【第2回】⼈材開発活動に必要なアンケート調査の考え⽅・すすめ⽅

テーマ:質問項目の作り⽅と回答形式の決め⽅

今回は質問項目・回答選択肢の作り⽅のポイントについて解説します。

(誌上セミナー担当:堀内 勝夫 総合研究所)

1.質問項目の作り⽅

アンケート調査や、インタビュー調査でデータを集めるためには、対象となる⼈々に適切な質問をすることが重要です。以下にAとBの組になっている回答⽂が2つあります。これらは、この同じ質問⽂に対するものです。

「どちらの課⻑の下で働きたいですか?」

読者の皆さんはAとBどちらを選ばれるでしょうか?

よく読んでみると、上の囲みと下の囲みのA⽂同⼠、B⽂同⼠は内容が全く同じです。
ところが、賛成の割合が⼤きく異なっています。
このようにアンケート調査の場合、⾔葉の使い⽅によって結果が異なることがあるので注意が必要です。
質問項目を⽂章化する作業やその結果の⾔い回しは「ワーディング(wording)」と呼ばれます。

以下では、ワーディングに関する留意点を8つ挙げてみましょう。

(1)難しい⽤語や略語は使わない→難しい⽤語や略語には説明を加える

例)「SASの最近の動向についてどう思いますか」
「SAS」が何を意味するのか明確ではなく、その判断は回答者に委ねられます。すべての回答者が同じ意味に取るとは限らず、意味の異なる回答になる可能性があります。

(2)特殊な⾔葉を避ける

例)「パソコンに詳しい⼈」と「パソコンマニア」 パソコンの利⽤に関して質問する中で、この2つのワーディングのうちどちらを⽤いるかで回答者に与える印象が異なります。ステレオタイプもしくは偏⾒を引き出すようなワーディングは避けましょう。

(3)聞きたいことを直接聞く→反対語を使っても意味は正反対にはならない

例)「消費税に賛成ですか」、「消費税に反対ですか」 この2つの尋ね⽅は、⾔葉の上では単に賛否を問いている対称的な質問に⾒えますが、回答で正反対の結果が得られるとは限りません。質問のもっていき⽅によって、⼼理的なバイアスがかかり、それが回答を⼤きく変化させることがあります。

(4)否定語を多⽤しない

例)「国⽴公園で以下の⾏為をしないことは環境の保全に役に⽴たないという意⾒に賛成しますか」 否定語を多⽤すると⽂意が掴みにくい⽂章となります。可能な限り肯定⽂にしましょう。

(5)社会的な質問と個⼈的な質問とをはっきり区別する

例)社会的な質問→「裏⼝⼊学で合格する⼈をあなたはどう思いますか」 個⼈的な質問→「可能であれば、裏⼝⼊学をしてでも⼦供を合格させたいですか」 この2つでは回答が異なります。原理原則でいえば、社会的に正しい、もしくは間違っているという価値を含む質問はできる限り避けましょう。価値の⽅向に回答結果が偏ります。

(6)⼆つの質問が同時に⾏われる表現は⽤いない

例)「この⾃動⾞の⾊や形を良いと思いますか」 ⾊は良いと思うが、形は良いと思わない場合もあるので回答の混乱を招くことになります。

(7)形容詞や副詞や動詞の選択は慎重にする

例)「あなたはコミュニティ活動に○○参加しますか」 ○○の部分に「積極的に・いつでも・ときどき・原則的に・必ず・おおかた・たまには」のいずれを ⼊れるかによって、回答が異なり、集計結果にも影響を及ぼします。

(8)丁寧すぎる表現や、くだけ過ぎた表現は避ける

例)「お⼦様は⼀⼈でお⾷事を召し上がれますか」 不⾃然な印象を与えます。アンケート調査では印刷・表⽰された⽂章が全てです。その⽂章で、回答者に質問の意図を完全に把握していただかなくてはなりません。正しい、分かりやすい⽇本語を使いましょう。

2.回答形式の決め⽅

アンケート調査において、質問項目に対する回答形式には「⾃由回答」「選択回答」「順位回答」の3つがあります。それぞれの⻑所と短所を良く理解した上で使い分けましょう。

2-1.⾃由回答

質問⽂に対する回答を⾃由に記述させる形式です。
【⻑所】
・調査者が気づかなかった重要な視点や解決案、意⾒が得られる可能性がある
・回答者が満⾜するという効⽤が期待できる場合がある

【短所】
・回答者が質問の意味を取り違える可能性がある
・回答に⼿間がかかるため無回答が多くなる
・コーディングに⼿間がかかる

”どのような回答が得られるか予想がつかないような質問”、”選択肢をつくると多すぎる質問”(例えば、講読雑誌の名前)は、⾃由回答を⽤いた⽅が良いでしょう。

2-2.選択回答

回答内容をあらかじめ選択肢として⽤意しておき、その中から回答を選ばせる形式です。
量的調査(アンケート調査)を実施する場合は、選択回答形式を中⼼にします。

【⻑所】
・選択肢が⽰されているので意味が伝わりやすく、回答しやすい
・データの統計的処理が容易

【短所】
・回答が選択肢の範囲内に限定されてしまう

選択回答の際に、「その他」⾃由記述で当初予想しなかった回答があった場合に、それに着目して、類似の回答が多く出た場合に分析の「区分」を新たに設定する⽅法もあります。




