リーダーシップとは?現代におけるリーダーシップの本質とその役割
環境変化の激しさが増す現代社会において、リーダーシップは、組織の成功のために不可欠な能力です。
この記事では、リーダーシップの定義や特徴、マネジメントとの違いから時代によって変化してきたリーダーシップ理論の代表例など、リーダーシップという概念を取り巻く基本知識を解説します。
筆者プロフィール
産業能率大学総合研究所 マーケティング部 マーケティングセンター長
石崎 晴義
(Ishizaki Haruyoshi)
リーダーシップとは
リーダーシップとは、「他者や集団を導く能力」を指します。
1930年代ごろの初期の研究では、リーダーシップはリーダーとしての資質をもった人のみが発揮できる能力と捉えられていましたが、今日では訓練によって誰しもが身につけられる可能性があるものとして考えられています。
リーダーシップは数多くの研究が行われている学問領域であり、統一された定義はありません。とはいえ、一般的には英語の「Lead」が「導く」や「連れていく」、「leader」が「指導者」という意味を持つように、影響力を持って他者や集団を導く能力であると位置づけられています。
リーダーシップは、政治的リーダー、企業における経営者・管理職など組織を率いる人材にとって重要な能力であることは言うまでもありません。しかし、実はリーダーシップとは、階層などの立場に関わらず、あらゆるビジネスパーソンに求められる能力であることをご存じでしょうか。
私たちは、日常的にさまざまな他者と関わり合いながらビジネスを進めています。他者に自分の意思を伝え、理解や合意を得て円滑に誘導することは、所属する組織や立場・役割に関わらず必要となります。その時に求められるのがリーダーシップのスキルなのです。
リーダーシップの役割
リーダーシップの役割は多岐にわたります。以下に4つの代表例をご紹介します。
① 組織目標の達成と集団維持
日本を代表するリーダーシップ研究者である三隅二不二のPM理論では、リーダーシップはパフォーマンス(目標達成能力)とメンテナンス(集団維持能力)という2つの機能で構成されます。
目標達成能力は目標設定や行動計画立案、メンバーに指示を守らせることなどであり、集団維持能力は、メンバー間の人間関係を良好に保ち集団のまとまりを維持する能力を指します。
② 変革の推進
リーダーシップ研究の権威であるジョン・P・コッターは、優れたリーダーシップの基本的機能に、「変革を推進していくこと」を挙げました。
そのためにリーダーは進むべき方向であるビジョンを描き、ビジョンを達成するための戦略を策定します。そして関係者に、ビジョンと戦略を示して意欲を高揚させ、障害を乗り越えるために勇気づけ、個々人に配慮を示しながら目標達成のための指導やサポートをしていきます。
③ 他者との信頼の構築
リーダーシップの主要な研究の一つに、リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)理論があります。LMXとは、報酬と対価の交換、いわゆるギブアンドテイクの関係を心理的側面にまで拡げたリーダーシップです。
リーダーはメンバーの仕事を助け、心理的なサポートを行い、成果を適切に評価することで、メンバーからも信頼や支持を得られるというものです。両者に望ましい関係が構築されれば、互いに尊重し合い、相互支援や連帯感が高まります。
④ 組織の生産性や創造性の向上
リーダーシップは、組織の生産性を高めることや、イノベーションを促進する目的にも用いられます。
リーダーシップをメンバー間で共有・分散するシェアドリーダーシップは効率的な組織運営を促進します。多様な背景や価値観を持つ個人が共生するダイバーシティ環境では、他者を受容しオープンなコミュニケーションを行うインクルーシブ(包摂)リーダーシップが組織の創造性を促進します。
リーダーシップとマネジメントの違い
英語のLeadは「導く」という意味を持つことに対して、英語のmanageは「経営する、管理する、うまくやる」といった意味を持っています。つまり、目的を達成するために、という点は共通ですが、「他者や集団を導く」ことがリーダーシップであり、「経営資源を有効活用すること」がマネジメントであるという違いがあります。
マネジメントは、目的達成のために計画を立案し、組織を構築し、人・物・金といった経営資源を適切に配置し、活動を統制しながら達成するという意味を持ちます。そのため比較的、短期視点で用いられることが多いことに対して、リーダーシップは、将来進むべきビジョンを提示し、ビジョンの達成に向けて他者を動機づけるという、中長期視点で用いられることが多いという特徴があります。
リーダーシップとマネジメントの違いについて、1970年代に政治学者ジェームズ・M・バーンズにより提唱され、今日においてもリーダーシップの主要テーマとして研究が続けられている、変革型リーダーシップが重要な示唆を与えてくれます。
変革型リーダーシップが誕生した1970年代から80年代ごろは、日本が世界経済を席巻し、アメリカは苦境に立たされていました。厳しい環境に適応して生存し、競争に勝たなければならない当時のアメリカ企業には、前年比数%の成長というような、成果を計画通りの方法で達成するマネジメントよりも、事業を大きく変革するためのリーダーシップが求められたのです。
