「マネジャー教育のあり方を問い直す」~課長が育つための適切なタイミングとアプローチを再考する~

「マネジャー教育のあり方を問い直す」~課長が育つための適切なタイミングとアプローチを再考する~

ダイバーシティ、生産年齢人口の減少、働き方改革、技術革新(AI、DX等)、VUCA時代、そしてニューノーマル。ここ数年を振り返ると、事業環境を変化させる重要なキーワードが次々と生まれています。 企業は、こうした激しい環境変化を乗り越えるため、事業や組織のイノベーションに着手していますが、その際に会社・組織の役割期待に応えるべく奮闘しているのが、現場の最前線を支えるマネジャーです。 ところが、将来に向けた見通しづけがますます難しくなり、これまでの成功体験だけではマネジメントがうまく機能しない状況に直面し、苦悩するマネジャーも増加しているようです。

それでは、この状況を打開し一歩踏み出すために、マネジャーは何をするべきなのでしょうか。また、人材育成部門は、こうしたマネジャーを支える教育機会のタイミングやアプローチを、どのように考えたらよいのでしょうか。

当コラムは2021年6月30日(水)に実施されフォーラム「マネジャー教育のあり方を問い直す~課長が育つ適切なタイミングとアプローチを再考する~」の内容を基に、上記の問いに対して、「変化の激しい時代だからこそ、既任マネジャーの教育が重要である」ことをメッセージとしてお伝えします。

【ダイジェスト版】マネジャー教育のあり方を問い直す(視聴時間:5分30秒)

マネジャー教育の意義

難易度が高まるマネジメント

変化の激しい事業環境の中、多くのマネジャーはプレイヤーとしての業務を抱えながら※も、働き方や価値観の異なる多様なメンバーをマネジメントし、新しい技術も活用しながら生産性を高めることが求められています。さらにはテレワークや感染拡大防止策などを講じながらも業績を担保しなければならない状況にあり、マネジャーの負荷や抱える課題は、ますます増加するばかりです。

メンバーとのリアルな対話機会も減り、業務指導やマネジメント発揮場面においては、自身が思い描くような職場ビジョンが正しく伝わらず、期待されている行動が十分に発揮されないことも多くなっています。

【マネジャーが直面している問題の一例】

現在の状況を打開する打ち手が見えにくい中、今後に向けメンバーの共感と安心につながるような職場ビジョンを描くことが難しい。

自分なりに考えた職場ビジョンをしっかり伝えてはいるが、相変わらずメンバーの指示待ち姿勢が変わらない。

1on1ミーティングの重要性や目的を理解した上で、いざやってみると話が思うように展開せず、育成的観点よりも最後は、マネジャーの考えを伝える指示型で終わってしまう。

これまでメンバー行動に目を向けながら人事評価をしてきたが、オンライン上では、日々のプロセスにおける行動観察が難しく、人事考課の観点を見直す必要がある。

多忙な業務の大半は、現業の効率性改善に追われ、次の一手を考えるような時間やアイデアの創出、情報の収集や検証する機会等が損なわれている。

これらの問題に共通するのは、これまでの経験則や原理原則の学びによるマネジメントだけでは、今の厳しい状況には通用しづらいという点です。しかし、こうした環境変化の中で、まずはマネジャーの行動が変わらなければ、メンバーも期待するようには動いてくれません。
多くのマネジャーは、「今まではおおよそうまくいっていたが、ある時からうまくいかないことが多くなってきた」ことを、多かれ少なかれ感じているのではないでしょうか。

自身のマネジメントをブラッシュアップする機会

前述の例で考えると、マネジャーは、「職場ビジョンの重要性や描き方」「職場ビジョンや方針の伝え方」「1on1の目的や進め方」「人事考課のポイント」「革新に向けた発想転換の必要性」といったことを知識としては理解しています。ところが、日々現場のマネジメント場面では、さまざまな新しい難題に直面し、これまでの学びだけでは解決できないことの多さに気づき、その解決に向け、悩んでいます。
ではどのようにしてこの問題や状況に取り組んでいけばよいのでしょうか。

悩みや難題を解決するための手段や知識を学ぶのではなく、環境変化が激しく、どのような問題に直面するか分からない状況においては、「うまくいかないことは必ずあると考え、それをただの失敗として放っておくのではなく学習機会して捉え、成長の糧にする」という前提意識をまず持つことです。また、マネジメントスタイルを変えられないのは、内省する機会が不足しているからです。まずは、「その自身のできていないことを受け止め、その理由を考え内省をし、今後どうすべきかを“考える機会”をつくる」ことが、何より大切だと考えます。

マネジャー教育の適切なタイミングとアプローチ

変化の激しい時代だからこそ重要な既任マネジャー研修

マネジャーの教育機会を考えると大きく3つのタイミングがあります。

マネージャーの教育機会

最近では、多くの企業で人事制度上マネジャー候補者をプールするような等級を設置し、候補者教育を行うことも多くなっていますが、圧倒的に研修機会が多いのは、やはり新任時です。

