新人・若手社員育成の定石 第2回

第2回 段階的な育成に基づく若手社員育成 ~組織社会化の観点から

第1回では、若手社員が成長していない原因の一つとして、「育成者側が、育成している“つもり”になってしまっているのではないか」という問題提起を行いました。
組織にとって最適な育成を考えるためには、人材マネジメント戦略、仕事の特性、風土など考慮すべきさまざまな要素がありますが、多くの組織において共通となる考え方(定石)はあります。
第2回では、その考え方である「段階的な育成」について整理していきます。

段階的な育成を行うにあたり、そのベースとなる考え方に「組織社会化」があります。
南山大学高橋弘司准教授は、これを「組織への参入者が組織の一員となるために、組織の規範、価値、行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を習得し、組織に適応していく過程」(1993)と定義しています。ごく簡単には、「組織に馴染むプロセス」と言えます。
この組織社会化がうまくいくと、職務満足や組織コミットメントの向上、動機づけ、離転職の低下に効果があります。
組織社会化の考え方に基づき、若手の成長を時間軸と空間軸に置き換えると、「時間軸」は、新人~若手社員~中堅社員という段階(シークエンス)となり、「空間軸」は、新規参入者(新入社員)が組織に適応するために乗り越えるべき課題の範囲(スコープ)となります。具体的に言えば、「自己」「仕事」「関係性」の3つになります。
自己 :自分自身を管理すること
仕事 :仕事に必要な知識や技能を身につけ、遂行すること
関係性:所属する組織、職場集団の協働の仕方、ルールを受け入れること
※年次は目安です。業種・職種により変動します。

上図は、段階的育成のモデル図です。 横軸には段階(新⼈〜若⼿社員〜中堅社員)を設定しています(シークエンスに該当する部分)。各段階の成⻑課題「固める」「伸ばす」「拡げる」は、能楽を確⽴した世阿弥の教えである「守」「破」「離」と似たような考え⽅です。 若⼿社員に⾃発的・⾃律的に動いてもらうためには、初期の段階で、組織⼈としての「⾃」を作ってからでなければなりません。“地固め”ならぬ“⾃固め”が⼤切です。 縦軸は、「成⻑課題」「育成内容」「育成側の役割」が設定されています。そのうち育成内容のフレームが、前述した「⾃⼰」「仕事」「関係性」という領域(スコープに該当する部分)になります(なお、育成内容については、代表的な内容を記載しており、また組織固有の専門知識・技能等を除いています)。 それでは、各段階について⾒ていきましょう。

新⼊社員(新⼈)の段階

この段階の成⻑課題は、基礎を「固める」です。社会⼈最初の3年間は、その後の成⻑の礎を築く期間でもあり、その最初となるこの時期が、とても重要であることは⾔うまでもありません。

組織⼈としての成⻑を図る上で、「仕事」がメインとなるのは当然ですが、仕事の知識だけ、作業の⼿順だけ教えていたのでは不⼗分です。 組織⼈としてのマナー(振る舞い⽅)を知る、働く意味、仕事の意味をつかむなど、「⾃⼰」に関する領域も⼤事になります。また、組織・職場に慣れる(風⼟、ルール、組織が⼤切にしている価値観)といった「関係性」の部分も重要になります。

この段階での育成のアプローチ⽅法としては、「教える」です。⾝に付けてほしいことを、しっかりと教え込むことが重要になります。新⼈に仕事のルールや業務に必要な知識を、何故それが必要なのかを含め、わかりやすく伝え、確実に理解し、できるように導くことが求められます。 よく「本⼈に⾃律的に考えさせる」と⾔いますが、そもそも考えるためのフレームや仕事のコトバ(仕事そのものや⽅法、そのプロセス)がなければ、考えることもできません。⾃分で考えさせるためには、まず教え込むことが重要になります。

若⼿社員の段階

この段階の成⻑課題は、⼒を「伸ばす」です。仕事を徐々に覚え、指⽰されたことを、過不⾜なく達成することが求められます。また、仕事を通じて⾃ら気付き、⾃律性を発揮していく段階でもあります。

仕事以外では、セルフマネジメントが求められ、周りに働きかけながら⾃ら積極的に学んでいくことが求められます(⾃⼰)。また、周囲との協働や、円滑にコミュニケーションを⾏うことが要求され、中には新⼊社員の⾯倒を⾒る⼈もいるでしょう(関係性)。
この段階での育成のアプローチ⽅法としては、「育てる」です。若⼿社員に経験の場を与え、やらせてみて、それを⼀緒に振り返ることで、ともに考え、ともに気づきを得るようにすることが求められます。

中堅社員の段階

この段階の成⻑課題は、仕事や役割などの活動領域を「拡げる」ことです。今後、リーダーシップを発揮してもらうことが期待されます。また次代のリーダーやマネジャー候補者として育てていかなければなりません。

その意味で、育成のアプローチとしては、「任せる」ことが⼤切になります。「任せて任せず」(ある程度任せ、⾃由にやらせながらも、気にかけて、必要に応じて後ろから⽀援していく)」のスタンスが重要であり、マネジャーとしては、我慢することも必要になります。

実際の育成の現場では、モデル図のように綺麗に進むわけではありませんが、その場限りの育成では、そこに投⼊したエネルギー分の効果は得られません。それこそ“育成したつもり”になってしまいます。
新⼊社員・若⼿社員・中堅社員に対し、「どういうことを学ばせ」「どうアプローチして成⻑を引き出すか」を考えることで、そのために⼈材教育部門として何を準備しなければならないのか、が明確になってきます。

経験学習の有効性

よく⼈の成⻑には「経験学習が効果的」と⾔われます。成⼈の学びは、その約7割が経験を通じて⾏われるという研究結果もあります。
経験学習は、仕事をある程度できるようになってきたころからが有効に機能します。新⼈に対し無闇やたらに経験させても、学ぶべきことを⼗分学べないし、逆に間違った覚え⽅をしてしまうケースもあります。それどころか、かえってストレスを過度に感じたり、モチベーションを下げたりしてしまいます。結果として、望まない離職につながってしまう可能性もあります。

また、経験の場があれば勝⼿に若⼿社員本⼈が学ぶ、というものではありません。“いい経験学習のさせ⽅”と“わるい経験学習のさせ⽅”があります。つまり、周囲の働きかけ⽅次第という部分もあります。

第3回のコラムでは、経験学習の内容と、経験学習を促進させる職場のあり⽅について、お話していこうと思います。
新人・若手社員育成の定石

公開日:2017年03月01日(水)

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