「SE人材をDX人材へ」経営戦略と人材戦略を連動させた株式会社アイネス様の取り組み事例

【リスキリング企業事例①】株式会社アイネス様「顧客のDXを推進する新規ビジネスモデル実現へ リスキリングで人材育成」  Web版インタビュー
顧客のDX化を支援すると共に、新規ビジネスモデルの構築を目指す株式会社アイネス。
社員のリスキルを進める同社が、どのように経営戦略を人材マネジメントへ連動させ、社員の自発的な行動を促しているのか。具体的な人材育成の取り組みについて、お話を伺いました。

株式会社アイネス 概要

生命保険会社の電算部門から独立し1964年に創業。地方自治体、銀行・証券、生保・損保、クレジット業界、流通業・製造業等の幅広い顧客にITコンサルティング・企画からシステム設計・開発、稼働後の運用・保守、評価までの一貫したサービスと専門性の高いソリューションを提供する。

プロフィール

  • 執行役員
    コーポレートスタッフ本部長

    鈴木 玲子 氏

    リサーチと研究開発を担うグループ会社であるアイネス総合研究所の社長兼研究所長を務めながら、コーポレートスタッフ本部長としてDX人材の育成も主導する。

  • コーポレートスタッフ本部
    人事部長

    沼崎 聡 氏

    昨年まで人材育成と研修運営を担っていた人材開発部が、2021年度から人事部と統合し1つの組織に。その人事部で部長を務め、DX人材育成にかかわる。

  • 金融・社会ソリューション本部
    業務管理部

    若林 美樹子 氏

    民間系SI事業部門で業務管理を担当する傍ら、アイネス総合研究所の研究員として全社のテクニカル人材育成の企画推進も担当する。

顧客のDXを支援するための新たな挑戦

――DX人材を育成されている背景についてお聞かせください。

2021年9月にデジタル庁が設置されるなど、現在は国を挙げてDXが推進されている中、当社でも、2021年に発表した中期経営計画において、「DX企業への変革」を掲げています。

これは、地方自治体をはじめとする当社のお客様と一緒にDXを進めていく社会的な使命があると考えているためです。当然ながら、私たち自身もDXを進めて新たなビジネスモデルを構築していく必要があります。

しかしながら、新たなスキルを習得し実務に活かせるようになるまでには時間もかかります。
まず、DXに向けたリスキルの準備段階として、2017年から貴大学にデータサイエンティスト育成研修を支援いただいております。また、2018年には、お客様とともに国の動向や新しい技術を学ぶため、総務省の方やAI・データ活用の専門家をお招きしたセミナーをスタートさせました。
現在は、リスキルのための教育施策を体系化し、DX人材の育成を加速させている段階です。

鈴木

会社の事業戦略と個人の成長ベクトルを合わせる

――経営戦略と合わせて人材戦略の策定を行っていることについて詳しくお聞かせください。

当社は、以前から会社の事業戦略と個人の成長ベクトルが合致するよう人材の役割と定義を見える化し、社員が納得してスキルアップに取り組めるしくみを構築してきました。

具体的には、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が提供するiコンピテンシディクショナリ(iCD)を活用しながら個人のスキル診断を行い、そのうえで社員一人ひとりが、「スキル開発プランニング(旧ITキャリアプラン)」を行い、上司と共有しながら効果的なスキルアップを目指す制度を導入しています。こうした継続的な人材マネジメントがベースにありましたので、DX人材の育成もスムーズに進めることができていると考えています。

鈴木
若林

スキル開発プランニングでは、社員が年に1回システム上でタスクレベルを診断し、その結果を基に今後伸ばしたいスキルを明確にしたうえで育成計画を立てます。その後、上司との面談でアドバイスをもらいながら、これからのキャリアを考え、会社と社員ひとりひとりの認識を合わせていくプロセスをとっています。

会社として必要なスキルを示して終わりではなく、会社と社員が対話を続けていくことが重要であり、それによって共に成長できるものと考えています。
社員が思い描くキャリアプランを踏まえて上司がアドバイスをする、つまり会社と社員が合意形成を図りながら寄り添い、目指すべき変革の道を歩み続けることが大切なのではないでしょうか。

