アフターコロナの、レジリエントでイノベーティブな組織づくり 

レジリエントでイノベーティブな組織をつくる

求められるレジリエンス

リーマン・ショックや数多の震災を経た私たちは、「変化が常態である」ことを胸に刻み、先行きに対する備えをしてきた“つもり”であった。しかし、新型コロナウィルスがもたらした危機は、私たちの社会や事業基盤の脆さを改めて浮き彫りにした。もとより、事業活動は未知との戦いの連続である。だが、日々の緊急案件への対応に追われるばかりでは、組織も人も疲弊してしまう。私たちが未来に向けて持続的な成長を望むならば、企業のレジリエンス強化を第一に考えなければならないだろう。

レジリエンスの3つのポイント

レジリエンス、つまり企業の再生力を強化するポイントは「冗長化」「能動化」「精緻化」の3つである。

「冗長化」

「冗長化」とは、例えば事業領域や組織形態をダブリなくきっちりと分化して設計するのではなく、変化に備えるためにあえて重複させておくことを意味する。また、課題解決に当たって、一つの方法論や解決策に絞り込むことを避け、多様なアイデアや選択肢を可視化して残しておくこともここに該当する。

「能動化」

「能動化」とは、社会や市場に対して意図的に数多くの実験を仕掛け、試行錯誤の経験知によって組織を強くさせることを意味する。ただし、企業体力が弱っているときにこれを行うと逆効果だ。ある程度は効率性とトレードオフさせる覚悟を持ち、日頃元気な時から意識的に活動しておくべきである。

「精緻化」

最後の「精緻化」は、活動の可視化と細部にわたる管理、リスクマネジメントの精緻化、そしてパーパス(組織ミッション・ビジョン)と活動との連携などを意味する。組織は人体と同じである。レジリエンスの弱い組織は、知らず知らずのうちに部位の動きがバラバラになり、無軌道な動きをし始める。強い組織は、意識せずとも指先の一本一本まで神経が行き届いているものだ。

レジリエントな組織づくり

強い会社は、パーパスが浸透し、皆が共感している。当然のことのように思われるが、危機時こそ求心力の有無が成果の差となって表れやすいと言える。また、強い会社は幹部が変化に敏感で、新しい取り組みをすることに積極的に支援している。変化にもっとも敏感であるべきは、現場の営業ではなく「幹部」なのだ。現実として、これができていない会社がとても多い。

さらに、強い会社は、KPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)が明確で、業務の統廃合や組織改編が頻繁に行われている。KPIが不明確な組織では、その前提となる目的(つまりパーパス)が共有されていないことが多い。「何のために何をどこまでやるのか」が曖昧なのだ。そして、仕事が人に付く状態が続き、既存の体制や仕組みが保持され続ける。

今後、私たちの社会は新たな危機を迎え続けるだろう。備えるべきことと変えるべきことを見極めて、意思決定を重ねていかなければならない。

イノベーティブな組織づくり

さて、レジリエントな組織づくりの目途がついたら、さらに踏み込んで、「イノベーション」にまで思考を巡らせたい。経済学者のシュンペーター曰く、イノベーションとは「知と知の新たな組み合わせ」である。新たな組み合わせを生み出す土壌は、ヒトや情報、技能の多様性を育むことで豊かになる。多様性の軸は多ければ多いほど良い。軸が少なければ、対立構造が生まれるだけである。

とはいえ、知と知を組み合わせる過程では、ある程度の葛藤や対立は起こり得る。大事なことは、人間関係上の対立を最小化しつつ、発想や構想レベルでの対立を大きくすること。そのためには、協働して互いを知ること、互いを尊重し合うことが必要だ。

また、イノベーションの具現化にあたっては、個人の創意工夫を最大限に発揮させること、いわば遠心力を自在に働かせることが重要だ。かたや、遠心力はしっかりとした求心力があってこそ初めてその力が最大化される。組織における最大の求心力はパーパスである。

ここまでの流れをまとめるならば、「パーパスが上手く機能し、多様性や個人の裁量が確保され、互いにリスペクトしあいながら建設的な対立を起こしている組織において、イノベーションの必要条件は整う」という仮説に到達する。知と知の新たなを組み合わせが起こるような組織風土の醸成が求められる。

執筆者プロフィール

飯塚 登(Noboru Iizuka)

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所 戦略・ビジネスモデル研究センター長
主席研究員 総合研究所教授

※筆者は、管理職研修、中長期ビジョン・戦略の策定、
 新規事業立案コンサルティングを担当。
※所属・肩書きは掲載当時のものです。

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