課長教育が実施されるタイミングに関するアンケート
多くの企業は、課長教育を新任時に実施していることが分かる

今回、既任マネジャーの教育機会を「マネジメントの実務経験を積んだ上でブラッシュアップするための教育機会」として位置づけていますが、この機会を実際どのように設けていけばよいのでしょうか。

限られた教育予算の中で、3つのタイミング全てで十分な教育を実施することは難しいかもしれません。しかし、新任マネジャーの教育では、eラーニングを活用することや、既任マネジャーの教育でも知識の部分はeラーニングを活用し、その後知識以外の部分は2日や3日も拘束するのではなく、1日か半日で、学習したことの振り返りやお互いに対話しながら考えていくような研修の形態をつくり、教育予算をうまく配分する企業・組織も増えてきています。
また、既任マネジャーの教育機会をつくればそれでよい、ということではありません。予算や実施形態以上に大切なことは、多忙な中で参加する既任のマネジャーに、その教育機会を有意義なものとして受け取ってもらうことです。「日々のマネジメントをやっていて、うまくいかなかったことや、それをどうしたら良くなるのかを考える機会である」として意味づけ、参加することを有意義だと思ってもらうことが大切です。

既任マネジャーが自分自身でマネジメント上の課題が解決できる場合はよいのですが、実際は解決のヒントが出てこないことや、どのような観点から探ればよいのか分からないことのほうが多いのではないでしょうか。また、既任のマネジャーは経験があるがゆえに、無意識に前提条件としたり、自分のやり方に固執したりしがちです。実はそこにメンバーがどんどん離れていく原因であることに気づかないことがあります。そうした、前提や先入観に対して、素朴に突っ込む役割の存在(外部のファシリテーター)が意外と大切になってきます。
こうした教育の機会づくりは、悩んでいる、困っていることへの手がかりを多く持ち帰ることができるので、その後の行動変容がより目に見えるようになってきます。

マネジャー教育をブラッシュアップするにあたり

既任マネジャーの教育は、「マネジメントの実務経験を積んだ上で自身のマネジメントをブラッシュアップするための機会」と位置づけることができます。ただし、画一的に管理職になって3年目や5年目にやったほうが良いという訳ではありません。人材育成担当者が自社・自組織の置かれている環境・状況を勘案し、既任マネジャーの適切なタイミングとアプローチを模索・検討していかなければなりません。

また、それ以外のマネジャー教育との関連性や連動を考慮する必要もあります。人材育成担当者として、単純に既任マネジャーの教育タイミングやアプローチを考慮するだけでなく、自社・自組織の既任マネジャーの状態に目を向ける必要があります。その上で、これまでの教育アプローチが適切であったかどうか、過去の教育アプローチに対して謙虚に振り返ることも必要でしょう。

既任マネジャーの教育を、マネジメント経験のブラッシュアップ機会とするならば、2日や3日の集合研修ではなく、現場と行ったり来たりできるような仕掛け (試行と検証の繰り返し)をつくることが、重要です。

なぜならば、現場と研修機会の往還が、既任マネジャーの学びや気づきを誘発・促進するからです。テレワークが推進されたことにより同期・非同期、対面・非対面対面を組み合わせることができる環境が生まれました。そうした形態の選択と組み合わせによる学びのデザインが既任マネジャーの機会でも求められてくるでしょう。例えば、3か月後に2時間程度、オンライン上で集まり、対話をするような仕掛けも環境が整っていれば、デザインすることが可能です。毎回交通費・宿泊費をかけずとも、ブラッシュアップの機会はデザインすることができるのです。機会をつくり、対話する場を通じて生まれた学びや気づきが、既任マネジャーの行動変容につながっていくのです。

環境が大きく変わり、マネジャーも仕事の進め方を変える必要性は強く認識しています、しかし、多忙と苦悩により、その解を見いだせずにいます。だからこそ、このタイミングで既任のマネジャー教育機会を設けることが大事になります。

既任マネジャーの教育機会づくりに向けて

  1. マネジャーがマネジメントの難しさを知り、できていない自身を振り返れるのは、マネジメントの現場に出された後でしかない
  2. マネジメントの原理・原則は不変としながらも、そこに新たな工夫や観点を取り込むための機会をつくる
  3. 単に考える機会をつくるだけではなく、これからの時代を考える上での観点をしっかり盛り込む
  4. 既任マネジャーの教育機会には、前提や先入観を問い直す役割の存在が必要不可欠
  5. 同期・非同期、対面・非対面を組み合わせた教育のデザイン
  6.  

「Management Update研修」をリリース

産業能率大学では、昨今の環境変化の激しさを踏まえて、新たな既任マネジャー向け研修として「Management Update研修」をリリースしました。さまざまなご要望にも対応できるよう標準系として2日間プログラムとしていますが、前述の通り、あらゆる学習デザインに対応すべく、柔軟にカスタマイズができるようにしています。変化の激しい時代、これまでのマネジメントのプロセスをアップデートする観点を学び、内省できるよう構成しています。
詳しくは、「Management Update研修」(別窓)をご覧ください。

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