「データを用いて人を活かす」これからのマネジメントに必要なスキルに関する話

「データを用いて人を活かす」これからのマネジメントに必要なスキルに関する話

本コラム執筆者

福岡 宣行

(ふくおか のぶゆき)

学校法人産業能率大学
経営管理研究所 戦略・ビジネスモデル研究センター 主任研究員

主にデータサイエンスやDX人材育成に関する研修や研究開発を担当

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これからのマネジメントに「データ活用」が重要な理由

「マネジメント」とは、元来「管理・処理・経営」という意味をもち、一般にマネジャーはそれに携わる立場の者を指します。転じて、マネジメントには自身だけでなく「“人”を通じて成果を生み出す」という考え方が含まれています。すなわちマネジャーの仕事は「人を活かすこと」であり、人の活かし方を考え、実践することがマネジャーのミッションです。
とはいえ、頭ではわかっていてもその理想と現実のギャップに頭を悩ませるマネジャーは少なくありません。マネジメントには形式知化された方法や手段がほとんど存在しないがゆえに、自身の過去の経験で培ってきた暗黙的な知識に頼ってマネジメントを行ってしまうケースがあります。これがいわゆる「経験と勘によるマネジメント」です。
多くの人が肌で感じていることですが、企業を取り巻く環境や働き手の労働観の変化によって、経験と勘だけで導かれるマネジメントは通用しなくなってきています。多様な環境で、多様な人材をマネジメントすることが求められる時代となった今、マネジャーのマネジメントには意識レベルで大きな変革が求められています。

例えば、現在多くの企業で課題となっているデジタルトランスフォーメーション(以下、DXと記述)を推進する場合を考えてみましょう。DXを広義で捉えると、推進にあたっては下記のような段階があります。

  1. アナログデータのデジタル化(=デジタイゼーション)
  2. デジタル化されたデータを活用した業務の改善(=デジタライゼーション)
  3. 組織の変革・イノベーションを起こす新たなビジネスモデルの創造(=デジタルトランスフォーメーション)
デジタルトランスフォーメーション推進 3つの段階

いずれの段階においてもデータの活用が鍵となるため、これらを実行するうえで意思決定の一旦を担うマネジャーには、判断の質や速度を向上させるためのデータ活用の知識やスキルが求められます。また、マネジャー自身が普段のマネジメント場面でデータを活用することで、効率的かつ効果的な職場運営が可能となります。その積み重ねの結果として、組織全体のデータ活用の機運が高まるといった副次的な効果も期待できるでしょう。
このように、組織の中心に位置するマネジャー自身がデータを活用し新しいマネジメントスタイルへ変革することが、DX実現に向けた重要な足掛かりとなります。
ここまでを踏まえて、これからのマネジャーに求められるのは、「人を通じて成果を生み出す」従来のマネジメントに「データを用いて人を活かす」という考え方を取り入れた新しいマネジメントであるといえるでしょう。

では、「データを用いて人を活かすマネジメント」を実践する上で必要なこととは何でしょうか?最も重要なポイントは、マネジメントの課題に対して解決に必要なデータや分析手法を適切に選択し、課題に紐づけて実行する「データを活用した課題形成力」です。

従来の課題形成に「定量的な情報」を加える意義

マネジャーが職場の中で課題を形成する代表的な場面として、職場の目標達成のマネジメント、部下指導のマネジメント、チームワークのマネジメントなどが挙げられます。
経験や勘だけでなく、データを活用してこれらのマネジメントに取り組むには、それぞれの場面で「課題を形成する力」が今まで以上に求められるのです。

多くのビジネスパーソンが理解していることですが、課題を形成するには仮説が必要です。仮説を立てるには、まず知識や経験に基づく定性的な情報を元に、問題の因果関係を客観的に捉えるのが一般的です。従来の課題形成ならこのような定性的な情報の整理で十分だったかもしれません。しかし、これからの課題形成には、それに加えて「仮説の正しい検証」が不可欠です。そこで必要なのが定量的な情報を取得し活用することです。

マネジャーは従来の定性情報とデータに基づく定量情報の両方を扱い、仮説構築と検証をくり返しながら効果的な課題解決へとメンバーを導きます。
また、データ活用の場面では、想定した成果が得られるかは実際に検証してみないと分からないことが多々あります。マネジメントにデータを活用することの意義や効果を知り、知識学習だけでなく実務で活用できた体験を通じて、マネジメントへのデータ活用を前提とするマインドを醸成することが不可欠です。

「データ活用知識・スキルの習得」は“特技”ではなく“必須能力”

マネジメント課題の仮説をデータで検証するとともに、これまで気づかなかった部下の要望や顧客のニーズ、問題の原因などを探索し発見するためには、データ活用知識・スキルの習得が欠かせません。具体的には、データの取得・ハンドリング・分析・評価という一連のデータ活用プロセスを理解し、分析手法を実践的に使いこなすスキルが必要です。また、DXを進めていく組織のマネジャーは、データ活用によって自身のマネジメント業務を効率的・効果的にするだけでなく、メンバーが出してくるデータ分析のアウトプットを評価・フィードバック・判断しなければなりません。そのためにも、従来のマネジメントスキルに加え、データ活用知識・スキルを身につける必要があるのです。

データドリブンマネジメントの実践場面の例
「データドリブンマネジャー研修」詳細ページから引用

マネジメント場面における具体的なデータ活用事例

マネジャーのマネジメント場面の1つである、「目標達成のマネジメント」で具体的なソリューションを考えてみましょう。

マネジャーは職場目標を達成するために目標達成に貢献する行動目標を設定して部下に実行させます。その指標としてKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を取り入れている企業が多いなか、KPIの優先順位の見極めに課題感のある企業は少なくありません。データ活用はKPIの設定と運用において、大変有効な手段の1つなのです。
KPIの設定には、職場の目標(売上目標等)に対して影響を与えていると考えられる行動(顧客への接触頻度等)との因果関係の仮説を立て、データで検証し、目標値の達成をモニタリングすることでメンバーを通じて職場の目標達成に導くことができます。

そこで決定木※1という手法を使えば、過去の案件データ等から因果関係のパターンを自動的に抽出してどのような行動が結果に強く影響を与えているかを示すことができます。マネジャーの経験をもとに目標につながる行動の仮説を立て、その行動を測定するデータを取り、決定木で検証することで非常に強力なKPIが設定できます。
例えば、「過去の取引が2回以上の顧客に対して接触回数を5回以上とると受注しやすい」といった目標行動の対象やその行動のレベルまでも導くことができます。データは人間の勘と経験則だけでは及ばない情報を提供してくれる可能性があり、マネジャーの意思決定がより効果的なものになります。

「決定木」イメージ図
※1 注目するある事柄が生起するルールを分岐型の樹状図で表現できる分析手法

データドリブンマネジャーを育成するために

産業能率大学では、先述した「意思決定を担うマネジャー層のデータリテラシー・データ活用スキル不足」という課題を解決に導く「データドリブンマネジャー研修」をご用意しています。

  • DX推進に向けてマネジメント層にリスキリングさせたい
  • 現場のマネジメントが経験や勘に基づいたものであるため、データに基づいたマネジメントを浸透させたい
  • 業務の生産性や効率を向上させたい

上記のようなお悩みをもつ企業のマネジメント層を対象に、日々のマネジメントの場面におけるデータの効果的な活用方法を学び、「データを用いて人を活かし、成果を創出できるマネジャー」=データドリブンマネジャーを育成します。