中国の経済と商機を追う(第5回)

前編で「現地から吸収する」という「現地消費者密着型」経営スタイルの確立も急務と述べたが、この課題を解決するために、「本社ノウハウの活用」とともに、「現地人材の活用」と「意思決定の現地化」と「意思決定の現場化」がなければ、「消費市場の深耕」は不可能である。

この取り組みは、日系企業にとっては大きな挑戦になる。この挑戦はまず留学経験者を現地トップへの起用からスタートすべきだと思う。

2010年から一部の日本企業はトップの現地化、待遇の国内外基準の一本化などの人事方針が発表された。このような日系企業は今後も増えるだろう。

すでに10数年前から、中国に進出したある日系の食品メーカーでは、日本人総支配人一人が現地人の総経理から中間管理層、従業員まで、膨大な100%中国人のチームを率いて、日本流経営を徹底し、経営の現地化を図ってきた。
成功のカギは、優秀人材の「本社採用」、「権限の委譲」、「留学生人材の起用」、「教育」の4つにある。今でも、このような日系企業は珍しい存在である。
「本社採用」だけを武器にしても、優秀な人材は留まらない。日系企業にとっては、待遇の一本化に加え、権限の委譲(重要な仕事を任せる)、大胆な抜擢、といった人の発想力・創造力を引き出せるような新たな人的資源管理システムの確立が急務である。

米国企業のクアルコム社の昇進スピードから中国における欧米企業の人材戦略を一瞥してみよう。
クアルコム社はCDMA基準を世界に普及させるために、研究開発をコア・コンピタンスにし、ライセンス授与の形で、設備と端末の製造を外部と提携する戦略を持っている。
当社はこのビジネスモデルにコスト競争力と品種の拡大で一翼を期待できる中国の通信設備メーカーと組むことを視野に入れ、2001年2月に米国に留学と弁護士経験のある中国人を本社のシニアバイスプレジデントとして起用し中国に派遣した。
彼一人の働きで、中国でCDMA2000のライセンスを導入し、華為、中興といった大手通信設備メーカーを取り込むことに成功した。
さらに中国メーカーを通じて、150カ国に本社の基準を採択してもらうことができた。中国からの売上も、クアルコム社全体の2割以上を占めるようになった。

クアルコム社は彼の業績に対して、惜しまず評価もした。

2003年にクアルコム中国のトップ(董事長)を兼任。
2006年8月、クアルコム中国の董事長からアジア太平洋地域統括事業の董事長(兼務)に昇格。
2008年1月に、クアルコム本社のエグゼクティブ・バイス・プレジデントに昇進。
2011年1月に、クアルコムの「グローバル・ビジネス・オペレーション」のプレジデント(兼務)に抜擢。

海外留学経験者を起用することで、本社ビジネスモデルの理解から、現地とのコミュニケーション、会社のイメージ作り、業務執行に当たってのアプローチ方法に至るまで、貴重な役割を果たせることがわかる。

次回は、現地人の活用について考える。

(産業能率大学 経営学部 教授 グローバルマネジメント研究所 所員 欧陽 菲)

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