選択回答形式で実施する場合には、いくつか注意する点があります。

単⼀回答か複数回答か

単⼀回答とは、選択肢の中から⼀つだけ選ばせるものです。
複数回答とは、選択肢の中から⼆つ以上選ぶものです。

この2つの形式は、集計⽅法にも違いがあります。回答者には明確に違いを意識してもらいましょう。

特に複数回答の場合には、選ぶ数に制限をつけるものと、無制限のものがあります。無制限の場合、全ての選択肢に○がついてしまうこともあります。
しかしながら、回答者の気持ちに沿って選択したいものはすべて選択できるという良さがあり、実態調査によく⽤いられます。この場合、「当てはまるもの、すべてに○をつける」と明記することが⼤切です。

単⼀回答の場合は、重複選択肢、⽋損選択肢が無いようにする

(例1)では、30歳と40歳の⼈はどこに回答すべきか不明確です。
(例2)では、10歳未満と60歳以上の⼈は回答できないことになってしまいます。

単⼀回答の場合、選択肢が相互に”排他的”かつ”網羅的”になっていなければなりません。2つ以上の選択肢に当てはまる⼈が⽣じないように選択肢を吟味する、「その他」という選択肢を設けておく等の注意が必要です。

選択肢の数

20以上の選択肢の中から1つだけ選ぶなど、選択肢の数があまり多くなると、選ぶ側の負担が⼤きくなります。質問項目を分けたり、⾃由回答を上⼿く使って、選択肢の数を10以内に抑えるようにしましょう。

2-3.順位回答

「完全順位づけ」「部分順位づけ」「⼀対⽐較法」の3つがあります。(表1参照)


表1 順位回答の種類
回答の種類 回答のタイプ 説明
順位回答 完全順位づけ
部分順位づけ
⼀対⽐較法
選択肢のすべてに順位をつけさせる
上位のいくつかまで部分的に順位をつけさせる
⼀対ずつの選択肢を⽰して⽐較させる
完全順位づけは、選択肢の数が少ない時が望ましく、5つ以内、最⼤でも10が限度です。⼀対⽐較法は、⼀対ずつの選択肢を⽰して⽐較させ、結果として順位をつける⽅法です。

2-4.回答形式の決定

回答形式は、得られたデータを集計・分析する⽅法と密接に関連しています。回答形式が不適切なものだと、必要な分析ができなくなることもあります。よって、まず結果をどのように分析するかを想定し、それに適したデータが得られるような回答形式を選択しなければなりません。

回答形式を決定する際には、「尺度の⽔準」についての理解が必要です。量的調査で得られたデータは、多くの場合数字を⽤いて表現されますが、この数字のもつ情報量によって「尺度(scale)」の⽔準が決まります。

尺度はその⽔準によって、「名義尺度」「順序尺度」「間隔尺度」「⽐例尺度」の4つに分類されます。(表2参照)

名義尺度(nominal scale)

数値は分類ラベルの情報を持っています。しかし⼤⼩や順序という意味はありません。

*「1.環境⾳楽 2.ポップス 3.クラシック・・・」でもよいことになります。

順序尺度(ordinal scale)

数値は名義尺度のもつ情報を備えており、さらに⼤⼩や優劣といった順序の情報が含まれています。
しかし数値の間隔は等間隔ではありません。

*例では、クラシックを1位、ジャズを2位、ポップスを3位としています。
Aさんは、クラシックが「すごく好き」でジャズとポップスが「まあまあ」です。Bさんは、クラシックとジャズが「すごく好き」でポップスは「まあまあ」だとしても、回答結果は変わりません。
つまり、”1位と2位がすごく接近している⼈”と、”1位が2位と3位をすごく引き離している⼈”の結果でも変わらないということになります。

間隔尺度(interval scale)

数値は順序尺度のもつ情報を備えており、さらに数値の間隔は等間隔です。
しかし絶対原点(0)をもっていません。

⽐例尺度(ratio scale)

数値は間隔尺度のもつ情報を備えており、さらに絶対原点(0)を有しています。

「名義尺度」「順序尺度」「間隔尺度」「⽐例尺度」と尺度の⽔準が⾼くなるにつれ、数値のもつ情報量は多くなります。またそれに伴って、適⽤できる集計・分析⽅法も増加します(表2参照)。

また、情報量の多い尺度から少ない尺度へは変換可能ですが、少ない⽅から多い⽅への変換はできません。(間隔尺度)→(名義尺度)は可能ですが、逆はできません。

したがって、回答形式を決定する際には、できるだけ情報量の多い尺度の⽔準になるように⼼がけます。
表2 尺度と分析⽅法
変数の種類 尺度の名称・具体例 使⽤可能な分析⽅法
定量的変数 ⽐例尺度⾝⻑、⾦額など
間隔尺度気温、年齢など
すべて
算術平均、標準偏差、相関係数、t検定、分散分析など
定性的変数 順序尺度 マラソンの順位、学歴など

名義尺度 背番号、電話番号、性別など
中央値、順位相関係数、四分位偏差など

最頻値、連関係数、χ2検定など
次回は、結果の集計に関する基本について解説します。