ロジカルシンキングとは?~本来あるべき"ロジカルシンキング教育"のすすめ~

ロジカルシンキングとは?~本来あるべき“ロジカルシンキング教育”のすすめ~

日本の多くの企業で導入されていると思われる「ロジカルシンキング(論理的思考)研修」。皆さんの会社でも、すでに実施されているかもしれません。

では、その研修の成果はいかがでしょうか。このように伺うと意外な答えを耳にすることがよくあります。「研修でロジック・ツリーを習ったのですが、その後、実際に仕事で使う機会がなくて、全く上達してないと思います。」というような答えです。

今回は、一般的な「ロジカルシンキング研修」であまり触れられることのなかった観点を紹介し、“人に話を伝えることが苦手”と言われる若手社員への効果的な教育コンテンツの参考にしていただこうと思います。

筆者プロフィール

榊原 康成 (Sakakibara Yasunari)

学校法人産業能率大学 経営管理研究所 主幹研究員

榊原 康成
(Sakakibara Yasunari)

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大手外資系IT企業にてキャリアをスタート。その後、組織・人事系コンサルティング・ファームにてコンサルティング活動に従事し、2003年に学校法人産業能率大学に入職。
以降、200以上の企業や組織の人材育成をサポートし、ロジカルシンキング関連の研修でも多数の実績を持つ。

ロジカルシンキング(論理的思考)とは何か

論理とは、“話の筋道”です。つまり、ロジカルシンキング(論理的思考)とは、明確な根拠(事実・判断)に基づいて、話の筋道が通るように物事を考えて結論(最適解)を導く方法です。

では、私たちが日常、論理的思考を一番よく使うのはどのような場面でしょうか。もうおわかりだと思いますが、それは“人に話を伝える”場面であり、日常のコミュニケーションの中で最も求められているものです。

30年ほど前、日本にロジカルシンキングという言葉が書籍で紹介されて以来、「ロジカルシンキング=問題解決技法」という偏った認識が定着してしまったように感じます。これはこうした書籍の著者がコンサルタントであり、自らの仕事が顧客企業の問題解決だったことが一因でしょう。その結果、一般の企業で働く社員の日常業務から少し飛躍したロジカルシンキングの活用法を紹介してしまったのだと考えられます。

論理的思考力を高めるためには、日常業務でほとんど使わないロジック・ツリーのWhy⇒Why⇒Whyなどを教えるよりも、日常のコミュニケーション場面で活用させた方が、実際にははるかに効果的なのです。

ロジカルシンキング(論理的思考)の代表的な手法

ロジカルシンキングというと、判で押したように紹介される手法がロジック・ツリーMECE(モレなし、ダブリなし:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)です。

ロジック・ツリー

ロジック・ツリーとは、簡単に言うと構造分解図です。つまり、全体とそれを構成する複数の要素と小要素をツリー状に分解したものです。

ロジック・ツリー

このロジック・ツリーを使いこなす上で、押さえるべきポイントは“縦の関係”“横の関係”です。

縦の関係は、“大きさ(ディメンション)の違い”です。ツリーの上へ行くほど塊は大きくなり、下へ行くほど塊は小さくなって上の塊の一部となります。

ビジネスでロジック・ツリーを使う場合、扱う対象は主に情報です。情報は通常言葉で成り立っているので、大きさの違いとは、その情報(言葉)が意味している範囲の違いになります。

一方、横の関係は、モレなくダブリなく(MECEに)情報が分けられているということなので、これは情報(言葉)の意味の“性質(クライテリア)の違い”と言えます。

ロジック・ツリーで人の話の内容を構造化する場合、全体を総括した情報は“結論”であり、それを支える情報が“根拠(小根拠)”となります。

人の話のロジック・ツリー

MECE

また、MECEとは、構成している要素(根拠)をモレなく、ダブリなく分けることですが、MECEになる分け方にはいくつかの類型(パターン)があります。これをきちんと理解して使いこなせるようになると、後述するように“人に話を伝える”場面で非常に役に立ちます。

人の話のロジック・ツリー

ロジカルシンキング(論理的思考)と話し方の関係

それではここで、人に話を伝えることが苦手な人と、人にわかりやすく伝えられる人の違いについて、3つのポイントで見ていきましょう。

1)話の筋(論理)が理解できない話し方

私たちは人の話を聞いて「話の筋が通ってない」ということがあります。では、話の筋とは何でしょうか。話は、いくつかの言葉のつながりで成り立っています。そして1つ1つの言葉には、基本的に意味があります。つまり、話の筋とは、話全体を構成する“一連の言葉の意味のつながり”なのです。ですから、「筋が通ってない」という時は、話を構成する言葉の意味が部分的につながらない(つなげられない)状態になっている、ということです。「話が飛ぶ」とか「話が脱線する」という表現は、まさに筋が通ってない(論理的でない)ことを意味しており、筋が通らない話は理解できないのです。

