新人・若手社員育成の定石 第3回

第3回 関わりあい、⼈が育つ職場づくり 〜対話が経験学習を促進させる

前回(第2回目)では、若⼿社員を段階的に育成していくことの重要性について考えました。
そして特に若⼿から中堅の段階にかけて、経験を通じて学ぶ⽅法(経験学習)が有効である、というお話しをしました。

第3回目では、経験学習と、それを促進する職場のあり⽅について、考えていこうと思います。

⼈が成⻑するとき

さて、ここで質問です。「⼈が成⻑するとき」とは、どういうときでしょうか︖皆さんも思い浮かべてください。
以下のようなケースが多いことが分かっています。
1.仕事そのものから学ぶ 多くの業務・職場経験、未知の仕事にチャレンジした経験など
2.職場外の⼈々との交流 組織内でのさまざまなプロジェクト参加経験、部門間の調整作業
3.学びのモデルとなる⼈々との出会い 模範となる、あるいは優秀な上司・先輩との出会い
4.上司・先輩による指導 教え上⼿な上司・先輩からの指導、苦しいときにもらった励まし
5.⾃分⾃⾝の努⼒ ⾃⼰啓発、⾃ら仕事を拡⼤していくような⾏動
前回のコラムで、⼤⼈の学びの7割を経験学習が占める、という研究結果を⽰しましたが、上記1あるいは2は、まさに仕事を通じて成⻑した・学んだという内容です。これを今読んでいる皆さんも、仕事を通じて学んだ、と回答する⽅がほとんどだと思います。

このように仕事や何か出来事などの経験を通じて、⾃ら知識を得て、⾃分なりの理論を作り、学んでいく⽅法を、「経験学習」と⾔います。

経験学習については、コルブの理論(1984)が有名です。経験を通じた学習は、「経験」→「省察」→「概念化」→「実践」のサイクルを回すことで⾏われる、という考え⽅です。

経験学習の4つのサイクル

コルブのモデルに基づいて、筆者がアレンジ
経験学習の各プロセスを簡単に⾔えば、まず何かを経験し、それを振り返り、そこから教訓(⾃論=⾃分なりのロジック)を得て、別の場⾯で適⽤していく、という流れになります。

ただし、単に経験させればよい、という問題ではありません。同じ経験をしても、学ぶ⼈とそうでない⼈がいることを考えれば、お分かりになると思います。いい経験をしたとしても、そこで経験したことを振り返って(省察して)いない、あるいは振り返りから次に活かせる教訓(どうやれば上⼿くいくのか、あるいは失敗しないのか)を引き出すこと(概念化)ができなければ、意味はありません。
つまり、経験を省察(内省)する際の枠組みや⾔葉、ポイントの理解、概念化するための思考⼒や想像⼒が本⼈に⾝についていなければ経験学習は効果を発揮しません。
段階的な育成の考え⽅に従えば、経験学習を軌道に乗せ、⾃ら学んでもらう若⼿社員に仕⽴てるためには、新⼊社員のうちに、まず仕事のやり⽅や振る舞い⽅をしっかりと教え込むとともに、教育によって論理的な思考⼒を醸成しておくことが重要になります。

周囲からの問いかけ(対話)が、経験学習を促進させる

経験学習プロセスのうち、特に「省察」と「概念化」の段階では、周囲の上司や先輩からの働きかけ(問いかけやコミュニケーション)が重要になります。

⾃分だけで振り返ったり教訓(⾃論)を考えても、なかなか深掘りできなかったり、広がりません。さらには偏った振り返り⽅や、間違った教訓を得てしまう可能性もあります。
このとき、他者の視点が重要になります。下記のような問いかけ(対話)を⾏うことで、若⼿社員本⼈の理解が促進され、深まります。

