中国の経済と商機を追う(第6回)

前回は留学経験者の活用についてみてきたが、今回は、現地人を活用するポイントを考える。

産業能率大学の調査では、中国人が日系企業で働いて最も困っていることは「日本人とのコミュニケーション」である。また、「昇進するチャンスが少ない」「給料が安い」というイメージもある。

このような現状を変えるには、中国人従業員のやる気を引き起こす新たな人的資源の仕組みを構築することがカギである。具体的には、企業文化の浸透を大前提とした「情・気遣いをベースにするコミュニケーション」、「大胆な権限の委譲」が重要だと思う。

まず、「情・気遣い」をベースにしたコミュニケーションについて見てみよう。

日本の企業の多くは、東洋人の温情的な経営スタイルと「仕事に感情を持ち込むな」の両方の文化を持っていると思うが、中国人のほうは、人間関係に近い距離感を求める。現場に近いほど、この傾向が強い。

第4回で述べた中国現地企業の「海底撈」で働く従業員はほとんど地方から出稼ぎの人々である。「海底撈」は「自分の両手で運命を変えよう」という理念を社内で徹底し、住居から従業員の研修、子供の教育に至るまでの「情や気遣い」を従業員に注ぎ、従業員は、マニュアルにない、顧客を感動させるサービスを自発的に絶えず工夫してくれる。この好循環で顧客を創出し続けている。

そのほか、経営幹部は、毎朝工場の入り口で出勤してくる従業員に挨拶することを励行したり、社内で運動会、コンサート、美術展を催したりして、社員の創造力を刺激しながら、大家族の温かい職場環境を醸し出そうとしている企業も多く見られる。
もちろん、昇進、抜擢に関しては、「情抜き」という風土づくりなどの工夫も大切である。

次に、「大胆な権限の委譲」について考える。

1996年から、外資企業は、一斉に中国のカタログ販売市場に進出した。しかし、欧米モデルをそのまま中国に持ち込んだため、ほとんど失敗した。
メコックスレーン社(Mecoxlane:麦考林)も例外ではなかった。
メコックスレーン社は設立した当時、中国に、アメリカ人、ヨーロッパ人、ロシア人、南アフリカ人など堂々たるグローバルチームを送り込んで、アパレル、雑貨を中心に若い女性にカタログ販売を展開した。

しかし、2001年4月に6000万元(6000×15=9億元)の赤字を抱え、経営不振に陥った。それは、3000人あまりの顧客のうち、約2000人は上海郊外にあり、ドイツの中小都市の女性をターゲットにするビジネスモデルをそのまま中国で展開していたためである。
経営再建のために、留学経験のない現地人の顧氏がCEOに起用された。就任後の顧氏はグローバルチームを解散し、北京、上海の都会に住む若い女性をターゲットにする新たなビジネスモデルの再構築を提案・実行した。 現地事情に合った戦略に転換した結果、就任年度の第4期に黒字転換に成功し、その後しばらく、企業は毎年50%のスピードで成長し、ネット販売の分野では、3ケタの成長を達成できた。 現地人をうまく活用することで、マーケットの変化を感じ取る「センサー」を企業が多く備えることにもなる。 しかし、偏ったやり方は禁物なのかもしれない。本社の強みの発揮という自社適応と現地適応とのバランス;権限の委譲や大胆な抜擢と経営理念・企業文化の浸透とのバランスを国際経営の基軸として認識すべきである。

最後に、日系企業は、本来の競争優位を、製造業以外の産業でも発揮できることと、現地の優秀な人材に魅力な企業として感じられることを期待したい。 日系企業の高品質で、決して妥協しない、きめ細やかなサービスが持続的に中国の消費市場で花開くことを期待したい。

【完】

(産業能率大学 経営学部 教授 グローバルマネジメント研究所 所員 欧陽 菲)

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