それでは、具体例で確認してみましょう。以下は、製造現場で働く若手社員が、先輩に話しかけた内容です。

「先輩、きのうA装置の操作方法を教えてもらった時に、●●の点や△△の点の話があって、それで次に✕✕の話があったんですけど、その辺がちょっとよくわからなくて。」

少し読み取りづらい話し方です。この話し方の最大の問題点は何でしょうか。それは、“言葉遣い”です。曖昧な言葉や抽象度の高い言葉は、その意味する範囲が広いので、話(文)の中にそうした言葉が入っていると、聞き手(読み手)はその言葉の意味を正確に理解できなくなります。その結果、本来話し手が伝えたかった話の意味(筋)とは異なる解釈を聞き手(読み手)にさせてしまうのです。

具体的には、“その辺”という言葉遣いが問題です。研修でこの話をわかりやすく改善する演習を実施すると、“その辺”という言葉の解釈の違いによって、いくつかの異なる改善文が出来上がります。

1番人気(全体の約7割)は、“その辺”という言葉がある1点を指したものであると解釈した直し方です。その場合、次のように改善します。

「先輩、昨日A装置の操作方法を教えていただいた時の✕✕の話がよくわからなかったので、もう一度教えてください。」

この時、「●●の点や△△の点の話があって」の部分は、不要な情報ということになります。

一方で、“その辺”という言葉は、本来、ある程度の範囲(ゾーン)を意図した言葉であるため、「●●や△△の話があって次に✕✕の話があった」という一連の部分を指したものであると解釈する人もいます。その場合は、次のような改善文になります。

「先輩、昨日A装置を操作する際に気をつけるべき点として、●●や△△に加えて✕✕の話がありましたが、この3つの関係性をもう一度詳しく教えてください。」

仮に、この人がこちらの内容を伝えたかったのであれば、“その辺”ではなく、最初から“3つの関係性”という言葉を遣えば確実に理解してもらえたはずです。

コミュニケーションにおいて、“言葉遣い”は生命線です。一般的に、わかりやすい話し方をする人は、最適な言葉を連ねて話を構成するので、誰が聞いても同じ理解になります。(下図左)
一方、話がわかりにくい人は、言葉遣いが拙いので、話がなかなか相手に伝わらなかったり、相手の聞き違い(筋の取り違い)を誘ったりするのです。(下図右)

筋の取りやすい話のイメージvs筋の取りにくい話のイメージ

数年前、ロジカル・ライティング研修の中で、受講者に「言葉遣いに気をつけてください」と言うと、ある方から「言葉なんてどうでもいいじゃないですか。大体わかればいいんですよ。」と反論されたことがあります。こうした考えの方は時々見られますが、これは非常に残念なことです。人は、頭の中で言葉を使って考えています。言葉は思考の源泉です。ですから、言葉を日頃から曖昧に使っている人というのは、思考も曖昧になり、間違いなく物事を緻密に考える力も弱いと言えます。つまり、論理的思考力が低いと言わざるを得ないのです。

2)ツリーの“縦の情報”が整理されていない話し方

次の話し方はどうでしょうか。顧客に自社のサービスをアピールしている話です。

「我が社のモットーは、お客様への柔軟なサービスと個別のお問合せに対する迅速な対応です。」

この話し方に全く違和感を覚えない人は、意外と多くいます。この話し方の構造は「我が社のモットーはAとBの2つです。」となっていますが、その2つの情報の意味の大きさ(範囲)を比較すると、2つが並列(MECE)の関係(下図左)ではなく、被っている(上下の)関係(下図右)だとわかります。

従って、上図右の正しい構造に則って修正すると、次の話し方になります。

「我が社のモットーはお客様への柔軟なサービスです。中でも個別のお問合せに対する迅速な対応を重視しています。」

これが論理的と言えるでしょう。

次の事例は、どうでしょうか。

「各社員の個性や能力を見極め、それに適合した職場や仕事を見つけられる様な“マッチング機能”を設けることが、今後の人材マネジメントに求められている。」

これは全く問題なく読める文章だと思います。ただ、この文章においても、“縦の関係”を意識して情報を分けられると、以下のようにもう少しわかりやすく表現することができます。