振り返りの段階
「上⼿くいったコツは何だと思う?」「どうして、○○の⾏動をとったのか?」
「ほかの⽅法は思いつかなかったか?」など

概念化の段階
「どうすれば、○○を達成できると思う?」「私は○○と思うが、あなたはどう考えるか?」
「○○のようにも考えられるよ」など

⼀緒に仕事を⾏う先輩や上司がその都度、対話の相⼿ができれば問題ありませんが、実際にはそれは難しいと思います。⾃分の業務で忙しいでしょうし、そもそも⼀⼈ですべての領域をカバーすることも難しくなっています。つまり職場メンバー全員が、お互いにアドバイスする役割を演じられれば、より効率が上がります。
もちろん対話やアドバイスする先輩の成⻑にもつながります。なぜなら、その役割を演じるためには、⾃らも普段から考え、⾏動していなければならないからです。

しかし、マネジャーが「対話をしましょう」とメンバーに⾔っても、掛け声だけではなかなか進みません。
対話を促進させる⼀つの⽅法として、「仕事の相互依存性をつくる」という⽅法があります。具体的な事例を⾒ていきましょう。

つながりづくりを実施したある職場の事例

ある会社の職場では、多くの業務を、⼀⼈が担い完結させるような体制をとっていました。仕事効率がよく、技能が蓄積され、成果責任が明確である、といったメリットがありました。 しかし、⻑年続けていく中で、技能や⽅法が横展開されない、若⼿が伸びない、結果として仕事ができる⼈間に業務が集中しすぎる、急病などで業務が滞る、といった弊害(デメリット)が露呈してきました。以前は、各⾃、黙々と作業をこなし、職場には会話はありませんでした。会話はむしろ作業の邪魔という雰囲気があったようです。

しかし、マネジャーは、先ほどのデメリットを懸念し、ひとつの業務を2〜3⼈で担う体制に切り替えました。最初は、話し合いの時間など調整コストがかかる、プロジェクトリーダーがメンバーの成果をチェックする⼿間が発⽣する、などのネガティブな意⾒もありましたが、徐々にそれにも慣れ、業務が回るようになりました。 そして、何かあれば、ちょっとしたワイガヤが始まり、⾃由に対話する雰囲気が⽣まれてきました。外部からの問い合わせに対しても、リーダー⼀⼈だけでなく、他のメンバーも対応できるようになり、職場の成果として目に⾒える形になったようです。

マネジャーにとっての⼈材育成とは、職場づくり

上記の事例からも明らかのように、経験学習を促進させるためには、お互いに学びあい、対話のある職場づくりが重要だということがお分かりになると思います。⼈が育つ職場は、成果が出る職場でもあります。

マネジャーの重要な役割に⼈材育成がありますが、単に指導のコミュニケーションスキル(コーチングなど)を学び、個別に育成するというだけでは不⼗分です。むしろお互いに学びあう職場づくりにこそ重点を置くべきだと考えられます。

また、多くの職場では、成果プレッシャーが強く、なかなかメンバーに失敗させられない状況にあります。ただ、あえて失敗経験をさせることで⼈が成⻑することはよく知られています。若⼿を成⻑させるために、失敗リスクのあるストレッチした課題を任せるためには、失敗してもリカバリーできる体制を整えておくこともマネジャーの⼤事な役割になります。

第3回目のコラムでは、経験学習や、若⼿育成の経験学習を促進・⽀援する職場づくりについて、お話ししてきました。
ただ、職場全体で若⼿育成をバックアップしていっても、最終的に、若⼿本⼈の成⻑は、若⼿本⼈が主体者とならなければ進みません。将来に向けて⾃ら成⻑していってもらうためには、本⼈がまず、現状の⾃分⾃⾝について⾃⼰理解できていることが出発点になります。
そこで最後第4回目では、⾃⼰理解に役⽴つ、若⼿社員の能⼒を捉えるフレームについて、考えてみたいと思います。

(産業能率⼤学 総合研究所 関和之)

新人・若手社員育成の定石

公開日:2017年03月01日(水)

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