機能するKPIマネジメントサイクルによって"グリーン企業"を目指そう【第2回 KPIが機 能する2つのアプローチ】

前回は、マネジメントコントロールのフレームをベースとした業績管理の考え⽅を紹介しました。第2回は、KPI(Key Performance Indicator)を核にした指標化するマネジメントを取り上げ、KPIを機能させるポイントについてお話します。

KPIとKGIの意味

業績管理の⼿法としてKPI指標によるマネジメントを導⼊している企業は多くあります。しかし、「全然うまくいかなくて…」という声もよく聞きます。

まず、ここで、KPIの意味と要件に触れてみます。業績目標の達成度を⾼めるためには、成果を指標によって測定してモニタリングすることが核となります。指標によるマネジメントでは「測定すると⾏動が変わる」という⼈間の特性がベースにあります。その観点からKPIの導⼊は有益であり、KPIを「業績貢献のツボ」と表現してもよいと考えます。

さらに、IndicatorをKey⾜りえるためには単に指標化するだけでは不⼗分です。Keyに値するためには上位目標との整合性が必要であり、当該指標の達成が上位目標の達成に直結していなければなりません。また、Indicator⾜るためには尺度として測定可能でなければなりません。

なお、KPIをKGI(Key Goal Indicator)と区別して活⽤することも有効です。KGIは、結果としての⾊がより強い指標であり、目的を達成できたかどうかを測定する指標です。⼀⽅、KPIは目的を達成するためのプロセスをクリアできたかを測定する指標と⾔えます。つまり、KGIとKPIは目的と⼿段の関係にあるのです。

KPIマネジメントがうまくいかないのは

KPIによるマネジメントが機能しない原因としては、以下のことが考えられます。

・指標と上位目標とのつながりが弱い(指標がPIに過ぎない)
・KGI段階までの定義にとどまる(⾏動が⾒えない)
・詰めることをしていない(指標が使えるかどうか議論が⾏われていない)
・指標に⾎が通っていない(メンバーにとって指標を押しつけられるだけになっている)
・KPIによって「通信簿」をつける(⾃分が評価されやすい指標を作ってしまう)

これらの問題をどうクリアしていけばよいのか考えていきましょう。

そもそも、業績管理で追求すべきベネフィットには何があるのでしょうか。⼀つはオーソドックスですが、上位目標からロジカルに展開することの価値です。これを「機能的ベネフィット(ロジック)」と呼びます。もう⼀つは、マネジャーもメンバーも充実感があるという状態です。これを「⼼理的ベネフィット(ハピネス)」と呼びます。ともすれば業績管理というのは、指標で縛ってしまう恐れがあり、ハピネスには⾄りません。しかし、本来、経営学も含めて、社会科学はハピネスを目指すべきであると考えます。このKPIマネジメントでは、ロジカルとハピネスの両⾯をクリアすることを目標にしています。

業績管理の2つのアプローチ

そこで、ロジカルでハッピーな状態の業績管理に到達するための2つのアプローチを⾒ていきましょう。1つは機能的なベネフィットを実現するためのアプローチ「ロジックツリー」です(【図1】参照)。

【図1】 ブレイクダウンアプローチ︓ロジックツリー(トップダウン的)

業績目標をブレイクダウンしてきて、空欄になっている箇所は、⾏動が⾒えていないところです。
これでは、せいぜいKGI⽌まりとなります。実際、ここまでで終わっているケースが多く⾒られます。

では、具体的にどう落とし込んでいけばよいのでしょうか。【表1】のロジックツリーの展開⽅法をご覧ください。

【表1】ロジックツリーの展開⽅法

※L:レイヤー(階層)
KGIとKPIがどこで登場しているかご覧いただけると思います。指標区分で、上に⾏くほど結果に近くなります。下に⾏くほど、プロセス・⼿段的な⼿法になります。また、右端のレイヤー設定基準は成果を測定するインターバルです。下に⾏くほどデイリーになり、⾏動レベルに落とし込む必要があります。

もう1つは、⼼理的なベネフィットを実現するためのボトムアップ的なアプローチです(【図2】参照)。

【図2】 探索・仮説アプローチ(ボトムアップ的)

メンバーの⽅がより実務の時間を割いている前提で、実務経験から成果につながる⾏動案を出してもらいます。それを測定する指標PI(Performance Indicator)を洗い出します。次に、PIから上位業績目標への貢献度が⾼いものを厳選し、KPIを仮決定します。そして、ロジックツリーで展開してきたKPIと付き合わせKPIを決定します。

前述でKPIマネジメントが機能しない理由の⼀つに、「指標に⾎が通っていない」というものがありました。メンバーにとっては指標を押しつけられるだけでは、業績向上に向けての気持ちは⼊りません。業績管理で追求すべき⼼理的ベネフィットは、マネジャーもメンバーも充実感が感じられることです。KPI決定のプロセスでしっかりマネジャーとメンバーが議論し、双⽅納得を得られることで、⾏動へのコミットメントが⾼まるのではないでしょうか。これは、私の経験値で強く感じているところです。

最終回となる次回は、KPIによるマネジメントをどのように実現していくのかについて考えていきます。

(学校法⼈産業能率⼤学 経営管理研究所 主幹研究員 総合研究所准教授 本村 秀樹)