【第1回】⼈材開発活動に必要なアンケート調査の考え⽅・すすめ⽅

テーマ:活⽤できるアンケート調査のポイント

アンケート調査実施のステップ

⼀般的に、アンケート調査は次のようなステップで実施されます。

1.調査設計
2.実査
3.集計、分析、報告

1.調査設計 調査設計とは、まさに調査を設計することで、その内容は、以下のようなものです。
①調査の目的を明確にする。
②調査対象を選定する。
③実施する調査のタイプを決定する。
④質問項目・調査票を作成する。(これについては次回詳しく解説をします。)
2.実査 実査とは、調査票を配布回収する、WEBやLANでの実施の場合は回答者の管理をする、インタビューの場合は会場準備と⽇程調整を⾏った上で実際にインタビューを実施するなど、データを実際に集めるための作業を⾔います。
3.集計・分析・報告 集められたデータを集計、分析し、得られた結果について報告します。(これらについては第3回で解説します。)

1.調査設計

活⽤できるアンケート調査の第⼀歩は、調査設計を確実に⾏うことです。

(1)調査の目的を明確化

アンケート調査を実施する際には、調査の目的や結果の活⽤⽅法について明確にしておくことが重要です。
こう⾔うと、当たり前のように思われるかもしれませんが、企業のご担当者からお話を聞くと、社員意識調査は年1回定期的に実施しているが、役員に報告した後は結果が活⽤されていないということもあるようです。

そもそも何のための調査なのか、どう活⽤するのかについて明確にしておきましょう。

例えば、社内研修の受講後アンケートを実施するとします。
その受講後のアンケートは何を目的としたものでしょうか?

・担当した講師の評価をしたい。
・研修の内容がどの程度理解されたのかを知りたい。

単に研修がよかったかどうかを知りたいと⾔うよりも、もっと掘り下げて考える必要があります。

そのためには例のような目的の連鎖を3~5段階は考えてみましょう。

例⽰にあるとおり、目的を展開してみると途中で枝分かれすることがあります。右の流れと左の流れでは調査する内容が違ってくることが分かります。

(2)調査対象の選定

調査対象がどういう集団なのかを明確にしましょう。
例えば、社員意識調査では、職場の管理職と⼀般社員だけを対象とするのか、出向者や、非正規雇⽤社員(派遣社員、パート社員等)を対象に加えるのかなどを検討しましょう。
また、中途採⽤の多い会社の場合、あまり社歴の短い⽅のデータは違う傾向を⽰すこともあるので留意が必要です。

調査対象が誰なのかを明確にしていくことで、どのような属性が重要かが⾒えてくることもあります。

調査対象を明確にしておくことは、実査に向けて⽋かせないステップとなります。

(3)実施する調査のタイプの決定

調査にはいくつかのタイプがあります。実施の目的に合わせて適切なタイプを選びましょう。

A.得られるデータと対象によるタイプ分け

a.全数調査

全数調査とは、調査テーマに関係する集団全員に対して⾏う調査です。
例えば、国⺠(世帯)全体に調査を実施する国勢調査は、全数調査の代表的な例です。
社員意識調査など社内でのアンケート調査を考えた場合、まず全数調査ができないかどうかを
検討します。どうしても無理な場合は標本調査を検討します。

b.標本調査

標本調査とは、対象集団の⼀部分を標本(サンプル)とし、その調査結果から対象集団全体を推測する調査です。
⽇本⼈全体の傾向をつかむ世論調査などの⼀般的な社会調査は⽇本⼈全員を調べることができないので、標本調査によって⾏われます。


「a.全数調査」と「b.標本調査」は調査票(アンケート⽤紙)を作成し、結果を⽐率(%)や平均値などで得るので量的調査と⾔われます。 量的調査は、対象集団について、その全体像を数量として把握することを目的とした調査であると⾔えます。 アンケート調査と⾔えば通常この量的調査を指します。

c.集落調査

集落調査は、ある⼀定のまとまりをもつ地域や集団全体を対象として、その⽣活や意識、集団内の事象をトータルに捉えようとする調査です。
⺠俗学のフィールドワークなどがこれにあたります。調査者が対象集団に対して聞き込みを⾏うだけではなく、その集団と⽣活⾏動を共にして、集団の⼀員として実態を観察する⽅法が⽤いられることもあります。
事例調査は、興味のある特定の現象が起きている集団の中から対象を選び出し、インタビューや資料の収集によって、その現象を把握しようとする調査です。
例えば、営業部門に活気がないなあという問題意識を持った場合、営業部門に所属するマネジャーやメンバー数⼈にインタビューするといった⽅法がとられます。

「c.集落調査」と「d.事例調査」は得られるデータが⾔葉や⽂字であることから、質的調査と呼ばれます。 質的調査は、少数の事例について、様々な角度から全体像を把握し、さらに普遍化して解釈する調査法であるといえます。



アンケート調査にはよく⾃由回答の設問がありますが、この場合は得られるデータが⾔葉や⽂字であることから、この部分だけは質的調査と考えてよいでしょう。
したがって、アンケート調査と⾔っても全てが量的調査ということではなく、量的調査と質的調査を複合した作り⽅もできます。

量的調査と質的調査は、排他的なものではなく両者の良いところを上⼿く取り⼊れて実施するとより正確な結果が得られるものです。

パターン1:量的調査に先⽴って、質的調査を実施し、調査内容を確定するのに役⽴てる。

例)まず営業部門の数名にインタビューを実施し、そもそも活気がない、モチベーションが低いのはなぜだろうかということについて意⾒を聞く。次にそれらの意⾒を元にアンケート調査の設計を⾏う。

パターン2:量的調査を実施し、その結果の妥当性を確認するために、質的調査を⾏う。

例)まず社員意識調査を実施する。その結果を各部門⻑に報告しながら、なぜそういう結果になったと思うか、⾃部門における課題は何か、等をインタビューする。

パターン3:量的調査と質的調査を同時に⾏う。

例)社員意識調査を実施する場合、質問項目と回答選択肢だけではなく、⾃由記述を設けておく。
または、インタビューの中や前後で、簡単なアンケートに回答していただく。

B.調査目的によるタイプ分け:現状把握と仮説検証

調査の目的は、現状把握と仮説検証の2つに⼤別することができます。

現状把握とは、知りたいこと(調査テーマ)に関する周辺状況や、何が起こっているのかを把握することを意味しています。いわゆる実態調査というものです。

仮説検証とは、調査の実施者が問題意識をもとに何らかの仮説を設定し、その仮説が本当に成り⽴っているのかどうかを確認することを指します。

ここでは、前者を目的とした調査を「現状把握型の調査」、後者を目的とした調査を「仮説検証型の調査」と呼んで区別します。
しかし実際には、1回の調査で両者を同時に⾏う場合が多くあります。

現状把握型の調査は、研修受講後アンケートでは「研修内容が業務に役⽴つと思った社員が何%いるか」など単純に質問を集計するイメージになります。
それに対して、仮説検証型の調査は、仮説がないと調査ができません。

例えば、「講師のインストラクションが良いと、研修内容を業務に役⽴てようと思う」という仮説を⽴て、「講師のインストラクションに対する質問」と「研修内容を業務に役⽴てようと思うか」という2つの質問の結果が関連しているかをみる必要があります。

したがって、仮説検証型の調査の⽅が調査設計は難しくなります。
しかし、調査結果を役⽴てようとすれば、ある現象に対して原因を探っていくことができる仮説検証型の調査の⽅が有効です。是非仮説検証型の調査にチャレンジしてみてください。

次回は、質問項目の作り⽅と回答形式の決め⽅について解説します。