「職場の蘇生」~先手を打つ管理者こそが、活力ある職場を創り出す~【第3回】

第3回 「管理者が『管理』すること」

第2回では、管理者とメンバーを取り巻く職場環境に着目し、「メンバーを見て期待を示すこと、メンバーを把握すること」を取り上げました。
第3回では、職場の成果創出とメンバー育成の両者を実現させていくことも念頭に入れ、強い職場づくりへ向けた検討をさらに進めていきます。

1.管理者が「管理」するものは何か? ~「先」を管理するのが管理者の仕事

まず、管理者にとって、管理する“対象”とは何でしょうか? 
一言でいうと、何を管理するのでしょうか。
メンバーの状況管理や職場としての進捗管理などいろいろ回答があがってきそうです。
 そのような中で、今、重視すべきことを一言でいうならば、“「先」の管理(「先」を管理する)”です。

 では、質問を変えてみます。たとえば、ある営業職場において、その職場で受け持つ今年度の売り上げ目標を、メンバー一人ひとりが分担するとします。そして、分担されたメンバー個々の売上げ数値を合算すると職場目標を達成できる場合、その職場には管理者は必要なのでしょうか?

 答えは“必要”です。
 というのは、メンバーが受け持っているのはあくまでも目の前の業務であり、メンバーは今年度の目標達成へ向けて日常を過ごしており、メンバーだけでは、先のことを考えることが難しいからです。加えて、メンバーは、自身が担当する業務が分担されているため、職場全体に関する先の構想をイメージするには情報が少ないともいえます。
 ここから、管理者が職場全体を俯瞰し、その先に意識を向けて、職場の方向性等を検討していく役割を担っていく必要性が伺えます。

 メンバーが目の前の今の業務を担う(管理する)一方で、管理者に求められるのが、“「先」の管理”ということができます。
(“今”の業務はメンバーが担い、“先”に関することは管理者が担うといった役割分担です。)
管理者とメンバーでは、その時間軸において求められることが明確に異なります。

 “「先」の管理”とは、この先、少なくとも2、3年先のことを想定し、職場をどのように持っていくのかを考えていくことです。
 しかしながら、管理者がプレイヤー化している企業現場では、どうしても「先」のことを考え検討する機会が少なくなってしまいます。管理者がプレイヤーとして目前の業務遂行の割合を多くしていたり、メンバーの日常活動の進捗チェック等の割合を必要以上に高めたりすることで、“先”のことを検討する機会を減らしてしまっています。
 管理者自身が目前の業務に忙しくプレイヤーとして活動している中で、職場のメンバーがあまり育っていないとすると、メンバーに分担してもらう部分が変わらないため、翌年もさらにその先も、管理者としてのプレイング業務の量が変わらないままです。負担が減ることはありません。

 また、管理者が目の前の業務すなわち「今」の管理のみに注力し、「先」の管理を怠ってしまうと、今の業務(既存業務)に基づく職場運営の着実な遂行のみに意識が向いてしまうこともあります。たとえば、ミスをしないことだけに意識が向いてしまい、どれだけ着実に行うかだけにエネルギーを注ぎます。そうすると結果的には、今の仕事(既存業務)だけを続けようとしていまい、「先」を想定した職場の動かし方(新たな先の業務)に関する可能性の幅を狭めてしまうことになります。
 管理者は、目前の管理に忙殺され先を管理することを疎かになってしまうのではなく、しっかりと先を管理することも必要となります。

2-1.先を管理するために「メンバーに任せる」

 “「先」の管理”すなわち先々のことを考えるためには、どうしても管理者自身が目の前の忙しさを減らし“余力”を作り出さなければいけません。
 では、その“余力”をどう作り出していけばよいでしょうか?
 それは、自身のプレイング業務等をメンバーに「任せて」いくことです。「任せる」ということを改めて検討しなおすことです。

 「任せる」ことにより、自身の管理者としての時間を確保していきます。

 また、「任せる」ことは、「“先”を管理する」ための“余力”を作り出すだけではなく、メンバーの育成も促進させていきます。任せた業務をメンバーに遂行してもらうことで、メンバーの成長機会を創り出していくということになります。
 そこで、「任せる」ことについて話を進めていきますが、次に「任せ方」のポイントについて検討していきます。

2-2.「任せ方」のポイント

「任せ方」

(1)“任せる範囲・内容を明確にする、再吟味する”

任せられないから管理者自身がプレイヤーとして活動している現状に対し、一度、立ち止まり、どの部分なら任せられるのか改めて吟味してみます。
 効率性を考え、自身で丸抱えする管理者も多く見られますが、「この部分は任せよう」と再吟味することで、管理者としての時間を確保する余地を引き出すことにつながります。

(2)“任せる内容は、本人にとってチャレンジングなものであること”

そして、育成的な目的に照らして、また本人のやりがいという観点からして、任せる業務は、任せられる側にとってチャレンジングな内容であることが必要です。

(3)“「任せきる」という姿勢をもつ”

メンバー側が、「任せられた」という責任感をもち、主体的に取り組んでいくためには、頻繁に状況を報告させるような行為は、避けるべきでしょう。どうしても、押し付けられたという実感がメンバー側に芽生えてしまうからです。
任せる際には、「任せきる」という姿勢を持つようにします。

(4)“任せた後のフォローとしてのコミュニケーション体制”

 しかしながら、「任せきる」といっても、任せられた業務はメンバーにとって、チャレンジングなものであるため、これまで経験したことのない事項も含まれているはずです。
 したがって、任せながらも、何かあれば管理者にすぐに話を上げてもらい、管理者からアドバイスや示唆を与えられるような、すなわち、任せた後、支援できるような関係を同時に保つようにしていきます。
 このコミュニケーション体制をつくることで、何があっても大丈夫なように先手を打つことができます。そして、主体性をメンバーへ持たせながら進めることができます。
 次回は、「Point4フォローアップ体制の構築」に関する具体的な方法について、さらに検討を進めていきます。



(学校法人産業能率大学 経営管理研究所 主任研究員 中村 浩史 氏)