このようにロジック・ツリーの縦の関係では、上の階層の情報は総括したメッセージ(見出し)となり、下の情報はその具体的な説明文になるのです。

ロジック・ツリーというと、どうしても“横の関係”(MECE)が注目されがちですが、人にわかりやすく話をする時には、この“縦の関係”にも十分ご留意ください。

3)ツリーの“横の情報”が整理されていない話し方

あるホテルで、顧客から以下のような複数のクレームが寄せられました。

アンケートに寄せられたクレーム情報

この情報を上司に報告する場合、どのような話し方をしますか。

「お客様からのクレームとして、シャワーのお湯が安定しないとか、Web予約の入力項目が多過ぎるとか、チェックイン時の説明が長い、Wi-Fiがつながりにくいなどが寄せられています。」

さすがに、このような説明をすることはないでしょう。

では、どのように話せばいいでしょうか。ロジック・ツリーとMECEで情報の構造化を図れば、わかりやすく話すことができます。つまり、6つの情報の意味を正確に読み取って、どのような性質の違いで分ければよいかを考えます。

例えば、以下のようなツリー構造が考えられるでしょう。

このような構造化が出来れば、次のような説明が出来るでしょう。

「今回のクレームは、大きく2つの種類に分けられます。1つはホテルの設備に対するクレームで、もう1つがスタッフに対するクレームです。設備に対するクレームを具体的にいうと、1.2.3.4.の点が指摘され、スタッフに対するクレームとしては、5.6.の点が指摘されました。」

このツリーの場合、2列目の情報の分け方は、“MECEの類型”で言うと“ハード”(設備)と“ソフト”(スタッフ)の“対象概念”です。

また、人によっては、以下のように別のパターン(MECEの類型)を用いて整理するかもしれません。

この場合の2列目の分け方(MECEの類型)は、“流れ、手順”(時系列)になっています。

ビジネスコミュニケーションにおいて最も求められていることは、“わかりやすさ”です。では、“わかりやすい”とは何でしょうか。“わかりやすい”という言葉の語源は、“分けやすい”です。つまり、私たちは、情報がきちんと整理され、分けやすい状態で説明された時に、“わかりやすい”と感じるのです。情報をロジック・ツリーで縦横に整理する力こそが、コミュニケーションを“わかりやすく”する力なのです。

ロジカルシンキング(論理的思考)のメリットとデメリット

心理学者のJ・ギルフォードによると、人の思考は、“拡散”“収束”に大別されます。ロジカルシンキング(論理的思考)のメリットとデメリットは、この2つの思考で説明すると理解しやすいと思います。

収束的思考(集中的思考)とは、物事を一定の秩序や決まりに従って、正しく結び付けたり、きちんと整理整頓したりして1つの最適解を導き出そうとする思考のことです。つまり、話の筋が通るように文章(考え)を構成したり、様々な情報をロジック・ツリーの構造で正確に整理・分析したりする力です。ロジカルシンキング(論理的思考)は収束的思考の代表であり、こうした力がメリットと言えます。

一方、拡散的思考(発散的思考)とは、既成概念にとらわれず、自由奔放に思いつくまま様々な種類の意見やアイデアを出そうとする思考のことです。一般的に「発想が柔軟だ」「頭が柔らかい」などと言われる人は、拡散的思考が発達していると考えられます。ロジカルシンキング(論理的思考)を強く使う人は、時に「頭が固い」「理屈っぽくて融通が利かない」などと言われがちです。新しい発想(創造性)が求められる局面では、その力はデメリットになり得るでしょう。

メリット デメリット
  • 話の筋が通るように文章(考え)を構成できる
  • 様々な情報をロジック・ツリーの構造で正確に整理・分析できる。
  • 既成概念にとらわれ、新しい発想(創造性)が乏しくなる危険性がある。

拡散的思考と収束的思考の2つは、相互補完の関係であり、いわば思考の“縦糸”と“横糸”です。どちらが重要かというよりも、この2つをバランスよく駆使することが大切です。ロジカルシンキング(論理的思考)は万能ではないので、組織の人材開発においては、それを補完する拡散的思考も鍛えていく必要があります。

産業能率大学総合研究所では、この拡散的思考のことを“複眼的思考”と称して、トレーニング研修を実施しています。具体的には、視点を変え、視野を広げて、様々な観点から多様な意味づけや解釈、また論理を構築するスキルです。これについては、次の機会にご説明したいと思います。

まとめ(総括)

ロジカルシンキング(論理的思考)を鍛える最も効果的な方法は、日常のコミュニケーションを論理的にすることです。具体的には、1つ1つの“言葉遣い”の精度を上げて、自分が伝えたい情報を常に“結論”と“根拠”の論理構造で正確に描くことです。このトレーニングを日々反復して実践することで、論理的思考力は飛躍的に向上します。

人を育てるのは職場です。コミュニケーションとは、職場の文化そのものです。もし、論理的思考が苦手な社員が多いのであれば、職場のコミュニケーションの質に問題があるかもしれません。一度、皆さんの職場のコミュニケーション・スタイルをチェックしてみてください。

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