係について確認してみてはいかがでしょうか。
 
 なお、私たちは「これまでのこと、過去のこと」については変えることができません。したがって、これまでの関わりによって影響を受けている「(今)安心できているかどうか」の状況を、変えることは難しいものです。もし今後へ向けて、相手との関係を改善していくのであれば、「今後へ向けて期待できるか」という点にフォーカスをあてます(「安心」ではなく、「期待」にフォーカスをあてます)。
 その際、例えばですが、管理者の場合、メンバーから期待されていることは何かについて、“自分で思っていること”と“実際にメンバーが期待していること”に違いはないかを探り、共有、すり合わせていくことも有効です。メンバーが、「期待できる」「期待してもいいんだな」という実感をもつために行います。
 メンバーの立場も同様です。“自分が期待されていることはこういうことだとメンバー自身が考えていること”と、“管理者が実際にメンバーに期待していること”に違いが出てくると、結果、信頼関係を築くことはできません。すり合わせることで改善します。

 先の建築関連企業の管理者の言葉の例では、相談しても意味がない、とメンバー側が信頼感を感じてない可能性があると捉えることが出来ます。

3.相談活動を機能させていくために・・・

実際に職場で相談活動を機能させていくには、ここまでお話してきた諸事項を職場活動に組み込んでいく必要があります。
 もし相談活動を機能させたいのにうまく行かない、という場合には、以下のような観点でチェックしてみてはいかがでしょうか。

相談活動が発生しない・・・

4.まとめ

相談活動を活用することで、環境変化に柔軟に対応する強い職場作りが可能になります。  成果創出と人材育成を実現させ、職場の活力をとり戻すことができます。

 これからの管理者には、

1.「先」を管理することが管理者の仕事であることを改めて認識し、
2.先を管理するための余力を出すために、メンバーに「任せ」
      (*「任せる」内容は“チャレンジング”なもの)、 3.「任せきること」、そして、信頼関係に基づく「相談活動」を通じ
  メンバーの育成を促進させるとともに、
      成果を出すために環境変化に柔軟に対応していく強い職場作りを行う

ことが求められるのです。

次回(第5回)では、“適材適所の実現”と題して、メンバーをさらに活かすための前提について検討します。

(学校法人産業能率大学 経営管理研究所 主任研究員 中村 浩史 氏)

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  • 著者の所属・肩書きは掲載当時のものです。