このような視点はむしろ現代の日本企業に重要な示唆を与えてくれます。長期に渡り経済や賃金の成長が伸び悩んでいる今日、イノベーションや構造改革といった変革が求められる日本企業にこそ、リーダーシップが求められるといえるでしょう。
ただし、リーダーシップとマネジメントは組織の成功における両輪であり、いずれも欠かせない能力です。リーダーとしてビジョンや戦略を達成するためは、具体的な計画や達成上の問題解決などのマネジメントが求められます。マネジャーには、タスク管理や対人的な調整などの日々のマネジメントに加えて、進むべき方向や戦略を示すリーダーシップが求められます。すなわち良きリーダーは良きマネジャーでもあるべきであり、良きマネジャーは良きリーダーでもあることが求められます。
組織におけるリーダーシップの重要性
リーダーシップは組織が成功し、存続するために不可欠な能力と考えられます。
ヘイコンサルティンググループの調査※によると、組織風土と業績の間には約3割の相関があり、組織風土は業績に影響を及ぼす数多くの要因の中で最も相関が高く、そして組織風土の5~7割は、リーダーシップスタイルに起因するとされています。
つまり、業績に重要な影響を及ぼす組織風土は、リーダーが発揮するリーダーシップスタイルによってほぼ決まるということになります。
これを組織に置き換えて考えてみましょう。例えば、ある企業のトップに、売上志向の強い積極果敢な人物が着任したとします。トップは自身の意向を組織内に浸透するため、自身の意向に沿って行動できる売上重視の人物を要職に任用します。要職に任じられた人物は、トップの意向実現のため、同じく売上拡大に積極的な姿勢を持つ人物を管理職に任用します。任じられた管理職は、上位の意向を実現するために、部下に売上を求め、積極的に行動して実績を上げた部下を高く評価します。こうして、組織全体が売上拡大を志向する風土に変化していきます。組織風土は業績を予測する重要な因子であるため、その他の要因の影響を排除して考えれば、その企業の売上は増加していくと考えられます。一方で積極果敢な売上重視の風土が行き過ぎて至上主義にまでなってしまうと、不正を冒しても売ろうとするコンプライアンス違反が生じるかもしれません。このように、リーダーシップは組織の未来を左右する重要な要素と考えられます。
また、現代においてリーダーシップは以下の3つの背景から、より一層重要視されています。
- 人材の多様化
社会の成熟により、個人の価値観や権利が尊重されるようになりました。職場では人材の多様化が進み、性別、年代、国籍など異なる多様な人材が協働するといった状況も珍しくありません。背景や価値観の異なる人々と信頼関係を構築し、それぞれの個性を活かしながら組織を束ね、目指すべき方向に人員を導くリーダーシップは、以前にも増して重要となっています。 - 環境変化への適応
気候変動、コロナ禍、国際紛争等の社会・経済の変化、技術革新など、企業を取り巻く社会・経済・技術的環境は劇的に変化しています。これらの環境変化によって既存のビジネスモデルが危機に瀕する、競争環境が変化する、といったこともしばしば生じています。このような環境変化に適応して生存し、さらに持続的に成長するために、事業や組織を変革に導くリーダーシップが大きな役割を担っています。 - コンプライアンスの重視
企業には株主、従業員といったステークホルダーの尊重や社会との共生が求められます。社会が成熟した現代では、企業・組織のコンプライアンスは一層重視されるようになっています。組織を率いるリーダーには高い倫理観を持ち、メンバーにも浸透させていくリーダーシップが必要不可欠です。
- DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー.(2012年11月12日).次世代経営者に求められる資質とは リーダーシップのスタイルが組織の風土を決める
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/1459[アクセス日: 2024年9月9日]
さまざまなリーダーシップのスタイル
リーダーシップにはさまざまなスタイルがあり、組織風土や状況に適した効果的なスタイルを選択していく必要があります。効果的なリーダーシップスタイルは、組織の経営理念や行動指針、企業文化などの組織要因や、リーダー本人の立場、メンバーの価値観や能力といった個人要因など、複合的な要素により変化していきます。
以下に時代と共に変化してきたリーダーシップの代表的なスタイルをご紹介します。
2000年以前より研究されてきたリーダーシップ
① 「行動論」に基づくリーダーシップ
訓練によって誰しもが身につけられる可能性があるという考え方に立脚したリーダーシップ理論が、行動論です。代表的な理論にオハイオ研究、PM理論、マネジリアルグリッドがあります。
これら3つの理論はリーダーシップの行動特性を「仕事」と「人間」という2つの軸で捉え、2つの軸がそれぞれ高いリーダーシップがビジネスに最も有効であるという共通点があります。
シンプルでわかりやすいため広く受け入れられている理論であり、管理者などマネジメントに携わる者が意識すべき基本的なリーダーシップといえるでしょう。
② 変革型リーダーシップ
