現場単位での業務効率化活動の進め⽅【第3回 業務効率化を実現する8つのステップ と現場管理職・⼈事部門の役割】

3.現場単位での業務効率化活動の進め⽅

※[ステップ1][ステップ2]は第2回をご覧ください。

[ステップ3] 業務の「⾒える化」(1):プロセスマップで「⾒える化→わかる化」

プロセスマップは、いわゆるワークフローと⽐べて、より“⼤きなくくり”で業務を可視化したものである。
⽇本語の特性上、表記区分がやや難しい部分があるのだが、作業ではなく、「その業務を遂⾏するために果たさなければいけない機能」を業務の流れに沿って「目的」志向で並べ描く。

プロセスマップ上のステップ([図表5]★部参照)の順番は、「この機能を果たさなければ、次の機能には進むことができない(はず)」であることに留意して並べる。第2回[ステップ1]で実施した業務棚卸しの精度が⼀定以上であれば、プロセスマップの作成は難しいものではない。

※図:「仕事の⽣産性を⾼めるマネジメント 何が⽣産性向上の決め⼿になるのか」
((学)産業能率⼤学総合研究所 ⽣産性向上研究プロジェクト編著)P.118より抜粋
最初からすべての業務のプロセスマップを作成する必要はない。
私がコンサルティングを⾏う際、業務が多岐にわたり、時間や⼯数に制約がある場合には、以下の視点などを参考に対象業務の優先順位を付けてもらうようにしている。
  1. 現在、最も多くの時間を使っている(と考えられる)
  2. 部門の基幹業務である
  3. 直近で⼤きな問題が発⽣している
  4. 組織として各種改善(削減、短縮、向上など) 指⽰が出ている
  5. “⽣産性が低い”と感じている
「⾒える化」は、「測れる化」としても取り扱われ、業務を定量的/客観的に、さらには数値を使⽤して表すことを指す場合もある。しかし、ここではもう⼀つの「⾒える化」の意義、つまり、「複数の⼈たちが具体的に共有化し、検討する」ことを促進すること(「わかる化」)を目的とする。
プロセスマップはいわば、業務の「⾒える化→わかる化」を志向している(「わかる」=解る、判る、分かる。本当に解る[理解する、腹落ちする]ためには、それが正しいかどうか判断できなくてはならず[判る]、したがって判る[=判断できる]サイズに「分け」なくてはならない)。

この段階で、「(プロセスマップを作成した)業務の“お客様”は誰か?」を確認する。 「早く終わりさえすれば、業務品質は問わない」といったレベルの改善は、おそらく求められていないに違いない。これは、⽣産性向上のために改善する業務で、「時間以外に達成すべき目標、基準」の有無を確認するための第⼀歩である。

「⾃分の業務は営業ではないから、“お客様”なんていない……」と思う⽅もいるだろうが、「すべての業務には“お客様”が存在する」。⽇本の製造業の⽣産現場においては、昔から「後⼯程は“お客様”」という考え⽅が定着している。同様に、皆さんの業務が完了した状況(書類や半製品[製造途中にある製品]など形があるモノのほか、「必要な情報がすべてそろった」「データ⼊⼒が完了した」といったような状態も含む)を受け取るのは誰か、考えてみていただきたい。場合によっては、(適切な意味で)「上司」や「⾃分⾃⾝」が“お客様”に該当する業務もあるはずである。

ここで“お客様”を特定するのは、「その業務はどうあるべきか、どうするべきか」を規定し、具体的な目標を設定することを目的としている。その“お客様”に対して、守らなければいけないQCD(業務品質[Quality]、コスト[Cost]、納期[Delivery])なども具体的数値で⽰すことが望ましい。具体的数値としたが、例えば「お客様が提⽰した仕様にある指定納期」といった表現でも構わない。

この“お客様”を無視した目標設定や改善は、本質的には価値がない/低いということにもなる。
その意味で、もう⼀つ加えれば、“お客様”の設定を誤ると、本当の“お客様”にとってはまったく価値がない目標や改善となり、組織活動全体にとって、マイナスになることすらあり得るのである。

[ステップ4] 業務の「⾒える化」(2):「SIPOC」(サイポック)を規定する

最終顧客を定義することができたら、次に考えたいのが[図表6]のような「SIPOC」による⾒える化である。
S(前⼯程)、C(後⼯程)は社内外を問わない。
⼈(例︓上司など)、組織(例︓社内他部門、お客様など)など形にとらわれない場合がある。また、実務におい
てSやCは⼀つのステップに対して複数存在することも珍しくない。

I(インプット)、O(アウトプット)は、半製品や帳票類など“形あるもの”の場合もあれば、「(電話、⼝頭などによる)トラブル情報」「○○を完了した状態」などの場合もある。
P(プロセス)については、「⼿順」を規定するべきタイプの内容であるかどうか確認しておく。⼿順が不意である場合は、「そろえばよい/終わればよい」といった項目、要因を明⽰しておくとよい。

プロセスマップを作成した後、基本的には現状における業務の遂⾏状況をデータで把握し、その上で改善に着⼿することになる。その前に、あるいはデータ収集の余裕がない場合など、「SIPOC」のそれぞれの内容を整理すると、本来必要であった業務⼿順書やチェックリストの作成は、すぐにできてしまうこともある。

SIPOCのいずれも重要ではあるが、I(インプット)の内容、タイミングには特に留意したい。
それが⾃分のやった作業(例:受け取った書類/情報を確認した内容=アウトプット)からのインプット、あるいはお客様(S)からの要望であったとしても、 ここに何らかの瑕疵があった場合、その後の作業(P)が完璧であったとしても、そのアウトプットには問題が⽣じてしまう可能性が⾼い。
個々の作業⼿順の問題よりも、インプットの品質の問題が再確認や調整、やり直しといった余計な作業を増加させ、業務時間を⻑引かせてしまう⼤きな要因となっているのである。

S(前⼯程)が例えば他部門である場合、「⾃部門内での改善は限界」となっていることもあり得る。
安易な他責は禁物だが、全体最適を志向して適切な交渉/調整をするためにも、プロセスマップを定性/定量的にレビューすることに意味がある。S相当が社外のお客様であった場合は、お客様に対する接し⽅(場合によっては“啓発”も含む)や、そこで確認すべきポイントなど、業務の質を変えて⽣産性を向上させるための視点を得ることができる。

(産業能率⼤学 総合研究所 研究員 安藤紫)



※ 本コラムは、「労政時報」(労務⾏政研究所)に掲載(2013年1⽉11⽇発⾏)した内容に基づいています。
※ 著者の所属・肩書きは掲載当時のものです。