反転学習とは?企業研修に適用するメリットから注意点までを徹底解説

新入社員研修の重要性と成功のための秘訣

働く人の多様化、学習テクノロジーの発達、人的資本経営への注目…激しく変化する社会の中で、企業がより効果的に人材育成を進めていくためには、従来の研修形態に加え、新しい方法を模索していく必要があります。
本記事では、近年注目を集めている「反転学習」について解説し、企業や組織における今後の研修実施のあり方を考えていくためのヒントを提供します。

筆者プロフィール

森 格 (Mori Kaku)

学校法人産業能率大学
経営管理研究所 研修プログラム開発センター長

森 格 (Mori Kaku)

企業内研修の普及、企業のオリジナル研修や学習ツールの開発、教育体系構築支援、組織開発支援等に従事したのちに現職。オンラインツールやICTの活用など、より深く実践的な学びを模索しながら企業研修プログラムの開発に従事している。

反転学習とは?

反転学習は「e-Learning等の個別学習で基本的な知識を学び、集合研修の場では応用演習や相互コメントなどのグループワーク中心に学ぶ」という、個別学習と集合学習を効果的に組み合わせた学習形態です。
これは、従来の「教室に集まって知識を学び、事後に個別の宿題で応用・実践の課題に取り組む」という学習(研修)の形を反転させた学び方です。
個別学習では一人一人が自分のペースで学ぶことができ、集合学習では人が集まった時ならではの学び合いに重点を置いて学びを深めていくため、それぞれの学び方の良さを組み合わせた学びを実現することができます。

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このような学び方は以前から存在していましたが、2000年代以降の動画教材によるe-Learningや学習プラットフォーム等のテクノロジーの発達によってより効果的に実施できるようになってきました。さらに、2010年代前半頃から学校教育の現場で、生徒一人一人の個別最適な学びを実現する「反転授業」として広く活用が進み、現在は政府によるGIGAスクール構想や教育DX推進の動きも伴って多くの実施事例が挙げられています。
そして近年、ビジネスパーソンの人材や学びの多様化が進んだことで、反転学習を用いた研修形態は、社会人教育の現場でも注目を集めています。

企業研修への適用

ここでは、管理職の方を対象に「マネジメントの基本を学ぶ」研修を行うとして、実際に反転学習プログラムで実施する場合の流れの例をご紹介します。
マネジメントの基本を学ぶというテーマを集合研修で実施すると2日間のプログラムになることが多いですが、反転学習で実施する場合は、個別学習4~5時間程度(学習期間の目安1か月程度)に集合学習1日間で実施する形になります。

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まず、個別学習ではマネジメントの基本について、学習プラットフォーム上で動画教材をベースに一つ一つ学んでいきます。動画学習に加えて、確認テストで知識の定着を図ったり、自分の意見や感想を投稿し他者の投稿も見ることで頭の整理をしたり、といった能動的な学びも進めていきます。さらに、ワークブックを使ってマネジメント行動の自己分析や自職場のマネジメント上の課題の整理を行っていきます。

そして、集合学習では個別学習で疑問に感じたことの確認、各自がワークブックにまとめてきた内容の共有や相互アドバイス、人材育成ケースのグループ討議、など、個別学習をベースとした相互学習で学びを深めていきます。
「マネジメントの基本を学ぶ」というテーマは、基本的な知識を得ることも重要ですが、それを自分自身の役割意識につなげてしっかり職場課題に落とし込んでいくことがさらに重要です。個別学習と集合学習にそれぞれ取り組みながら、ある程度の期間をかけて役割意識を醸成し、職場課題を整理し、ヒントを得て、実際の行動に落とし込んでいくことができます。

このように、反転学習プログラムでは段階的に学びを深めていくことが可能になるのです。

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反転学習のメリット

反転学習を企業研修に適用することで、次の4つのメリットが期待できます。

①多様・多忙な時代において受講者への配慮と高い学習効果の両立が実現できる

近年の企業の研修現場では、高い研修効果を求められる一方で、受講者に長時間一斉に集まってもらうことが難しくなっているのではないでしょうか。これは受講者の学習意欲・集中力にも影響があり、人材育成担当者の悩みどころでしょう。

反転学習は一定期間の個別学習と最小限の集合学習を組み合わせる効率的な設計のため、様々な受講者が参加しやすいプログラムです。また、個別学習を受講者各自のタイミングやペースで学ぶことができ、集合学習で集まる時間を学び合いに注力していくため、受講者は効率的に学べていると感じられます。これは受講者の学習意欲に良い影響を与え、結果的に研修の効果性が高まります。

②アウトプットの機会が増えて一人一人の学びの質が高まる

研修を企画する際に、受講者ごとの基本知識のバラつきに悩んだことはありませんか?