ビジョンの共有とメンバーの鼓舞を特徴とするリーダーシップです。その名が示す通り、現状に挑戦し、変革への行動を促す際に有効なリーダーシップスタイルです。変革型リーダーシップは、信頼性の高い尺度を開発したバスとアビリオによると、理想化された影響力、知的刺激、鼓舞的動機づけ、個別の配慮の4つの要素が求められます。
変革型リーダーシップの4I‘S
理想化による影響力 Idealized Influence |
リーダーがカリスマ性を持ち、賞賛や信頼の対象となり、同一化を通して(モデルとなって)メンバーに影響を与えること |
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知的刺激 Intellectual Stimulation |
メンバーの問題認識力、問題解決力、想像力を喚起し、信念や価値観に影響を与えること |
鼓舞的動機付け Inspirational Motivation |
ビジョンを共有し、目標達成へのコミットメントを引き出すことによって、メンバーの中に内発的な動機づけを生み出すこと |
個別の配慮 Individualized Consideration |
メンバーの個人差をふまえた支援や応援、コーチング、メンタリングなどを行うこと |
具体的な行動としては次のステップを踏みます。
- ビジョンを持ち、表出し、自ら一致する行動を取る。
- 変革に向けてメンバーの信念や価値観を改めるために、問題を新しい視点で認識させ、想像することを喚起する。
- ビジョンの重要性や意義を強調し、メンバーにその達成のための内発的動機づけを行う。
- メンバーの特性や能力などの違いを踏まえながら支援やコーチングを行う。
これらのリーダーシップ行動を取ることで、メンバーは変革に向けて動機づけられていきます。
③ 交換型リーダーシップ
リーダーからの報酬と、その対価としてメンバーの行動を交換するリーダーシップを「交換型リーダーシップ」と呼びます。他者と信頼関係を構築する際に有効なWin-Winの関係を作り上げるリーダーシップです。主要な理論に、グラーエンとウルビエンが提唱したリーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)理論があります。LMXでは、リーダーとメンバーは相互に配慮と義務を負っていると考えます。リーダーは力を尽くしてメンバーを助けたり便宜を図ったりし、メンバーはその返礼としてリーダーに貢献します。初期段階では、実利に重きを置いた指示命令と対価としての報酬といったギブアンドテイクの関係ですが、良好な関係が構築されれば、次第に自発的に相互に貢献し、報いようとする行動が生じます。グラーエンとウルビエンは、初期段階では他人であった関係が、次第に知人となり、最後はパートナーに変容すると説明しています。
④ 暗黙のリーダーシップ
メンバーはリーダーの言動を観察して、リーダーシップがあるかないかを判断します。その際にメンバーは自身の持つリーダーシップ理論、すなわち「リーダーシップはこうしたものである」という暗黙のリーダーシップを判断材料とします。暗黙のリーダーシップのプロトタイプは、活動的である、動機づけできるといった普遍的に認められるスタイルがあります。しかし、「社長たるものこうあるべき、上司たるものこうあるべき」といったリーダー像は完全に同一にはならず人により違いがあるものです。またメンバーの置かれている立場や状況により、どのような行動がリーダーシップとして認知されるか異なる場合もあります。たとえば、組織が苦境にある時には、事態を打開できるビジョンを示すことのできるカリスマ性のあるリーダーシップが期待されるでしょう。一方で組織の安定期には、調和をもたらすことのできるリーダーシップが期待されるでしょう。暗黙のリーダーシップは、リーダー自らがイメージするリーダー像を押し出すのではなく、状況に適合したリーダーシップスタイルを取ることや、メンバーがイメージし、重視するリーダー像に合致するリーダーシップを取ることの必要性を教えてくれます。
⑤ インクルーシブ(包摂)リーダーシップ
ダイバーシティとの関連に着目したリーダーシップ理論の一つに、インクルーシブリーダーシップがあります。インクルーシブには、「あらゆる人が排除されず、多様な背景を持つ人々が共生し支え合う」という意味があります。多様性を受容する成熟した社会では、リーダーシップには対話や配慮型のスタイルが求められます。アイディアを聞くことや、話し合うことへのオープンさや、要望や問題について気軽に相談や議論ができるといった姿勢が求められます。デロイトの調査※によると、インクルーシブリーダーシップは、ダイバーシティ&インクルージョンへの「コミットメント」、自分の弱みをさらけだす「勇気(謙虚さ)」、偏見を排除する努力を行う「バイアス認識」、他者へのオープンな姿勢と関心を持つ「好奇心」、異文化を理解し柔軟に対応する「異文化適用能力」、気兼ねなくアイディアや課題を共有し、協働を促進する「コラボレーション」といった6つの特徴があります。
- Deloitte Insights.(2018).The diversity and inclusion revolution: Eight powerful truths.
