効率化を中⻑期の企業成⻑につなげるためのもう⼀つの視点【第5回 業務効率化を実 現する8つのステップと現場管理職・⼈事部門の役割】

3.現場単位での業務効率化活動の進め⽅

※[ステップ1][ステップ2]は第2回をご覧ください。
※[ステップ3][ステップ4]は第3回をご覧ください。
※[ステップ5][ステップ6]は第4回をご覧ください。

[ステップ7] 改善策を考える:基本は「ECRS×七つの構成要素×七つのムダ」の組み合わせ

第2〜4回[ステップ6]までで「最優先で検討に着⼿するステップ(P)」が決まったことになる。
ここで⼀つ、思い出してほしいのは、「ステップには2種類ある」ことだ。このうち「作業など⼀連の⼿順がある」ほうのステップは、基本的にワークフロー、つまり⼀番細かい作業レベルへと落とし込み、ステップ中にあるボトルネックを⾒つけ出す必要がある。

ボトルネック特定後は、「ECRSの原則」([図表9]上部参照)を基本ガイドとして、具体的な改善、最終的には新しい仕事の進め⽅を検討する。ECRS(Eliminate:排除、Combine:結合、Rearrange:交換、Simplify:簡素化)の視点でステップの中⾝を⾒ていくが、目をつけるべき部分を⾒落としてしまう恐れがある。
そこでまず、ステップを構成する要素を七つに分けてから検討を始めたい。

ここにさらに「七つのムダ」を加えてほしい(ここでは「トヨタ⽣産⽅式」において、付加価値を⾼めない各種現象や結果と定義される「七つのムダ」を提⽰している)。

[図表9]下部のムダは⽣産場⾯に限ったことではなく、むしろ、スタッフ業務、ホワイトカラー業務には、今後は「⽣産関連業務並みに」検討、徹底した改善を図ってほしいと思うところである。

「余計なコピー」(作り過ぎ)、「移動時間を勘案しない顧客担当設定」(運搬)、「⾒積もりミス」(不良を作る)、「過剰なパワーポイント」(加⼯)、「PC作業習熟度の低さ」(動作)など、⾝の回りにいくらでもあるのではないだろうか。
業務遂⾏においてパソコンの使⽤が当たり前の時代になったが、「PC作業習熟度の低さ」は、思いのほか改善余地が⼤きい。キータッチが速ければ作業も速いとは限らず、ショートカットの使い⽅や、エクセル機能の活⽤知識(表計算レベルではなく、例えば「罫線を引く」といった作業)は、驚くほど個⼈によって異なる。

※図:「仕事の⽣産性を⾼めるマネジメント 何が⽣産性向上の決め⼿になるのか」
((学)産業能率⼤学総合研究所 ⽣産性向上研究プロジェクト編著)P.153〜154より抜粋
パソコンに限らないが、「慣れているやり⽅」というのは、本⼈にとっては最も楽なやり⽅ではあるが、これは他⼈から⾒ると、ひどく非効率な場合がある。こういったタイプの業務は、改善対象としては挙がってきにくい。
「改善するものがない」と感じているような場合でも、「慣れている業務」の中⾝、実際の進め⽅などを、まず確認したい。

[ステップ8] 新業務プロセスの運⽤:「改善余地のない業務はない」と考える

新業務プロセスのデザインが完了したら、チェックリストやワークフロー、作業⼿順書などの形式として整え、ルールとして徹底、運⽤していくことになる。
しかし残念ながら、この時点で「完成版が出来上がった」ということにはならない。確定前に、試⾏期間を設定し、新しいやり⽅については「狙った成果が出るのかどうか」「何かムリが発⽣していないか」などを確認する。
この調整とその後の早期定着は、現場管理職のマネジメント⼒にかかっている。

そこで以下の点について、現場管理職には配慮をお願いしたい。
⼀つ目は「業務の着⼿」、あるいは「業務の割り振り」についてである。
ここまでで完成したのは「各業務の新しいやり⽅」にすぎない。論理だけで運ぶことができれば、それぞれの業務における目的と⼿段が合致している、つまり適切な⽣産性をもって進められることを意味している。
しかし、実務の場⾯において「⾃分はたった⼀つの業務しか担当していない」ということはほとんどない。

1⼈で複数の業務をこなす……「複数の業務、案件が同時進⾏」であることのほうが⼀般的であろう。
この場合、[図表10]に⽰した状況が起こる。

※図:「仕事の⽣産性を⾼めるマネジメント 何が⽣産性向上の決め⼿になるのか」 ((学)産業能率⼤学総合研究所 ⽣産性向上研究プロジェクト編著)P.159より抜粋
それぞれの業務をいわば標準時間で終えることができていたとしても、実際の着⼿から終了までは、標準をはるかに超えてしまう。個⼈の負荷や能⼒を考慮し、仕事の割り振りや着⼿のタイミングをコントロールすることも、現場管理職の重要な任務である。

⼆つ目は「継続的な改善」の必要性についてである。
これも総論としてはご理解いただけると思われる。第4回[ステップ6]で「プロセスのステップに問題があるところはどこか?」という視点で検討を⾏った。
仮に、その際に「最も問題が⼤きいところ」(=ボトルネック)に焦点を当てて改善したとする。
となると、「2番目の問題点=新たな最⼤の問題」が次に着⼿するべき改善対象となるのである。

4.終わりに:効率化を中⻑期の企業成⻑につなげるためのもう⼀つの視点

ここまで、業務の洗い出しとムダ取りから始まる⼀連の業務効率化の視点について⽰してきたが、こうしたプロセスで「非付加価値業務」と判断されたものであっても、また別の役割付けがあり得る。

例えば、新⼈に最初から付加価値業務を任せることは可能だろうか?
仮に任せることにしたとしても、先輩社員や、ましてや上司と同等にこなすことは困難だろう。付加価値業務の⼀部分や、本来はアウトソーシングしてしまったほうが低コストで済む業務から、“練習する”ことが必要になるのではないか。これは、非付加価値業務が社内に存在するプラスの意義を意味することになる。こうした視点が果たして、評価制度やキャリアパス、現場管理職/OJTリーダー向けの指導に含まれているだろうか?

効率化が、短期的なコスト削減ではなく、中⻑期の企業成⻑を目指したものであるならば、⾃社の戦略目標達成、⼈財育成/活⽤の観点と整合した業務分類、それに応じた業務改善の“順番”があるのではないか[図表11]。

※図:「仕事の⽣産性を⾼めるマネジメント 何が⽣産性向上の決め⼿になるのか」 ((学)産業能率⼤学総合研究所 ⽣産性向上研究プロジェクト編著)P.174より抜粋
厳しい経営環境の中、現場での育成スキームの劣化が進んでいる⼀⽅で、過去の「教え、教えられる」という関係性を経験した⼈財がまだ現場に残っている今が、その“順番”を順守することができるギリギリのタイミングであるように思えてならない。

タイミングを逃してしまうと、残すべき経営資源を捨てざるを得ない状況にもなりかねない。現場はうすうすそのような事業環境、⾃社の状況を感じながらも、目先の業務に追われてしまう。
これを補正し、⽀え、適切な⽅向性へ向かわせることができるのは、各種の⼈事制度を含め、⼈事部門の役割が極めて⼤きいのではないだろうか。

(産業能率⼤学 総合研究所 研究員 安藤紫)



※ 本コラムは、「労政時報」(労務⾏政研究所)に掲載(2013年1⽉11⽇発⾏)した内容に基づいています。
※ 著者の所属・肩書きは掲載当時のものです。