機能するKPIマネジメントサイクルによって"グリーン企業"を目指そう【第1回「マネ ジメントコントロール」のフレームをベースとした業績管理の考え⽅】

第1回は、「機能するKPIマネジメントサイクル」の核になる業績管理の考え⽅についてお話します。まず初めに、⾃社の業績管理について、⾒ていきましょう。以下の【表1】を使って5段階で評価してみてください。

【表1】業績管理に関する簡易診断

⾃社のマネジャー層を対象として以下の質問ごとに⾃⼰採点してください。

いかがだったでしょうか。実際の研修では厳しく採点する⽅が多く⾒られます。今コラムでは、業績管理すなわち業績貢献のマネジメントを充実させる処⽅箋をご紹介しますが、これを導⼊いただくことで、上表の点数が上がることが期待できます。
業績管理は本来管理会計の役割なのですが、⼈の協働体という特性を持つ組織において、うまくいっていないケースが多いようです。
ここで、⼀つのマネジメント⼿法「マネジメントコントロール」【図1】をご紹介します。

【図1】マネジメントコントロール

3つのコントロールの特徴

マネジメントコントロールはR.アンソニーが提唱した経営における概念を原点〔※1〕とし、極めて単純化して⾔えば「戦略実現のために効果的な業務遂⾏を引き出す仕掛け」と定義できます。
マネジメントコントロールには、以下の特徴があります。

・戦略・経営目標の実現のために必要な目標(KGI:Key Goal Indicator)を明確にする
・KGIを実現するために必要な⾏動(KPI:Key Performance Indicator)を明確にして、実⾏する
・結果と⾏動を実現しやすい環境・風⼟(しくみ・ルール、⼈材などの資源など)を構築する

では、3つのコントロールについて⾒ていきましょう。
「結果のコントロール」は⽂字通り結果をターゲットとします。部門⻑、マネジャーが⾃部門の達成すべき結果(ゴール)を明⽰して⽅向づけることです。企業経営においては業績が対象となり、売上、営業利益、予算などの例があります。結果のコントロールが強い組織は、いかに達成するかはメンバーに依存する度合いが強くなります。極端なケースは必達目標だけを⽰し、あとはすべて任せるスタイルです。メンバーがスーパープレーヤーばかりなら可能ですが現実的ではありません。他のコントロールも必要となってきます。

「行動のコントロール」は、成果を出すために具体的にどのような⾏動をとるべきかを明確にする点に特徴があります。企業経営では、顧客訪問を増やす、顧客フォローを充実させる、○○スキルを磨く、などが具体的⾏動を⽰す例と⾔えます。⼀つひとつは当たり前のことかもしれませんが、上位目標に貢献することとして明⽰し、メンバーの⾏動に確信を与えることに意味があります。

「環境のコントロール」は、空気づくりや意識づけの側⾯であり、RC(結果のコントロール)とAC(⾏動のコントロール)を⽀える関係、あるいはRCとACの結果として⽣まれてくる状況と⾔えます。

コントロールの的確な配合バランスを

3つのコントロールは⼀つが強調されすぎると弊害を⽣じかねません。「結果のコントロール」過重視では、⼤半の判断をメンバーに委ねることになり、好ましくない⾏動が⽣まれるおそれがあります。「⾏動のコントロール」過重視では、メンバーの⾏動範囲を狭め、応⽤⼒を弱めるおそれもあります。「環境のコントロール」だけでは、コンセプトだけが⼀⼈歩きして実際の⾏動が伴わず、成果が出ないことになるでしょう。

⼤切なのは、3つのコントロールを上⼿く組み合わせることです。組み合わせには唯⼀の正解はなく、組織・チームによって的確な配合バランスが必要です。⽐較的経験の浅いメンバーが多い場合とベテランが多い場合では、同じ業界でも配分が異なってきます。 そして、「3つのコントロール」それぞれのあるべき姿を表したのが【表2】になります。

