現地従業員に対する「理念・行動指針」浸透のポイント(3)

“漫画”を用いた親しみやすいインナープロモーションを行う~株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント様の取り組みを事例として~

前回のコラムに引き続き、株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント様(注1)との協働プロジェクトでの経験を踏まえ、現地従業員に対して、自社が大切にする理念や行動指針を理解・実践させていく上で有用と考えられるポイントについて述べてみたいと思います。

今回は3つ目のポイントとして、「“漫画”を用いて親しみやすいインナープロモーションを行うアプローチ」について述べたいと思います。

株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント様が従業員に求める行動指針には、きめ細やかで質の高い日本的なサービスを実践するための観点が記述されています。また、そうした行動指針を実践しながら、常にチームで自分たちが提供するサービスを改善、あるいは創造していくことの大切さも述べられています。
こうした行動指針の背後に流れる価値観(チームによるサービスの改善、創造の重要性)は、チームワークを重んじる日本人であれば直感的に理解できるものです。しかし、海外に展開するチェーンホテルの現地従業員にわれわれと同じような理解を期待するのは難しく、チェーンが大切にする価値観をどのように伝えていくべきかは重要な課題でした。
こうした課題に対し、プロジェクトチームでさまざまな方法を検討した結果、多くのアイデアの中から最終的に行き着いた結論が、「漫画」を用いて理解を促すという方法でした。

日本のポップカルチャーは、海外でも大変注目を集めており、中でも特に日本製のアニメや漫画の人気は大きなものがあります。
そうしたことから、プロジェクトチームでは、日本が誇る「漫画」や「アニメ」の文化を活用しながらプロモーションを行うことで、現地従業員の関心を引き出そうと考え、新人のホテルスタッフを主人公とした、漫画による行動指針の解説冊子の作成に着手しました。こうして完成したのが『Origin8物語』(日本語版・英語版・中国語版)です。
図:日・英・中版「Origin8物語」の表紙
株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント様が従業員に求める行動指針は8つの観点(注2)で構成されており、同社ではこれを「Origin8(オリジン・エイト)」と呼んでいます。この「Origin8」という言葉には、8つの観点を意識しながら、スタッフ一人ひとりが日々の業務の中で創意工夫を行い、お客さまに提供する商品やサービスを絶えずOriginate(オリジネイト:創造)していくという意味が込められています。
したがって『Origin8物語』には、新人のホテルスタッフが仕事に従事する中でさまざまな問題に遭遇しながらも、Origin8の8つの観点を意識しながら新たなサービスを考えたり、既存のサービスを見直したりするなどの取り組みを行いながら徐々に成長していく姿が描かれています。
図:漫画の一部分図:漫画の一部分
こうした、オリジナルの漫画によるインナープロモーション施策は、まず行動指針の存在を現地従業員に理解させる必要があった、初期段階の啓蒙施策として非常に有効に機能したと考えています。
と言うのも、この漫画冊子を各ホテルスタッフに配布した後、特に海外のホテルでは、冊子に描かれたキャラクターを活用して、独自のインナープロモーション施策(例えば、従業員向けのさまざまな掲示物や、スタッフパーティで提供されるケーキなどに漫画のキャラクターを活用するなど)が次々に企画・実施されたのです。
図:キャラクターが活用された掲示物など
これらの施策は現地従業員が自ら考え実施したものであり、プロジェクトチームも当初想定していなかった動きでした。
こうしてキャラクターがいろいろな場面で活用されることによって、現地従業員は折に触れ、「Origin8」を目にすることとなり、各ホテルスタッフの認知度を大きく向上させることにつながりました。
日本では漫画に対して「子供っぽい」など、ネガティブな意見も聞かれますが、漫画には「文字情報」にはない、視覚的なわかりやすさや親しみやすさ、物語性(narrative mode)があります。
理念や行動指針など抽象的な概念を認知させる際、初期段階では、漫画の持つこうした特性を活用して早期に現地従業員の認知度を高めるアプローチも有用ではないかと思います。

次回のコラムでは、4つ目のポイントとして、「日本の商品やサービス事例を用いて行動指針の理解を促すアプローチ」について述べたいと思います。
  • オークラ ホテルズ & リゾーツ 国内17ホテル、海外9ホテル ニッコー・ホテルズ・インターナショナル 国内20ホテル、海外18ホテル ホテルJALシティ国内11ホテル 国内外に合計75ホテル(2016年4月1日現在)を展開
  • 8つの観点とは、①笑顔②感性③楽しむ心④連携⑤情報⑥点検⑦衛生⑧安全を指す。