不確実性のマネジメント【全3回】
第1回 変革行動を身につけて不確実性をマネジメントする

執筆者プロフィール

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所
主幹研究員 内藤 英俊

※筆者は主に、変革時代に対応した思考、リーダーシップ、コミュニケーションスキルトレーニングを担当。
※所属・肩書は掲載当時のものです

プロフィールの詳細はこちらから


今から1年前、「>未来環境をデザインして不確実性に備える」を寄稿しましたが、不確実性はさらに高まっているようです。今回から3回シリーズで、withコロナの時代に求められる「不確実性のマネジメント」について考えてみたいと思います。

不確実性の増加はこれからが本番

多くの方が実感されているとおり、世界経済の不確実性は年々増しています。経済の先行き不透明性を定量化するために考案された経済政策不確実性指数1は、数年にわたって上昇傾向を示しています。1997-2015年の平均値を100とすると、ピーク時の指数が2016年に270、2019年に339、コロナ禍に直面した2020年4月には423に達しました。

今後も経済政策の不確実性は一層強まると考えられます。コロナ禍は確かに大きな影響をもたらしましたが、世界経済を不安定化させる要因は他にも多く存在するからです。

世界経済フォーラムのグローバルリスクレポート2では、「発生の可能性(Likelihood)」と「影響が大きい(Impact)」という2つの観点からグローバルリスクが評価されています。新型コロナウイルスのような感染症は例年、「影響が大きい」というカテゴリーで10番目です。トップ10には、異常気象、気候変動対策の失敗、情報インフラの故障などがランクインしています。それらのリストとは別に、2020年に悪化すると予測された短期リスクとして、経済対立、国内政治の2極化、異常な熱波などが挙げられていました。つまり、コロナ禍と同じくらい世界を不安定化させるグローバルリスクが、長期的にも短期的にもまだまだ沢山あるのです。

さらに今日は、フェイクニュースや市場リスクが瞬時に世界に広がる高度情報化社会です。これからのリスク要因が複雑に絡み合い、相互に影響し合うため、良くも悪くも不確実性が格段に増幅されます。
2020年にコロナ禍は大きなインパクトを与えましたが、不確実性の増加は2021年以降が本番と言えます。

  1. Economic Policy Uncertainty Index(https://www.policyuncertainty.com/
    日本語の統計資料では、独立行政法人経済産業研究所のレポートを参照のこと。
    https://www.rieti.go.jp/jp/database/policyuncertainty/data/japan_annotated_series.pdf
  2. World Economic Forum, The Global Risks Report 2020 15th Edition, 2020年
    英文報告書は https://www.marsh.com/jp/en/insights/research/global-risks-report-2020.html

不確実性には「計画」だけでは対処できない

不確実な状況への対処方法に計画化があります。具体的には、不可実性がもたらす危機的状況を事前に想定した、コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)やBCP(事業継続計画)の策定です。計画化は、「不確実性回避傾向」指数3が高い日本人気質に合った対処方法と言えます。しかし、今回のコロナ禍で皆さんの所属企業・組織が具体的な行動を取ろうとした際、これらの計画がどの程度役に立ったでしょうか。

一般に、計画が厳密かつ詳細になると、人は事態を完全に把握できているという誤解をもたらします。そして、直面した事態に対して、事前の計画に照らし合わせて何をすべきか考えてしまい、かえって行動がとれなくなることがあります4

コンティンジェンシープランやBCPも含め、組織活動における計画の重要性について疑う余地はありません。しかし、今回のコロナ禍のような大きな危機に直面すると、人は計画の意味や限界を見失ってしまい、スムーズな行動に結びつけるのが難しかったのではないでしょうか。その一つの背景要因が確証バイアス5です。計画の存在が、目の前の現実を正しく認知させるのを難しくさせてしまうのです。

  1. ホフステッドの6次元モデルより(https://www.hofstede-insights.com/country-comparison/)。
    前回の稿で紹介した通り、「不確実性回避傾向」指数が高い国民は事前のルールづくりを重視する。
  2. カールE.ワイク『「不測の事態」の心理学』DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2003年10月号
  3. 認知バイアスの一つで、人は自分に都合の良い事実だけで仮説を論証しようとする。前回論じたとおり、確証バイアスを回避する手段として効果的なのが、未来環境のシナリオを検討することである。

変革行動をとり、不確実性をマネジメントする

不確実で急激な変化に直面しているからこそ、現場での行動こそが正しい現状を認識するために重要な手段となります。より正確には、行動を通じて情勢を観察・判断し、それを次の行動につなげ、再び行動することで現状理解を深めるという、ループを回すのです。これは、OODA(ウーダ)ループ6と呼ばれる考え方です。実際、コロナ禍の中で多くの方が無意識にこのループを回していたのではないでしょうか。

コロナ禍の直撃を受けた飲食業界では、何とか売上を確保すべく、さまざまな試み(例:デリバリー、テイクアウト、出張シェフ、レシピ販売、ミールキット販売など)がなされてきました。しかし、それらはあらかじめ計画されていたわけではありません。日々変化する顧客の様子を見ながら、現場で判断し実践されたアイデアでした。そして、それを繰り返す(OODAループを回す)中で、宅配サービスを充実させたり、新たな事業の可能性として「おうち時間」という機会も見えてきました。

つまり、「行動」には、仕組みを改善するためのフィードバック機能と、新たな機会を探索するためのフィードフォワード機能の2つがあるのです。コロナ禍を生き抜くためには、この2つの機能をもった「変革行動」を推し進め、企業の自己変革につなげていくことが不可欠になります。
企業の自己変革については次の稿で触れたいと思います。

  1.  チャット・リチャーズ、『OODA LOOP』、2019。OODAを「ウーダ」と呼ぶ。OODAは、観察(Observe)、情勢判断(Orient)、意思決定(Decision Making)、行動(Action)の略称。