反転学習では、全員が個別学習で基本知識を学び、確認テストや課題に取り組みます。一人一人が必ずアウトプットする機会があるため、クラス全体の理解が進みます。また、全員の理解が進んだ状態になったうえで集合学習のグループワークを行うので、一人一人の発言が積極的になりグループワークも活性化します。結果として、一人一人の学びの質が高まるのです。

③集合学習における話し合いの質が高まることで、より深い学習が可能になる

個別学習で一通り学んだうえで頭を整理して集まるため、集合学習の場で受講者の質問や相互コメントの質が高まります。

「個別学習の中で〇〇のポイントが理解しきれなかった」「こういうときはどう考えればいいのか?」といった質問が出たり、受講者同士の相互コメントの中でも「私は〇〇の観点で考えたがあなたはどうか」といったものがよく出たりするようになります。また、講師の側からも受講者の理解状況や関心に応じて補足的な解説や実践的なアドバイス等が可能になり、全体として学びが深まっていきます。

④自律的・能動的な学びを強化(または促進)していく機会になる

反転学習は通常の集合研修と比べて能動性の高い学習形態です。個別学習においては一人一人が学習スケジュールやリズムを調整しながら自分なりのアウトプットを行い、集合学習ではグループワーク中心で自分の意見を出したり他者へのコメントを行ったりする機会が多くなっており、個別学習・集合学習ともに能動的に学びを進める設計になっています。

このようなプログラムを実施していくことは、学びの主体性が求められる時代に社員の自律的・能動的な学びを強化していく機会になるでしょう。

反転学習を実施する上での注意点

4つのメリットを踏まえて、ここでは反転学習の実施における3つの注意点と対策のヒントをご紹介します。

①単にe-Learnigと集合研修を組み合わせればいい、というわけではない

反転学習プログラムは、一見すると単にe-Learningと集合研修を組み合わせているだけのように見えますが、うまく設計しないとかえって受講者の混乱や意欲の低下を招く場合がありますので注意が必要です。
個別学習と集合学習のつながりをうまく設計できないと、受講者から「せっかく個別学習に取り組んだけど、集合学習とはあまり関係なかった」「何かたくさん学んだけど、何をやっていたのかよくわからなくなってしまった」といった声が出てしまう可能性があります。

そのため、受講者が研修の全体像やゴールを意識しながら一つ一つの学びを進め、それらが個別学習から集合学習にかけて「基礎のインプット」⇒「実践への課題感の整理」⇒「気づき・学びの広がり」へとつながっていくように演習や問いを設計し、学びのストーリーを作っていくことが大切です。
合わせて、講師の関わり方も重要になってきます。個別学習や集合学習での学びの状況を見ながら理解の確認やアドバイス、追加の問いなどを提供していくことで、プログラム全体のつながりを強め、学びの効果を高めていきます。

  • あえてつながりを作らない設計方法もありますが、その場合は受講者に高い能動性が求められるので注意が必要です。

②学習意欲が高くない受講者にも配慮する

反転学習は、本来とても能動的な学習方法でありますが、慣れていない受講者にとっては最初から能動的に学ぶことが難しいものです。特にe-Learningのような個別学習に慣れていない受講者、集合研修の事前課題といえば前日にさっと取り組むものだと思っている受講者など、受講意欲が高くない受講者に対しても個別学習にしっかり取り組んでもらえるように配慮が必要です。
そのためには、いくつかポイントがあります。

⑴研修のねらい・ゴール・全体像をしっかり明示すること

それぞれの学習をどういう位置づけで行うのか、ということを認識できると比較的迷子にならずに学習を進めていくことができます。研修開始時に、しっかり全体像を伝えていくことが大切です。

⑵個別学習を学びやすく作ること

分かりやすい動画をマイクロラーニングで設計したり、ストーリー立てにしてつながりをつけたりするなど、それほど学習意欲が高くなくても進められるようにすることが大切です。進めていく中で学習意欲は高まっていきますので、徐々に演習などを入れ込んで能動性を高めていきます。

⑶他の受講者を意識させること

他者の存在は、受講者の学習意欲に大きく影響します。他の人が学習を進めていると思うと、励まされたり、いい意味でプレッシャーを感じたりするものです。個別学習の早い段階で各自の意見を投稿するなど、他者を意識させる機会を用意することが効果的です。

⑷最初のアクションを早めにとってもらうように働きかけること

早い段階で少しでも学習を進めてもらうと、進め方のペースが掴めるものです。そうすると比較的計画性をもって学習できるようになります。この最初のアクションをとってもらうように、受講者への案内方法やリマインドのタイミングなどを工夫していくことが大切です。

③研修事務局の負担に配慮する

反転学習における研修事務局の役割・存在意義は、従来の集合研修より大きくなります。特に、以下のような形で受講者への働きかけを行うことが多くなります。

  • 受講開始時に研修の全体像や始め方を伝える
  • 個別学習の開始および進捗のリマインドを行う(複数回)
  • 集合学習に向けたリマインドを行う
  • 集合学習後の課題のリマインドを行う

受講者への関わりが増えると、事務局の動き方が受講者の学習意欲に大きく影響します。そのため、事務局担当者自身が研修の全体像をしっかり把握して伝えること、適切なタイミングでの働きかけることが大切になります。
事務局の役割・存在意義が大きくなる分、かかる負荷も従来の集合研修より大きくなることは避けられません。そのため、極力効率的に活動できるような工夫が必要です。例えば、リマインドのタイミングや効果的な働きかけ方などのノウハウを蓄積・共有化していくことなどが考えられます。

まとめ

様々な環境の変化によって、企業における研修のあり方も変化が必要になってきていると感じます。まずは、少しでも新しい経験を積み重ねていくことが重要であり、取り組みを重ねていくことをお勧めします。
実際に反転学習プログラムを実施した企業様では、受講者の方から「研修内容も良かったが、個別で学んで集合で深めるやり方がよかった」という声をお聞きしています。新たな研修の形を志向すると苦労を伴う場合もあるかもしれませんが、効果も実感できるものと思います。
皆様のより効果的な研修の設計・実施に、本学としても微力ながら貢献していきたいと願っています。

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