【表2】「3つのコントロール」のあるべき姿

RCとACはある程度定量化でき、それぞれKGI(Key Goal Indicator)、KPI(Key PerformanceIndicator)の対象となります。PCCは、定量化がほぼ不可能ですが、取り組みの結果、最初に感じ取れるのが環境です。なんとなく雰囲気の良さが感じられるようになり、タイムラグがあって業績につながってきます。イメージとしては、良い雰囲気の象徴として「グリーン企業」と表現したいと思います。 ただ、現実にはコントロールの的確な配合バランスが馴染み、フィットするまでに時間がかかります。あまり短期的なスパンで評価するのは望ましくありません。理想的な配分を描きながら「グリーン企業」を目指してほしいと思います。

⼈材(HR)にフィットしたコントロールになっているか

次に、⼈材とコントロールの関係について考えます。前述の3つのコントロールのうちActionControlに近いものと捉え、その強弱がメンバーの経験値やスキルにフィットした状態になっているかどうか、【図2】のマトリックスをご覧いただきながら考えてみてください。

【図2】⼈材とコントロールの関係

(1)は、Human Resourcesが低く、コントロールが強いところです。ローコストオペレーションの外⾷産業などがフィットします。パート・アルバイト社員向けのしっかりとしたマニュアルがあり、短期間のトレーニングによって、着実なオペレーションの実現が可能になります。メンバーの経験値やスキルがあまり⾼くない場合にフィットする象限です。

(2)は、Human Resourcesが⾼く、コントロールも強いところで、コンプライアンスが非常に重視される会社などはここに当たります。概して経験値の⾼い⽅が集まっているケースが多いですが、ルールの縛りがきついです。グローバル化が進む時代に成⻑を目指すには、今までやってきたことを繰り返すだけでは不⼗分です。新しいビジネスの構想が求められている会社がⅡの象限だと、クリエイティブな発想が⽣まれにくいという問題が出てきます。

(3)は、Human Resourcesが⾼く、コントロールが弱いところで、個⼈的には理想的な姿であると思います。メンバーのスキルが⾼く、任せても安⼼で、成果の出せる状態です。新規事業開拓の場合などは、右上に近づけることが⼤事です。

(4)は、Human Resourcesが低く、コントロールが弱いところで、正直よろしくありません。
時に、経営トップが勘違いして、⾃社の⼈材レベルが結構⾼いと思い込み、なるべく任せてやっていくケースがありました。信頼して任せる志向は良いのですが、客観的に⼈材の経験値やスキルのレベルが低いところだと成果が出にくく、リスクも⼤きくなります。仮にこういう状態になった場合は、いきなり右上(3)に⾏くのはなかなか難しいです。⽅向づけとしては左寄りで、まずコントロールを強めにしながら⼈材を育成してくというステップを踏まないといけないと思います。

今回は、「機能するKPIマネジメントサイクル」の核になる業績管理の考え⽅について、マネジメントコントロールという⼿法をご紹介し、結果・⾏動・環境という3つのコントロールのバランスの重要性、⼈材の経験値やスキルのレベルに合わせたコントロールの強弱についてお話しました。

次回は、KPI(Key Performance Indicator)を核にした指標化するマネジメントを取り上げ、KPIを機能させるポイントについてお話します。

※マネジメントコントロールの理論的背景

マネジメントコントロールはR.アンソニーが提唱した概念を原点としている(アンソニーは、戦略的計画、マネジメントコントロール、オペレーショナルコントロール、の3つを明確に区別して論じた〔1〕 )。
マーチャント(Kenneth A. Merchant)はアンソニーの概念を発展させて、結果のコントロール(Results Control)、⾏動のコントロール(Action Control)、環境のコントロール(Personneland Cultural Control)、の3つに分けてマネジメントコントロールを論じている〔2〕。

〔1〕Anthony, R. N. (1965)
Planning and Control Systems: A Framework for Analysis.
Harvard University, Division of Research (⾼橋吉之助訳(1968)『経営管理システムの基礎』ダイヤモンド社).

〔2〕Kenneth A. Merchant /Wim A. Van der Stede (2011)
Management Control Systems: Performance Measurement, Evaluation and Incentives
(Financial Times (Prentice Hall))
*結果・⾏動・環境という訳および図解は筆者による

(学校法⼈産業能率⼤学 経営管理研究所 主幹研究員 総合研究所准教授 本村 秀樹)