新人・若手社員育成の定石 第4回

第4回 若⼿社員の能⼒の⾒える化 〜ビジネス基礎⼒フレームに基づく強み・弱みの把 握

前回(第3回目)では、若⼿社員を成⻑させる経験学習の重要さと、それを促進する職場のあり⽅について、お話してきました。

最後となる第4回目では、若⼿の成⻑度合いや現状の能⼒発揮度合いを⾒える化する枠組みについて考えていきます。

成⻑を実感できない若⼿社員、指導・育成できない職場

本学の調査では、ビジネスパーソンの20代前半の23%、20代後半の45%が、「⾃分が成⻑していると感じられない」という結果が出ています。
20代前半に⽐べると、20代後半では成⻑実感がないビジネスパーソンが倍増し、およそ半数に達し
ていることが分かります(図1)。


学校法⼈産業能率⼤学総合研究所「経済危機下の⼈材開発」に関する実態調査(2010)
この結果の理由はいくつか考えられます。たとえば、仕事が⼀巡して、ある程度業務に慣れた若⼿社員は、⼀段⾼いレベルが要求されるようになります。

期待される役割は少しストレッチされたものになり、非定型的な業務や絶対解のない仕事の割合も徐々に増えていきます。「どこまでやったら⼗分なのか」「⾃分はどの程度できているのか」が、⾃分⾃⾝でとらえられなくなってくるのです。

また、経験を重ねるほど、上司や先輩から、仕事の結果や成果について、フィードバックを受けることが少なくなってきます。そうなると現在の仕事を遂⾏する⼒が⾃分に備わっているのか、⾃分の仕事がうまく⾏っているのか、推し量るのが難しくなってきて成⻑を実感しづらいのではないかと考えられます。

さらに、若⼿社員を取り巻く職場においても、OJTがあまり機能していない環境もあります。
計画的OJTがうまく⾏っていないとするマネジャーにその理由を尋ねた本学の調査結果では、「指導する⼈の時間確保が難しい」「指導する⼈の能⼒が不⾜しているから」「⼈を育てることの重要性が社内に浸透していないから」が目⽴ちます。マネジャーやOJT担当者が多忙で、若⼿社員の指導・育成にかける時間も能⼒も不⾜し、重要性も⼗分浸透していない実態があるのです。

まずは⾃分の⼒を知る

⼊社から3年間を育成期間と位置づける組織は少なくありません。しかし、⼊社1年目に特別待遇を受ける新⼊社員も、上記のように2年目以降は⼗分に⼿をかけてもらえなくなってきます。 若⼿社員にしてみれば、突然「主体性を発揮して⾃ら成⻑してほしい」と組織や職場から期待されても、⾃分⾃⾝の⽴ち位置も曖昧なままで、何をどうしていいのかわからない、と⼾惑うことになります。重要なのは、成⻑に向けた能⼒開発の意識付けだけでなく、⾃分の⼒を知ること、つまり⾃分の能⼒の現状を客観的に分析・把握させることです。

また、現場のマネジャーや先輩にしても、⾃⾝の仕事が忙しい中での若⼿社員の指導・育成は負担増になります。指導・育成にかける時間・⼿間に応じて、別の仕事を減らしてもらえるわけでもありません。
そこで、育成を少しでも効率的・効果的に進めるために、マネジャーが、若⼿社員のどういった能⼒を開発していかなければならないのか、育成の⽅向性を定める必要性が出てきます。

若⼿社員の能⼒を客観的に把握することは、本⼈にとっても、マネジャーやOJT担当者にとっても非常に重要なことなのです。

若⼿社員に必要な15の能⼒

本学では、2010年から若⼿社員に求められる能⼒について研究を進め、⼊社2〜5年目の若⼿社員の目指すべき⼈材像を、以下のように設定しました。

自己
⾃分⾃⾝の確固とした想いや考えをもって、常に成⻑を目指す

仕事
仕事サイクルにしたがって堅実に業務を進め、目標を達成する

関係性
影響⼒を発揮し、周囲と協働を図りながら、組織としての成果を出す

この⼈材像に基づいて、3つの能⼒群(ビジネス基礎⼒)を設定しました。ビジネス基礎⼒とは、「ビジネスにおいて、若⼿社員に求められる基礎的な能⼒」と定義しています。
論理⼒や学び⼒などからなる「⾃⼰確⽴」、仕事設定⼒や改善⼒などからなる「仕事確⽴」、関係調整⼒や主導⼒などからなる「関係性確⽴」の3つの領域からなります。
また、ビジネス基礎⼒を成果に結びつける上で、能⼒の発揮を促進する「動機の源泉」(仕事において、どういう価値観を⼤事にしているか)と、発揮を阻害する「ストレス発⽣源」(仕事において、どういう状況にストレスを感じやすいか)が重要と位置づけています(図2)。

