【人材育成事例】主体性を重視し、通信研修で「自ら学べる環境」を構築(株式会社西武ホールディングス様)

【人材育成事例】主体性を重視し、通信研修で「自ら学べる環境」を構築(株式会社西武ホールディングス様)
グループビジョン「でかける人を、ほほえむ人へ。」のもと、お客さまの“行動”と“感動”を創り出すことを目指し、都市交通・沿線事業やホテル・レジャー事業、不動産事業などを行う西武グループ。 人的資本強化によるグループの経営力底上げを担う、グループ人材開発部のお二人にお話を伺いました。

株式会社西武ホールディングス様 概要

国内44社、海外36社から構成される西武グループの持株会社。グループの中核事業を担う西武鉄道、西武・プリンスホテルズワールドワイド、西武リアルティソリューションズなどの事業会社を統括するグループガバナンス体制を構築・運用している。

プロフィール

グループ人材開発部 課長 兼 人事部 課長

砂原 健一 氏

2003年、西武鉄道に入社。駅係員として勤務した後、駅構内店舗管理部門、人事部門、経理部門、プリンスホテル勤務を経て2019年より西武ホールディングスグループ人材開発部在籍。グループの経営力を底上げするため、育成や採用戦略、グループのダイバーシティ推進戦略の立案も担う。

グループ人材開発部 主任

武士 連 氏

2012年、西武鉄道に入社。駅係員・車掌として勤務した後、総務部門を経て2020年より西武ホールディングスグループ人材開発部在籍。西武グループ全体の社員教育や採用業務に携わる。

この記事は、通信研修総合ガイド2023特集ページ「人的資本と人材育成」の一部です。
特集全体をご覧になりたい方は、こちらからダウンロードいただけます。

世の中の変化を捉え、主体的に考え、迅速に行動する人材育成が目標

――貴社の人材育成についての考え方を教えてください。

砂原

西武ホールディングスは持株会社として、グループの経営力を底上げするため、人的資本を強化する役割を担っています。

グループとして、「世の中の変化をとらえ、主体的に考えて、迅速に行動する」という人材育成目標を掲げています。この目標を達成するには、社内外を問わず幅広く情報収集することや継続的に学び続けることにより思考力を鍛えることが必要です。

2018年、改めて当社の教育体系を整理し、新たに「SEIBU ACADEMY」を構築しました。SEIBU ACADEMYは「社内研修」「社外研修」「選抜型留学」「通信・公開講座」を4つの柱として、グループ企業の従業員が必要な知識やスキルを学べる設計になっています。

武士

――グループとして特に注力している人材育成のテーマはありますか。

砂原

中期経営計画でDX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略の推進を掲げており、2020年度からグループ合同で「DXリーダー育成研修」を実施しています。

この研修は、グループ中核4社含むグループ会社を対象としてDXに関連する業務を担う事業系・企画系部門から数名ずつ選抜し、毎年およそ30名が参加します。DXの基本的概念に加え、UX(ユーザー・エクスペリエンス)、DXを活かした事業開発などについて数カ月かけて学びます。対面とオンラインを交えながらグループワークなども実施し、最後にプレゼンテーションをしてもらうプログラムです。すでに3年目を迎え、グループとして約100名のDXリーダーを育成してきました。

研修を通じて気づいた「自分に足りない部分」を通信研修で補う

――通信研修の位置づけや考え方を教えてください。

SEIBU ACADEMY設立時、グループ横断的に素地の底上げを図りたいと考え、スキル・能力・教養を自ら学べる環境整備のために通信講座やオンライン講座、公開講座などを設計しました。

通信研修の活用シーンの一つとして、課長や課長補佐、主任などの役職登用試験合格者が知識やスキルの不足を補う目的での受講が挙げられます。もちろん役職登用にあたって必要なスキルや知識は辞令発令前の研修を実施しますし、発令後にもスキルが不足していないかを確認するフォロー研修を実施しています。

通信研修は、役職者が自分自身で足りない部分に気づいたとき、それを補う手段という位置づけです。このほか、ホテルで勤務する従業員が通信研修でマナープロトコール検定資格の取得を目指したり、電話対応のスキルを学んだりするケースが多いという特徴もあります。通信研修は年4回開講し、修了証を得た場合には自己啓発奨励金として受講料の半額を補助しています。

武士

――さまざまな教育施策を行う中、通信研修ならではのメリットはどのような点にあるとお考えですか。

メリットとして大きいのは、場所や時間を選ばず手軽に受講できることです。一人で集中して取り組めること、要点をまとめたテキストが手元に残ることも通信研修ならではのポイントですね。

実際、通信研修はサービスの最前線で働く従業員の受講が多いです。鉄道の現場で働く場合などは勤務時間がさまざまで、泊まり勤務が必要なこともあります。時間を有効活用して学べる点は、受講した人からも好評です。

