グローバル時代の仕事と働き⽅【第1回】

インターナショナルとグローバル

最初に、これから海外で活躍しようと考えている皆さんにお聞きします。

『グローバル』に似た⾔葉に『インターナショナル』があります。
この2つの⾔葉の意味は同じでしょうか。


まずは、この問いについて考えながら、『グローバル』のとらえ⽅について整理していきます。
 
ビジネスの世界では、かつて『グローバル』ではなく『インターナショナル』という⾔葉が⼀般的でした。現在は『グローバル』が⾝近な⾔葉になり、『インターナショナル』はあまり使われなくなりました。
単純に2つの⾔葉が置き換わったような気がしますが、実はこの2つは異なる概念を表した⾔葉です。

『インターナショナル』には、国(nation)と国(nation)の「間」を「相互に(inter)結ぶ・つなぐ」という意味が含まれています。インターネットが普及していない時代では、ヒト・モノ・カネ・情報の⾏き来には規制(=垣根)があり、国境をまたいで事業を展開する場合、各国の制度に従う必要がありました。
また、「垣根」があったからこそ、異なる国⺠が互いを尊重し合い、「相互につなぐ」ことに注⼒していたのです。
それが『インターナショナル』時代でした。

今⽇、国によって異なる規制がなくなり、私たちは⼼理的に国境をあまり意識することなく⾃由に仕事ができます。つまり、国境という「垣根」が取り払われ、世界中の市場が⼀体化しつつあるのです。
これが『グローバル』です。

たとえばアパレル業界では、国境を越えて最適なサプライチェーン網を築くことが当たり前になりました。それは同時に、グローバル競争が厳しくなることを意味します。
GAP(⽶国)、インディテックス(スペイン)、H&M(スウェーデン)、ファーストリテイリングが世界のさまざまな地域で競争を繰り広げています。

しかし、ここで留意すべきことは、(⼼理的な)「垣根」がなくなったのは国境だけではないということです。
企業は国境だけではなく、業界や市場、産業の「垣根」を越え、事業を展開する時代になっているのです。

グローバル化は「垣根」をなくす

では、「垣根」がなくなることで何がおきるのでしょうか。

例えば、SPA(製造⼩売業)は、製造と販売の「垣根」を取り払ったビジネスの形態です。SPAの浸透により、⼯程ごとに独⽴した分業体制(製糸業、紡績業、織物業、縫製業)ではなく、サプライチェーンという考え⽅でアパレル業界が統合・再編されました。

商品の「垣根」も同様です。インナーウェアとアウターウェアの概念は存在するものの、以前よりも「垣根」が緩やかになり、“魅せる下着”に驚くことがなくなりました。メンズとレディースの概念も同様です。

上記はアパレル業界の中で起きている「垣根」消失の現象ですが、アパレル業界と他の業界との「垣根」はどうでしょうか。

スポーツ業界、健康業界、化粧品業界もアパレル業界に参⼊し、商品を発売しています。
逆の⾒⽅をすると、アパレル業界もその周辺産業に進出し、アパレルメーカーは事業領域を拡⼤させています。業界の全体像(輪郭)と構造があいまいになり、異種格闘の様相を呈するのがグローバ化時代なのです。
垣根のあるビジネス 垣根のないビジネス
ビジネスの捉え⽅ インターナショナル グローバル
商品供給の体制 分業体制
(製糸、紡績、織物、縫製・・・)
SPA
(製造⼩売)
市場 国内中⼼ 国内と海外の両⽅
(両者を区別しない)
商品分類 細分化 結合化・融合化
魅せる下着、ビズカジ
競合 同業者 異業者
他の業界も同様です。ソニーが銀⾏業界に参⼊し、パナソニックがトイレを作り、そして、富⼠フィルムが化粧品業界に参⼊する時代です。⼩売流通(第3次産業)のイトーヨーカドーがメーカー機能(第2次産業)を獲得し、農業経営(第1次産業)を強化する、というように産業の「垣根」も失われつつあります。

このように『グローバル化』を、国境だけではなく「垣根の消失」として拡⼤解釈しますと、グローバル化は決して海外赴任者の⽅だけの問題ではありません。グローバル化は、海外赴任の有無にかかわらず、企業で働く全ての⽇本⼈にとって、⼤変重要な問題なのです。

グローバル化は新しいコミュニティーを⽣み出す

国境だけではなく産業や業界、仕事の「垣根の消失」につながるグローバル化は、極めて⾝近な問題になってきています。

⼈が組織で仕事をする以上、職務分掌に従って役割を果たす必要があります。
たとえば、企画と営業は役割を分担し、効率よく仕事を進めます。しかし、企画担当者だけに商品化を任せていると市場にマッチした商品をタイミングよく投⼊できない、逆に営業担当者だけに販売を任せていると企画の意図と異なる商品の展⽰や説明が⾏われる、などの問題状況に直⾯します。

このような場⾯では、皆さんは無意識の内に他部門の現場に赴き、彼らと⼀緒に仕事をしていると思います。こうした機会は以前より増えているのではないでしょうか。このような職場の「垣根」を越えるという観点も、ミクロレベルのグローバル化の現象と⾔えます。

しかし、本来は「垣根」があった⽅が仕事はしやすいはずです。
⾃由は制限されたとしても、企業の活動範囲が法律や制度、業界ルール、組織内の慣習などによって限定された⽅が、コミュニティー(業界、企業など)の⾝内意識が⾼まり、メンバーに⼀体感が⽣まれます。

反対に、グローバル化が進み「垣根」がなくなると、メンバーの出⼊りが多くなり、コミュニティーの⼀体感が失われます。古参のメンバーは特に不安を感じるようになります。グローバル化に抵抗しようとする業界は、「垣根」を守ることで、⼀体感を維持しようとします。つまり、「村意識」です。かつての⾃動⾞業界は、メーカーとサプライヤーが⼀体になり、海外に出て⾏きましたが、海外に⽇本の村をつくることは決してグローバル化とは⾔えません。
 

これから海外に赴任する⽅には、⽇本⼈と現地社員が⼀体となり、共通の(グローバルな)ビジョンに向って仕事をするための、新たなコミュニティーを創り出す強い意志が必要です。それは既存のコミュニティーを単純に海外で⼤きくすることではないのです。

学校法⼈産業能率⼤学総合研究所
経営管理研究所 主幹研究員 内藤 英俊

  • 本コラムは「繊研新聞」(繊研新聞社)での連載を⼀部修正して掲載しています。
  • 著者の所属・肩書きは掲載当時のものです。
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