沼崎

経営陣のメッセージを社員に伝える

――スキル開発プランニング以外に、DX人材の育成を進めるうえで大切だと思う点は何でしょうか。

重要なことは、会社からのメッセージが社員に伝わることだと思います。 当社では、「DXを推進し、変化しなければ生き残れない」という経営陣からのメッセージがひしひしと伝わってきます。「現状のままでは、将来的にお客様やその先に存在する多くの人々に対して十分な価値を提供できなくなるのではないか」という危機感が、現場の社員にも浸透しつつあります。

沼崎
若林

現場の社員は日々仕事に追われているのも事実ですから、「変化できなければ近い将来仕事がなくなるかもしれない」と言われても想像することが難しく、また、研修に時間を割くことへの理解も得られにくい側面があります。だからこそ、経営陣による「DX企業への変革」というメッセージは非常に重要です。実際、現場の社員の意識も変わってきていると感じています。

具体的には、研修の冒頭に「DX人材育成で期待すること」や「会社の目指す姿」など、社長や各部門からのメッセージ動画を流しています。また、それらをいつでも視聴できるように、社内報ウェブサイトにもアップしています。

鈴木

新入社員からコーポレートスタッフまで全社員にリスキリングを実施

――DX人材を育成するために、具体的にはどのような教育を実施されているのでしょうか。

若林

「リスキル」に関する育成体系は次のようになっています。職種にかかわらず全社員に、「DXの基礎知識」や「UXからDXを考えるeラーニング」を必須教育としています。

さらに今年度の新入社員研修には、貴大学のデータサイエンティスト育成プログラムのベーシック編を導入しました。UX(ユーザーエクスペリエンス)をベースにビジネスを組み立てるという研修で、個人発表も含めて計8日間のワークショップ後に、専門スキルとしてデータサイエンスの基礎を学んでもらいました。
プレゼンテーションの資料や発表のレベルが高く今後の成長がとても楽しみです。

鈴木
沼崎

このデータサイエンティスト育成プログラムは、新入社員だけではなくコーポレートスタッフ部門の社員も受講しています。
結果として、コーポレートスタッフ部門の一般職の受講者からは、自発的にデータを分析・加工し、施策へ活用するなど、自分たちの業務に役立てる動きが出てきました。
当然これは業務そのものにメリットをもたらしますが、それだけではなく、メンバーの意識を変え、自律的な行動を促したという点でも、部課長は手応えを感じていると思います。

実践的なデータサイエンティスト研修でビジネス化も視野に入れる

――本学がご提供しているデータサイエンティスト研修の概要とその効果について、お聞かせください。

若林

2017年から貴大学のデータサイエンティスト研修を導入していますが、2020年度から、新たなプログラムをスタートさせました。データハンドリングとデータ解析の基礎知識を講義と演習で学ぶベーシック編、実証実験を実施するアドバンス編になります。

アドバンス編は約半年間のプログラムで、お客様のビジネス課題を考え、実際にお客様のデータを活用した新たな価値を提案するという実証実験にチームで取り組みます。これによって、分析プロセスを体験し、データサイエンティストに必要なビジネス力、データサイエンス力、データエンジニア力を身につけます。

業務外の研修という位置づけではなく、業務の一部として下記の一連のプロセスを体験していきます。

①お客様へのヒアリングによる課題設定
②データ受領、データハンドリング、データ解析
③お客様への提案

取り組みに必要な知識やスキルについては、講師から月1回の会合や個別指導、会合外のフォローをいただきながら進めます。
昨年度のチームは、自治体の政策形成や小売店の需要予測等を実施しました。また、コロナ禍での開催となったため、講義や個別指導などはすべてオンラインで実施しました。

データサイエンス単独では、まだビジネスとして形になったものはありませんが、データ活用に関連したさまざまな提案ができるようになりつつあります。

アドバンス編ではビジネス課題を扱っているので、可能性のあるテーマについては、昨年度から継続して取り組んでいるチームもあります。ビジネス化を目指した研修という側面もありますので、1つの実証だけではなく、次の実証で角度や対象を変えて続けていくことも重要です。結果として、同じことを理解し、同じ言葉を話せる人材が増えることによって、さまざまなビジネスの芽が育つことを期待しています。

現在進めているのは、当社の強みである業務に比重をおいたデータサイエンティスト育成です。お客様と同じ立場にたった課題設定や分析が行えることで、お客様のサポートができる人材を増やしていきたいと考えています。 また、中期経営計画に据えている経営のDX化として、社内データの分析も並行して進めることを検討しています。

鈴木

――本日はありがとうございました!

(2021年9月9日オンラインにて取材)