「ビジネス基礎⼒」は、3つの各領域5つずつ、計15の能⼒で構成されています(表1)。
およそ100項目の質問に対し、⾏動できているかどうかを回答し、個⼈の能⼒の強み・弱みを診断していきます。
⾃⼰確⽴ 1.論理⼒ ものごとを筋道⽴って考え、明確な根拠に基づいて明快な結論を導く⼒
2.俯瞰⼒ ⾃分⾃⾝を第三者的な視点に⽴って冷静に観察し、⾃分の状況・特 徴・⾏動などを客観的に捉える⼒
3.頑健⼒ 様々な困難やトラブルに直⾯しても、くじけることなく前に進み続ける⼒
4.学び⼒ 状況を前向きに捉え、あらゆることから何かを積極的に学びとる⼒
5.将来構想⼒ 今後、⾃らがどうなっていきたいかについて常にイメージを持ち、それに向かって努⼒する⼒
6.仕事設定⼒ 仕事の目的を理解し、取り組むべき内容を明確化する⼒
仕事確⽴ 7.算段⼒ 仕事の目的・期間・状況に応じて、最適な仕事の進め⽅を組み⽴てる⼒
8.貫徹⼒ 目的達成のために努⼒し、仕事上の困難を乗り越える⼒
9.振り返り⼒ やり終えた仕事を省みて、成功や失敗のポイントを整理する⼒
10.改善⼒ 常に今の仕事を⾒直し、より良いやり⽅を探求する⼒
11.関係調整⼒ 他者との間で何か問題が発⽣しても相⼿や状況に合わせて適切に対応し、関係を修復する⼒
関係性確⽴ 12.主導⼒ ⾃分の意⾒を積極的に発信し、他者やチームに働きかける⼒
13.育成⼒ ⾃分の知識や技能などを他者や後輩に教え、その成⻑を⼿助けする⼒
14.組織共感⼒ 組織の理念や⽅向性を理解し、その実現に向け意欲的に取り組む⼒
15.職場アシスト⼒ 役割外であっても、職場に必要な仕事であれば、⾃ら進んで引き受ける⼒

診断結果の有効活⽤

組織がこうした診断結果を育成に活⽤する際、⼤きく3つのやり⽅が考えられます。

(1)若⼿社員本⼈の能⼒棚卸し

研修などを通じて、診断結果をもとに能⼒を棚卸しして、現状の強み・弱みを⾃⼰分析します。そこから能⼒開発課題を明らかにしていくという⽅法です。ビジネススキルの研修やキャリア研修などのタイミングで実施するのが⼀般的です。 また研修後に、診断結果について上司と共有化することも効果的です。

(2)職場での育成

上司やOJT担当者が、⽇々の指導や⾯談などで活⽤する⽅法です。能⼒の強み・弱みだけではなく、「動機の源泉」や「ストレス発⽣源」の情報が特に役⽴ちます。普段、上司と若⼿社員の間で、業務に関する指⽰・伝達、報告・連絡等のコミュニケーションはされていますが、それ以外の情報については、上司といえどもあまりわかっていないというのが実際の状況だと思われます。

特に、個⼈の特徴に合わせた1to1の育成が上司やOJT担当者に求められる中で、若⼿社員がどこにやる気を感じているのか、あるいはどういうポイントでつまずきやすいのかを把握し、ケアしていくという観点も重要になります。

(3)若⼿社員の教育課題抽出

⾃組織の若⼿社員全員を対象に診断を実施することで、若⼿社員の教育課題を抽出する材料として活⽤する⽅法です。
たとえば、⾃社の若⼿社員が全体的にどのような能⼒が不⾜しているのかが分かります。
また、定期的に実施していくことで、若⼿社員への教育施策の活動⾃体をチェック・評価することも可能です。

成⻑は、⼀朝⼀⼣では達成されません。しかし⽇々の積み重ねが⼤切であることもまた確かです。 そしてそれを現場任せではなく、組織として取り組んでいかなければなりません。ただし⼈材教育部門が現場の育成⽀援に⼊っていくのは、現場の反発や⼈材教育部門の⼈的・時間的リソースの問題もあり、難しい側⾯もあります。
たとえば、若⼿社員の診断結果を現場の上司に提供してあげるだけでも、育成⽀援となりえます。
そして現場とのコミュニケーションが⽣まれるきっかけにもなります。そこから始めていくのも⼀つのあり⽅だと考えます。

(産業能率⼤学 総合研究所 関和之)

新人・若手社員育成の定石

公開日:2017年03月01日(水)

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