https://www2.deloitte.com/us/en/insights/deloitte-review/issue-22/diversity-and-inclusion-at-work-eight-powerful-truths.html[アクセス日: 2024年9月9日]
2000年以降に注目された新たなリーダーシップ理論
① 戦略的リーダーシップ
経営者には、長期的利益と短期的利益の達成、企業利益の追求とステークホルダーの幸福の追求といった、さまざまな二律背反する課題への対応が求められています。このような表裏の経営課題を解決するためのリーダーシップが「戦略的リーダーシップ」です。この理論の代表的なものの一つに、「両利きのリーダーシップ」が挙げられます。この場合、リーダーには新規事業などの成長機会の「探索」の促進と、既存事業の収益性の最大化を図る「開発」の促進とを、柔軟に切り替えながら行うことが求められます。探索の促進時は、新たな方法で物事を行うことを奨励し支援します。開発の促進時は、計画を立て、進捗を管理し、達成状況のモニタリングを行います。特に経営者に求められるリーダーシップといえるでしょう。
② シェアドリーダーシップ
リーダーシップを一人が担うのではなく、リーダーとメンバー、あるいはメンバー間で共有・分散するリーダーシップです。ビジネスや組織の複雑化が進むと、一人のリーダーがすべての役割を担うことは難しくなります。リーダーの役割をメンバーが共有・分散して協働することで、組織の創造性や生産性を高めたり、メンバーの主体性や責任感を育んだりする効果が期待できます。具体例として、販売促進チームにおいて、Webマーケティング、販促ツール制作、展示会イベントの異なる分野でそれぞれ専門性を有したメンバーが各分野のリーダーとなり、役割を分担するといったことが挙げられます。また組織変革を進める際に、リーダーは変革を主導する役割を担い、アイディアや問題解決のヒントをもらう参謀役や、メンバー間の調整役としてサブリーダーを任命する、といったこともシェアドリーダーシップの一つの類型です。
③ 倫理的リーダーシップ
リーダーシップは、使い方次第で社会や他者を顧みない利己的・虐待的な形態としても発揮されてしまいます。独裁的な経営や、パワーハラスメント、組織的不正などの事例は枚挙にいとまがありません。このようなダークサイドへの危惧から、リーダーシップの倫理的側面が注目され、近年重視されるようになったのが倫理的リーダーシップです。代表的な理論の一つに、ロバート・K・グリーンリーフが提唱した「サーバントリーダーシップ」が挙げられます。このスタイルでは、リーダーには第一にメンバーに対する奉仕者としての姿勢が求められます。メンバーの自主性を尊重し、考えを傾聴し、目標達成や問題解決に必要な助言や支援を提供します。サーバントリーダーシップは、メンバーの主体性を引き出す上でも効果的なリーダーシップです。
まとめ
リーダーシップを身につけ、他者や集団を効果的に導くことができるようになると、人間関係の構築が円滑になり、チームワークを高めることができます。ただし、あらゆる状況に有効な万能のリーダーシップはないため、状況に応じて柔軟に使い分けていくようにしましょう。
またリーダーシップは能力でありスキルです。はじめは難しいと感じても、繰り返し使い続けることで、鍛えられ、やがて使いこなすことができるようになるでしょう。
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