「管理者を育てる」(第1回):通信研修を活⽤した階層別教育構築

理想的な管理者とはどのような⼈を指すのか

(1)管理者教育を考えるときの2つの関⼼事

⼈材マネジメントに携わる⼈が管理者教育を考えるとき、共通して抱くはずの関⼼事は⼤きく2つに集約されます。

ひとつは「理想の管理者とはどのような⼈か(理想的なマネジメントとはどのような内容か)」であり、もうひとつは「どうしたら理想の管理者になれるのか(そのために周囲はどのような⽀援ができるのか)」です。
前者がわからなければ管理者教育の「目的」「ゴール」が設定できませんし、後者がわからなければ管理者を育てる具体的な「⼿段」としての教育プログラムの企画や設計ができません。

つまり、この2つの関⼼事とは、ゴールと⼿段についての関⼼事だといえます。
本コラムではまず、この⼆⼤関⼼事にそれぞれ1回ずつを充て、私どもが考えていることを述べさせていただきます。

それでは、第1回は管理者教育の目的・ゴールとしての「理想のマネジメント・理想の管理者」から始めていきましょう。

(2)マネジメントとは何をすることか

理想の管理者の定義は、ほとんど同義反復に近いかもしれませんが「マネジメントを適切に実⾏できる⼈」と⾔えるでしょう。
では理想のマネジメントとはどのようなものでしょう?
いや、それ以前にそもそも、管理者のマネジメント⾏動とは具体的に何をすることでしょうか。さまざまな説明が可能ですが、ここでは「プロセスに着目した説明」「マネジメント対象に着目した説明」の⼆通りを紹介します。

(a)マネジメントを『P‐D‐Sサイクル』としてとらえる

管理者のマネジメント⾏動をP-D-Sサイクルに即して整理しようとする考え⽅です。
P-D-Sとは、いわずと知れた「計画-実⾏-評価」サイクルです。このサイクルは、⽇々の仕事から中⻑期の構想までさまざまな規模で存在するわけですが、以下に「管理者の1年間のPDSサイクル」を整理してみましょう。

このように整理することで、「マネジメントとは、中⻑期のビジョン実現に向け毎期目標設定し、メンバーを活⽤して達成し、振り返りを通じて仕事がよりレベルアップしていくことである。」と理解できます。このプロセスに即して、ガイドブックや各種フォーマット(職場目標設定シートやメンバーへのアサインメントシートなど)を提供すれば、新任の管理者でもこれらをなぞりながら最初の1年を乗り切れることでしょう。

⼀⽅、時系列に管理者のやるべきことが並んでいるこの説明は「何が最も重要なことなのか」印象に残りにくい感があるかもしれません。

(b)マネジメントを「仕事」「⼈」「職場」の対象別にとらえる

管理者は「何を」マネジメントするべきかという対象別にマネジメントの中⾝をとらえようとする考え⽅です。

まず、管理者独⾃の「未来への職場構想」を掲げることが前提となります。
これはいわば、マネジメントを⾏う目的・将来のゴールイメージです。これを実現するために管理者は「仕事」「⼈」「職場」をマネジメントするのです。

「仕事=業績達成」と「⼈=⼈材育成」は、従来から管理者の重要な役割と認識されてきました。
加えて課⻑に代表されるようなミドルマネジャーは、成果の上がる「場」、⼈の育つ「場」としての良好な職場を作り上げることが⼤切です。この説明は、P-D-Sに即した説明に⽐べると抽象度がやや⾼くなりますが、その分、組織が管理者に寄せる「期待役割」がストレートに現れています。

3つのマネジメントをバランスよく実⾏することにより、組織内に「安定的に成果を出し続けられる強い現場」をつくりあげることこそ、まさに管理者に期待されている役割なのです。

(3)マネジメント遂⾏のための能⼒・資質

このようなマネジメントを適切に遂⾏するために、管理者にはどのような能⼒や資質が必要でしょうか。ここでは「知」「理」「情」「胆」という4つのキーワードで整理を試みます。

「知」とは、知識です。
正しい知識・必要な知識をもたずにマネジメントに臨むのは、海図をもたずに航海に出るようなものです。

「理」とは、論理です。
知識を有効に組み合わせて実効性のある施策に組み⽴てるためには論理的な思考が⽋かせません。

「情」とは、ヒューマンスキルです。
「⼈を動かす」ことはマネジメント遂⾏とは切っても切れない関係にあります。

「胆」とは、信念、あるいは哲学です。
先の⾒えない今⽇、難しい意思決定を⾏い、しかも最後までぶれずにやりぬくためには確固たる信念なり哲学なりが必要です。

以下の図は、4つのキーワードを⽤いて、管理者に求められる多様な能⼒や資質をまとめた⼀例です。

ここで注意したいのは、知・理・情・胆は⼀律には養成できないということです。

例えば、「知識」は、教育的な施策によって、ある程度短期間で習得できますが、上図で⼤雑把に⾔って右にいくほど、他者からは教えにくい領域となります。
論理やヒューマンスキルは、基礎的な技術はトレーニング可能ですが、技術を使いこなすセンスやもって⽣まれたような対⼈能⼒はなかなか他者からは伝授しにくい領域です。さらに「哲学」にいたっては、「知識」のように⼀律の正解がある訳ではなく、管理者⾃⾝が時間をかけて⾃⼰の内⾯で育てていくべきものです。
管理者を育てる難しさ・奥深さも、まさにこの辺りに起因すると⾔ってよいでしょう。理想の管理者は「あれとこれとそれを教えれば、ハイ完成。」ということにはならないのです。

(4)めざすべき管理者像

そろそろ第1回をまとめたいと思います。

今回は、管理者教育についての2⼤関⼼事の⼀つ目として、「理想的な管理者とはどのような⼈か」を考えてきました。

要約すると、理想的な管理者とは「知・理・情・胆をもって、『職場活動のP-D-Sサイクル』をしっかり回せる⼈」あるいは「知・理・情・胆をもって、『仕事』『⼈』『職場』をマネジメントできる⼈」ということになります。

しかし、「理想像」を知ることと、「どうすれば理想に近づくことができるのか」を知ることとは別問題です。そこで次回以降は、「管理者の成⻑をいかに⽀援するか」について考えてみたいと思います。