武士

通信研修の受講促進には会社として制度を整える必要も

――通信研修の受講状況をどう見ていますか。

現状では、受講率は高いとは言えません。通信研修は提出物が決められていたり学び終えると修了証がもらえたりするので、勉強を継続しやすく、修了すればそれが成功体験になると思っています。従業員には、より積極的に活用してほしいと思っています。

武士
砂原

現在は学び方が多様化しており、例えばインターネットで学びたいテーマについて検索して動画を見て勉強する方法もあります。独学したければネット書店で本を探し、古本を安く手に入れることも可能です。一人で学習計画を立てて勉強できるタイプの人であれば、最適な学習手段を自分で選択できるはずです。

一方で社内で学ぶ文化が醸成されていなければ、人材育成部門が従業員にいくら「勉強してほしい」と言っても、受講率は上がらないでしょう。ですから、主体的な学びを促す工夫が必要だと考えています。

例えば、通信教育の受講費を補助する制度をもっとアピールすることも必要かもしれません。また、勉強する時間を確保できるよう、制度の構築を含めて考える必要があるかもしれません。

人的資本経営は多様性の受容と活用がカギを握る

――人的資本経営の観点から、今後の人材育成のあるべき姿はどのようなものだとお考えですか。

砂原

多様性がキーワードになると思っています。近年は従業員の価値観や働き方が多様化し、従業員に求める能力も多様化しているわけです。これらの多様性について、企業はどう受容し活用していくのか、検討する必要があります。

多様性を受容しながら従業員の働きがいを高めていくため、人事部門には、一人ひとりが学び続けることによって自身のキャリアの充実を図れるような仕組みや制度を提供することが求められるでしょう。その文脈でも、リスキリングに繋がるような制度の充実が必要と考えています。

また、一人ひとりがイメージしているキャリアビジョンと実際の配属を繋げる制度を導入できれば、人的資本経営の強化に間違いなく繋がると思いますし、それが企業と従業員の成長の実現に繋がるのではないかと思います。

デジタルやAIを活用する業務フローの変革や業務自体の変革はさまざまな領域で求められており、人事部門も例外ではありません。今後はより進化したラーニングマネジメントシステムが開発され、人材育成も一人ひとりによりマッチしたものに進化していくのではないかと思います。

例えば人材に関するさまざまなデータをラーニングマネジメントシステムにインプットして分析できれば、上司は分析結果に基づいて部下に対するサポートや指導、マネジメントの方法を最適化できるでしょう。人材育成部門としても、足りないスキルや知識は何かを把握して研修を行ったり、その人の弱みや強みを明確化しつつ弱いところをフォローしたりすることで本人の成長を適切に促せるようになる可能性があります。今後の検討課題です。

武士

より良い人生を送るため必要なことを考えれば自ずと学びたいと思える

――最後に「学び」「キャリア」についての考えをお聞かせください。

私は自分のキャリアについて主体的に考える「キャリアオーナーシップ」が重要だと思っています。自分はこの先どのような仕事をしたいのか、どのようなことに取り組みたいのか、自分の意思を持ってこそ、流されることなく充実した人生を送れるのではないでしょうか。

キャリアは約7割が偶然で決まるものだとも言われ、自分が思ったとおりの仕事ができるとは限りません。しかし偶然に巡ってきた機会を主体的に活かすことはできるはずです。そのためには準備が必要であり、その中には当然、学ぶことが含まれると思っています。

自分自身の現在の業務について言えば、これからいわゆるZ世代がどんどん入社してきます。価値観や育ってきた環境が異なる人材をどう育成しマネジメントしていくのかを考え、学んでいくことが必要だと思っています。

武士
砂原

私は自分の会社人生やプライベートをどのように充実したものにしていくか、どのような人生を歩んでいきたいかを考えることが重要だと思っています。節目節目で自分のキャリアビジョンに向き合えば、今の自分に足りないものが自ずと見えてくるはずです。

私自身、人事の仕事に長く携わる中で過去の経験や感覚に頼るだけでなく、その背景にある理論を学びたいと思うようになりました。また、人的資本経営やエンゲージメントが注目される中で、その本質を知りたいと感じるようになりました。こういった問題意識に向き合うためには体系立てて学ぶことが必要だと考え、今年4月から大学院に通って組織論などを学んでいます。私はこの経験から、「自分が感じる課題をどのように解消すべきか考えることが、学ぶきっかけに繋がるのではないか」と思っています。

これをシンプルに言い換えると、一人ひとりが「より良い人生を送るためには自分に何が必要か」を考えれば、自ずと学びたいと思えるのではないか――ということです。政府や企業に求められるのは、働く人が学びたいことを学べるよう後押ししていくことではないかと思います。

私自身、大学院で学びたいと思えることが見つかり、今とても充実しています。多くの従業員に同じような気持ちになってもらうためには人材育成部門として何をすべきか、考えていかなければならないと思っています。

――——貴重なお話の数々、誠にありがとうございました!

(2022年8月19日取材・撮影)

この記事は、通信研修総合ガイド2023特集ページ「人的資本と人材育成」の一部です。
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