【SANNOエグゼクティブマガジン】ウチの新入社員は「〇〇ができていない」と嘆く前に ~受け入れ側の姿勢を問う~

膨らむ新入社員への期待

「はじめまして。この度、〇〇部〇〇課に配属となりました〇〇と申します。よろしくお願いします!」

 もう間もなく新入社員を迎える時期ですね。元気よく挨拶した新入社員は、この後しっかりと職場に馴染めるでしょうか。仕事も順調に覚え、職場で活躍し続けてくれるでしょうか。
 昨今、就職市場は活況です。先日、厚生労働省から発表された調査データ(※1)でも、就職内定率は調査をスタートしてから過去最高の87.9%(12月1日時点)となったようです。採用マーケットが活況なため、欲しい人材を欲しい人数だけ確保するのに苦労している企業の話をよく耳にします。手間と時間とお金をかけて採用した新入社員ですから、早く職場に馴染んで、仕事を覚えて、長く活躍することを期待していることでしょう。
 多くの企業では、新入社員教育を計画していると思います。企業理念、経営方針、各部門・各部署の役割、ビジネスマナー、各種ビジネススキル、自社商品理解等々、知識教育をはじめとして、短期間に多くの情報を詰め込み、新入社員は満腹感を持ちながら、期待と不安を抱え、各職場に配属されていきます。
 さて、大量の知識のシャワーを浴びた新入社員は、初任配属時に職場でどのように受け入れられていますか。
「ようこそ!これからよろしくね!あー、そうそう、〇〇さんがOJTリーダー(教育係)だから。わからないことがあったら聞いてね!」
 職場の人が笑顔で迎える体制になっていますか。OJTリーダーのように世話役を選任しているでしょうか。それも世話役として適任と言える人でしょうか。簡単な挨拶を済ませ、大量の資料を渡してまずは「とりあえずこれを読んでおいて」と言ったまま1週間放置してしまっている・・・なんてことはないですよね。

新入社員が考える働くうえで重視すること、働き始めるにあたっての不安

 本学では、毎年公開セミナーに参加(3月末~4月初旬)した新入社員を対象に調査(※2)を行っています。その中には、「新入社員が働くうえで重要だと思うこと」と「働き始めるにあたって不安に思っていること」は何か、どのような傾向があるかといった内容が含まれています。まず、新入社員が働くうえで重要だと思うことは、「仕事を通じて自分自身が成長すること(61.5%)」、続いて「長期間、安心して働けること(54.1%)」となっており、自己成長と良い労働環境の項目が上位にあがっています。つぎに、働き始めるにあたって不安に思っていることは、「上司・先輩とうまくやっていけるか(66.6%)」「自分の能力で仕事をやっていけるか(66.6%)」など、職場の人間関係や仕事で能力を発揮できるかどうかという内容が上位項目になっています。
 これらの内容を踏まえると、早く職場に馴染みたい、活躍していきたい、という強い意気込みを感じます。そうなると、いかに職場に馴染ませるか、いかに成長のために自身の能力を発揮させる場面を作るかが受け入れ側として重要になってくるのではないでしょうか。

見限るのではなく見守ろう

 一方、研修の中で、OJTリーダーに選任された方々の話を聞くとこんな話が出てきます。
「ビジネスマナーも含めて、本当に基本的なことができていないんですよ」
「何回言っても変わらない、こっちだって仕事が忙しいのに勘弁してほしいですよ」
「ほんと、言われたことしかやらないんですよ、もう少し気が利かないかなって思います」

 このようなネガティブな言葉が出るのは、研修内だけですよね。職場で溢れてないですよね。元々、新入社員は仕事をがんばっていきたいという希望を持っているはずです。あまりにできないことばかりを指摘され続けてしまうと、多くの新入社員は落ち込んだり、塞ぎ込んでしまいかねません。少しずつやる気が低下してしまいます。新入社員フォロー研修や2年目の振り返り研修では、キラキラ輝いていたはずの彼・彼女らの目が、ぼーっとどこか遠くの景色を見るように、覇気を失っているケースが見られます。
 組織の慣習、ルールを知らない新入社員は、長く組織に所属する社員にとっては非常識人に見えるでしょう。最初は何もわかりません。何が正解か、どこまでやればいいのか、どうやってやるとよいのか、導入教育で得た武器を活用する前にわからないことだらけでどうしていいかわかりません。「こんなこともわからないのか」という‘こんなこと’がわからないわけです。
 そこで、‘こんなこと’と思う内容も、組織の中の特有の常識、長年所属しているからこそ身に付いた知恵ではないかとまずは疑ってみましょう。そして基本的なことでも否定的な反応を示さず、少し長い目でじっくり見守ってあげましょう。早々に「あいつはダメだ」と見限る前に、接し方を変えたり、OJTリーダーを教育したり、任せる仕事を変えたり、ペースを変えたり、いろいろ試してみてください。そして何よりも期待の言葉をかけてあげることが大事です。

学ぶ側の姿勢を問う

 ここまで、職場での新入社員の受け入れについて述べてきました。新入社員が受け入れられた段階で、第一歩として育つ準備が整うわけです。一方で、新入社員側には何が必要なのでしょうか。マネジャーやOJTリーダーに対して、部下指導の意義を理解させ、指導スキルを学ばせて、OJTの仕組みを導入したとしても、新入社員側に学ぶ姿勢がなければ、ただの過保護の教育となってしまいます。マネジャーやOJTリーダーが「何でやらなかったの?」と尋ねて、「いや、教わってないからです」なんて言い訳をされてしまっては、明確な指示がない限り適切な行動ができない「指示待ち人間」の完成へと近づいてしまいます。
 いつかは一人前となり、さらに続く後輩に対して後進育成を期待したい新入社員。優しく迎えることは大事ですが、本人が学び取る姿勢を、初期の段階で身に付けさせることが重要でしょう。社内・社外研修や通信教育などの学習の他に、上司・先輩の観察学習、そして経験から学び取ることを本人が主体的に行っていくことがいかに大切か、本人にしっかりと気づかせてあげなければなりません。
 初動が大事です。導入教育で、学ぶ側の姿勢や求められる行動を問うのもよし、現場配属後、早期段階で失敗を経験させるのもよし。いずれにしても本人が他責ではなく自責の考えを持ち、周囲から求められているものは何か、どのように行動すべきか、そのためには何が必要か、と自分で考える習慣を持たせてあげたいですね。

 さて、間もなく新入社員が入ってきます。期待・希望に満ちているはずです。楽しみですね。そして1年後、立派に成長した姿で、先輩として後輩にかかわってもらえると嬉しいですよね。早く職場に馴染んで、長く活躍してもらう、そのためには何が必要か。今後も新しい人を出迎えるイベントが続く中で、改めて検討してみてはいかがでしょうか。
(出所)
  • 1 厚生労働省,「平成30年度大学等卒業予定者の就職内定状況(12月1日現在)」